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LGBT高齢者が共同生活できるシニアハウスの設置を目指す久保わたるさん
コロナ禍のなか、上野や浅草のゲイバーを回り、店舗継続につながるプリントを配布している方がいるとネットの記事で知り、会ってお話を聞きたいと思いました。現在、ゲイの高齢者のシニアハウスの設置を企画している久保わたるさんへのインタビューです。
日経BP「BEYOND HEALTH」に掲載された「高齢LGBT、その力になる見守りサービス」という記事で、コロナ禍のなか上野や浅草のゲイバーがお店を継続していけるように、氏名や住所等、必要事項を書き込むだけで店舗家賃減額を申請できる書式書類などを配り歩く活動をしている方がいることを知り、いたく感銘を受けてお話を聞こうと思いました。
久保わたるさんはゲイであることをオープンにしている方で、2018年11月に「高齢者問題をビジネスで解決する」という理念でアライアンサーズ株式会社を立ち上げました。「適正な利益を出し、永続的にLGBT高齢者支援をすることを軸に、既存・新規のLGBT支援に関わる団体や個人に高齢者支援の必要性を訴え続けてきました。共感の輪が広がってきました。ようやくLGBT高齢者の相互扶助のための住宅問題へと着手できるところまできました」と久保さんは語っています。
昨年、LGBT終活等の老後生活支援任意団体ラムダ(LGBT包括生活支援連絡協議会)を立ち上げました(「ラムダ」は「Legal, Assisting, Medical and welfare Designing Assembly」の頭文字から取られた名称)。主なメンバーは、LGBTフレンドリーな医師、石神井公園駅前えんじゅ内科クリニック院長の北村浩さんと、行政書士、社会福祉士で元文京区議の前田邦博さんです。ラムダメンバー内で意見交換しながら、LGBT高齢者のサポート活動をより深化させるためにチームで始動したそうです。すでにLGBT高齢者のための生活相談を始めたり、ゲイの高齢者向けのコミュニティづくりの企画もしています。
そんな久保さんに、LGBT高齢者支援への思いについてお話を聞いてみました。
(後藤純一)
−−そもそも久保さんが、高齢者支援のアライアンサーズという会社を立ち上げた際には、LGBTの高齢者を支援したいという気持ちがあったのでしょうか?
もともと、うちの一家が経営者一族であったため、自分も会社経営をしたいと考えていました。サラリーマンをしながら、どの分野の事業を立ち上げるか、何に人生をかけるか考えていました。
人生観を変えるような出来事がいくつかありました。
一つめは、私は学生時代にゲイバーでバイトをしたときの体験です。お店のママが、お酒などで体を壊してしまったことです…。
二つめは、友人の自殺です。うつ状態であった彼が自殺する一週間前に「ゲイに生まれて、この先長く生きていく意味がないよね」と言い残していきました。
私は、これらの経験から、老後を含めたゲイの人生について深く考えるようになりました。
様々なことを調べるなかで、ゲイの老後問題は複合的な問題(例えばHIVなどの性感染症やうつ病などで向精神薬を服用することによる副作用で認知症を誘発するリスクなど)であると気づき、これを解決するためには、持続可能な組織であることと、他社も含めたチーム組織である必要性を感じ、アライアンス手法で問題を解決しようという思いで、アライアンサーズを立ち上げました。
さらに活動を発展させるために前田さんや北村さんのご協力とご理解をいただき、ラムダという専門家チームを立ち上げました。
ーー今回、コロナ禍の影響で、上野・浅草のお店を心配し、「新型コロナウイルス感染拡大防止協力金」の申請や家賃減額申請書についての案内をご自身で配り歩いたそうですが、なかなかできないことだなぁと、いたく感動しました。そこまでしようと思った気持ちをお聞かせください。
昨年秋、とある上野のゲイバーのマスターから「苦しくて、震えが止まらない。助けてほしい」という電話がかかってきました。すぐにご自宅に駆けつけ、病院に連れて行きました。その方のお部屋を片付けていると、終活のリーフレットが出てきて、老いや死に対する恐怖と闘ってきたんだな…と切なくなりました。
マスターは今も療養中ではありますが、病院へ面会に行くとご本人にも喜んでいただけています。
今回そのマスターから学んだことは、特に孤独に陥りがちな高齢ゲイの方にとって、ゲイバーでの人間関係のつながりがいかに大切か、ということです。
今もそのほかの上野のゲイバーにお世話になっていることもあり、ふだん受けていることへの恩返しをしようと思いました。
ーーそうでしたか…。その上野のお店のマスターは、もともとのお知り合い?
初めは、終活の講座に参加された方でした。それをきっかけに、お悩みを聞いたり、私もお店に飲みに行かせていただきました。
そのようななかで、マスターの体調が悪化し、お店を閉店することになったのです。本来、私がしている終活カウンセラーとしては、手続きをし、交通整理だけをするケースが大半なのですが、突然の閉店で、マスターとお客様がお別れもできないのはよくないと思いました。マスターは定年後、九州から上京し、上野で団塊世代のための交流の場としてお店をつくりました。私は「マスター、最後にお客様にしっかりお別れを言うためのお別れ会をやりましょう」と言い、その一言でマスターは涙を流し、喜んでくれました。今でも忘れません。
いざ、お別れ会の告知をしましたら、お客様どうしの口コミで多くの方が集まり、上野のネットワークのすごさを感じました。同時に、お店が無くなった後、ご高齢の方が新たにお店を開拓することも困難だと思いました。もうその店しかないという方も結構いらっしゃいました。お一人お一人お話を聞くと、朝からビールを飲んで憂鬱な時間を過ごしているという方も多くいらっしゃいました。
ーーそうだったんですね…。私も過去に、友人や知人が突然亡くなる…うつの重症化による自死で亡くなった方や、突然の病気で亡くなった方もいましたが、都会で独り暮らしだと、発見が遅れたり、亡くなったあと連絡がなかなかつかないこともあり、ネットワークや当事者の支援活動は本当に大切だと思っています。ゲイの人たちが、いざ、深刻な状況になったとき、ここに助けを求めようと思える「駆け込み寺」のようなものがあったら…と、ずっと思ってきました。
プライドや、自己肯定感の低さなどに起因しているのかもしれませんが、不安や、現在の生活上の問題を打開するために「助けて」と人を頼れない人が本当に多いと感じます。
飲み屋で寂しさをまぎらわせるためにお酒(アルコール)への依存になる方や、うつ状態になってしまう方もいます。高齢になると肝硬変や糖尿病などの基礎疾患のある方も多く、突然の入院など、生活が激変するリスクもはらんでいます。しかし、人を頼れずに孤立してしまう人が多くいます。
より深い支援を行える団体やコミュニティが絶対に必要です。
アルコール性の肝障害、生活習慣病がうまくコントロールできていないことなどで、病院をかけもちし、ポリファーマシー(多くの薬を服用することで副作用などの有害事象を起こすこと)になっている事例を見てきました。
ーーそのようななか、久保さんがシニアハウスを作ろうとしているというお話を聞きました。実現に向けての意気込みやロードマップを教えてください。
学生時代に『メゾン・ド・ヒミコ』という映画を観て、ゲイの高齢者の生き方を描いた内容に衝撃を受けました。映画がきっかけで、きっとゲイの老人ホームが近い将来にできるのだろうと期待していました。ところが、何年経ってもできませんでした。多くのゲイバーで「老後はみんなで一緒に暮らそうね」という話を聞いてきましたが、具体的なアクションがないままです。
ーー『メゾン・ド・ヒミコ』は、2001年にフィリピンでゲイの老人ホームができたというニュースが元になってるんですよね。その頃からずっと、ゲイ雑誌などでもテーマとして取り上げたりしていましたが、やはり施設をつくるとなると、お金もかかるし、難しいんだろうな、と思っていました。
後期高齢者が人口比率を多く占めるなか、ゲイ高齢者の問題は「待ったなし」です。前田さんや北村先生と議論をし、高齢者の「医療・食(健康)・住」のインフラ整備を早急にすべきだろうという話になりました。
一緒に住むことで孤立・孤食の解消をする「住居支援」。LGBTフレンドリーな医師による「医療支援」。特に高齢者の場合、医療と住環境は緊密であることが望ましいです。ゲイの方に多いHIVなどの性感染症の検査や生活習慣病も、北村先生に診ていただけます(HIV陽性の方には最寄りの拠点病院との連携によるフォローアップもしていただけます)
こうした話から、北村先生のえんじゅ内科クリニックがある石神井公園(練馬区)周辺で、ゲイの高齢者が共同生活できる住居づくりを構想し、動きはじめています。まずは趣旨を理解して一軒家を貸してくださる不動産会社や大家さんを開拓したいと思います。そういう物件をご存じの方がいたら、教えていただきたいです。
ーー物件が決まったら、入居の募集を開始する感じですか?
どちらかというと、集団で住みたい、老老カップルで住みたいという方を見つけながら、物件も並行して探していこうかと考えています。
住居以外にも、法律をうまく利用したサポートも行うことができます。例えばゲイの方の場合、うつ病などによる向精神薬の服用やHIVによる認知症を発症するリスクが高い場合もありますが、もし認知症が発症すれば、ご本人が意思決定できなくなる可能性もあり、そうなる前に任意後見契約※を結んでおいたほうが、ご本人の意向に沿ったケアやサポートができます。
※任意後見制度は、本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来自己の判断能力が不十分になったときの後見事務(本人の生活・療養看護や財産の管理)の内容と、後見人(任意後見人)を、自ら事前の契約によって決めておく制度です(公正証書を作成します)
ーーなるほど。元気なうちに、先々のことや後見人を決めておいたほうが、ご本人にとっても安心ですよね。
そういう意味もあって、50代以降の介護状態でない元気な高齢者(アクティブシニア)に数人、入居していただければ、と考えています。もしその入居者の方々が、要支援要介護状態(ケアシニア)になったとしても、入居者が増えていけば、いずれは別でゲイ向けの介護施設つまりは老人ホーム設置の流れをつくれると考えています。ルールづくりや運営のノウハウなどが蓄積されていけば、他のセクシュアリティの方向けにも広げられるのではないかと考えています。
ーー素晴らしい。まずはパイロット版として、うまくいきやすい方法で、という感じですね。ついに日本でもLGBTのシニアハウスができる、また一つ悲願が達成されるという感慨があります。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
社名の「アライアンス」というのは、協調という意味です。常に相手方の立場に立ち、他社や協力者の方々の利益を優先して考えていくこと、協力者の方々だけでなく、実際に利用してくださる高齢者の皆様の共感を集めるような活動であり続けるようにとの思いです。私たちはできる限り、困り事を抱えたご高齢の方と繋がって、信頼関係を構築し、支援につなげていきたいと思っています。応援をよろしくお願いいたします。
ーー頑張ってください! ありがとうございました。
◆高齢者のゲイ男性へのサポートやボランティアにご興味のある方、ご連絡ください。
ラムダ(LGBT包括的老後支援連絡協議会)
https://peraichi.com/landing_pages/view/lgbtlamda
アライアンサーズ株式会社
https://alliancersjp.com/
参考記事:
高齢LGBT、その力になる見守りサービス(Beyond Health)
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/050800106/
性的少数者の支援事業続々 就職や家探し、老後相談(SankeiBiz)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/200309/bsd2003090500002-n1.htm
LGBT終活等の老後生活支援の本格活動開始のお知らせ(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000042719.html
【メシ友づくり】ゲイ高齢者向けの交流サロン開始のお知らせ(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000042719.html
【LGBT高齢者向け】見守り・生活相談サービス開始のお知らせ(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000042719.html
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