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東京都新宿東口検査・相談室の城所室長へのインタビュー
東京都在住の方たちにとってのHIV検査の中心的な施設「東京都新宿東口検査・相談室」。果たしてゲイ・バイセクシュアル男性が安心して利用できるところなのだろうか…といった観点で、室長さんにいろいろ質問してみました。
2021年3月6日、東京のHIV検査の中心的な施設として長年にわたって多くのゲイ・バイセクシュアル男性に利用されてきた東京都南新宿検査・相談室が移転し、「東京都新宿東口検査・相談室」として新たにオープンしました(レポートをこちらに掲載しています)。こちらの室長でいらっしゃる城所(きどころ)敏英先生に、移転の理由やコロナ禍以降の検査状況の変化、HIV予防とコロナ予防、ゲイ・バイセクシュアル男性へのスタンスなどについて、お話をお伺いしました。城所先生は私のような者でもしっかり目を見て話してくださって、穏やかで、優しくて、人としての器を感じさせる、それでいて「忖度」せずにモノを言う、とても信頼できる方だなぁと感じました。(聞き手:後藤純一)
――今日はよろしくお願いします。まず、移転した理由を教えてください。
南新宿の建物が取り壊されることになり、立ち退きを迫られたのです。
――なるほど。そこで新しい施設に。やはり新宿に近い場所ということで、ここになったんですね。
そうですね。東京都にここを見つけていただきました。
――場所は変わりましたが、体制や方針は変わらず?
変わらないですね。
――こちらは東京のゲイ・バイセクシュアル男性にとってなじみの深い、HIV検査の中心的な施設であると言っても過言ではないと思うのですが、そういう意味で何か自負といいますか、使命感のようなものを感じていたりしますか?
私自身は元保健所の医者で、東京都のエイズ対策の部署に勤務していたこともあって、その頃から南新宿検査・相談所との関わりがあったり、ゲイコミュニティとの関わりもありました。それは東京都の方針として掲げられていたんですね。トップはいろんな方がいらっしゃいましたけど、現場的には。ゲイコミュニティへのアウトリーチ(パンフレットを配るなどの啓発活動)や、検査所がより使いやすくなるような取組みも進めてきました。おかげさまで多くの方に利用していただいています。始まった当初は、通年で検査が受けられる場所は日本中でも南新宿くらいしかなかったので、全国からの利用がありました。その後、大阪など各地で検査所の整備が進んでいきました。
――実は私、2005年頃に南新宿検査・相談所で「エスムラルダの『検査なんて怖くない』」という啓発ビデオを撮影させていただいたことがあって。みなさん本当に親切に対応してくださって、ありがたかったです。一方で、毎年検査を受けてきたなかで、10年前かな…1回だけ、ゲイへの偏見なのかどうかわかりませんが、結果を伝えてくださるご高齢の男性のお医者様が、嫌悪感といいますか…とても感じの悪い対応だったことがありまして。そこで思ったのは、もしかしたらお医者様のなかに同性愛嫌悪(ホモフォビア)を払拭しきれてない方もいるかもしれない…何かLGBT研修的なことはやっているのかな?ということが気になっていました。
ここだけじゃなく、東京都はHIV関係のボランティアや保健所などの職員に対して毎年、研修をやっています。その中にセクシュアリティのことも盛り込まれていて、生島さんに来ていただいたりして、LGBTに不快な思いをさせないような取組みをしています。もし今後、万が一差別的だと感じられる対応があった場合、「都民の声」にメールでお伝えください。
――承知しました。コロナ禍以降、検査所を訪れる人の数や質に変化はありましたか?
検査の数が激減したという報道がありましたが、利用希望者が減ったわけではなく、保健所がコロナ対応で人手を取られ、三密を避ける意味もあって検査自体を中止しているところが非常に多いのです。全国的に見ても、ずっと開けているのは、ここと東京都多摩地域検査・相談室など少数です。
――物理的に受けられなくなってしまったんですね。全国の多くの施設でHIV検査が中止になっているなかで、東京都はずっと開け続けてきたというのはスゴいことですね。
職員がみんなプロ意識をもって、やり続けてくれたということが大きいです。なかには、同居している高齢の家族のことを心配してお休みせざるをえない人もいましたが、スタッフみんなが頑張ってくれています。ウイルスをもらわない、うつさないようにマスクをしっかり着けて、利用者にも理解していただいています。ここで感染者が出たら、閉めざるをえなくなってしまうので。ここも三密を避けるという意味で、少し定員を減らしていることもあって、予約は常に満杯です。
――頭が下がります。東京だけでなく首都圏全域から「検査難民」の方が押し寄せているのかもしれないですね。
そうですね。予約が取りにくい、すぐいっぱいになるという声もいただいていますが。
――三密を避けるというお話がありましたが、前はなかったパーテーションで座席を仕切ってソーシャルディスタンスを図っていらっしゃいますね。入り口には手指消毒もありました。ほかに、何か「こういう対策をとっています」というお話があれば。
若干、自慢話なのですが、新型コロナウィルスの話が伝わりはじめた去年の1、2月くらいからマスク着用に取り組みました。利用される方のなかにはHIVに感染している方もいらっしゃるということを考えると、そういう方に新型コロナウイルスが感染したりしないように、ということで、いち早くマスク着用を呼びかけました。当時、マスクが不足していたわけですけど、なんとか都合をつけて用意して、マスクを持っていない方に提供するようにもしました。今はほとんどみなさん、自前で着けていらっしゃいますけどね。
――そうでしたか。HIV予防もコロナ予防も両方進めてきたわけですね。ゲイ・バイセクシュアル男性は、過去にエイズ禍を経験し、今はコロナ禍の渦中にあって、昔のことを思い出してしまう方も少なくないと思います。何か、HIVのこととコロナのことに共通する…感染症を防ぐというところでは同じだと思いますが…俯瞰した見方で、今の状況に対して思うところがあったりします?
感染症そのものが、人々の捉え方がいろいろで。よく知らないものに対する恐怖というのが背景にあって、スティグマにつながるんでしょうね。そういう意味では、どういうものかという正しい知識を広めること、同じ立場の人が結束して、存在を示し、声を上げていくことが大切です。人々が分断されている時に、恐怖を背景にして差別が起こる。コミュニティを守る意味でも、自分たちのつながりを大事にしてほしいと思います。実際、HIVに関しても、身近に感じられないことが偏見の助長につながるということがありました。身近に感じながら、差別をなくしていきながら、予防をどう進めていくかということの難しさがあります。今回のCOVID-19にしても、かかった人や、医療従事者に対する差別があった。初めは恐怖心が先に立っていたけど、わかってくればだんだん安心が得られて、差別も少なくなっていくと思います。
――本当にそうですね。話は変わりますが、実は私たちゲイにとって今、HIVとコロナ、両方予防しようとすると、マスクもしつつコンドームもするというなかなか大変な時代だったりします。以前はキスは完全にセーフな行為だったのに今は最も危険な行為に…という複雑な思い。そこで何か、「セックス、ダメ絶対」じゃなくて、セーファーな観点で、アドバイスがあれば。
HIVをはコンドームを使えば予防できます。それよりCOVID-19の予防のほうが難しいです。一つの希望はワクチンですね。今のワクチンがどの程度効果的なのかわからないけど、少なくとも重症化を防ぐことはできるでしょう。それまでは控えざるをえないんじゃないかと…。
――わかりました。こちらはPrEPに関する相談も結構多いと聞きましたが、関心が高まっている感じでしょうか?
「あのPなんとかについて教えてください」とお聞きになる方もいらっしゃいます。日本の現状としては、薬が予防薬として認可されておらず、自己責任で取り組まざるをえない。保険が効かないので自由診療になり、薬価がとても高い。現実的には、ジェネリック薬を輸入するということになり、使用に当たって事前の検査を受けることと、定期的な受診が必要です。東京都はまだ立場が明らかじゃないので、こちらから水を向けることはしないのですが、情報提供としてPrEPなどについてのパンフレットを差し上げています。
――ジェネリックを自己輸入してる方が、こちらで定期的に検査を受けつつ、相談するというケースも?
そうですね。ただ、PrEPは腎機能や肝機能の検査も必要で、それはこちらではできませんので、医療機関やクリニックを利用したほうがいいです。
――ありがとうございます。今後、こちらの「新宿東口検査・相談室」がゲイ・バイセクシュアル男性の性の健康を守るための検査の拠点となると思います。末永くよろしくお願いいたします。
東京都新宿東口検査・相談室
住所:東京都新宿区歌舞伎町2-46-3 SIL新宿ビル2階
電話:03-6273-8512
検査受付時間:
平日 15時30分~19時30分
土日 13時~16時30分 ※祝日、振替休日、年末年始を除く
検査の予約:こちらの携帯サイトからどうぞ
(「東京都新宿東口検査・相談室」レポートはこちらをご覧ください)
<ご参考:HIV検査に関するお役立ち情報>
・東京都HIV検査情報Web
・HIVマップ
・HIV検査相談マップ
INDEX
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