REVIEW
おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
中国の監督が国外で製作した、本国では上映不能なゲイ映画であり、中高年のゲイ・バイセクシュアル男性のリアルを描いた作品です


若くもなく(いわゆる世間で言う)イケメンでもなく、マッチョでもないような中高年のおじさんたちを描いたところは素晴らしいと思いながら、でも、一点だけ、残念な点がありました…これを書くべきかどうかずいぶん悩んだのですが…おそらく「同志」ではないのであろう監督さんが、ここまでゲイに歩み寄って作ってくれたのだから、あまり細かいところで批判しなくていいじゃないか、考えてみれば、こんなこと(吉本新喜劇とか)全世界にありふれているし、わざわざ取沙汰するようなことでもないじゃないか、という気持ちもありつつ、でも、最初に観たときの怒りにも似た感情をやり過ごすことがどうしてもできず、書いてしまうことにします。
この映画に登場する食堂の主人が(シュエ・バオホーさんという方です)、とても薄毛というか頭頂部に髪の毛が全くない、巨漢の(ゲイコミュニティでは「がちむち」や「Bear」と呼ばれ、かなりモテそうな体型の)おじさんなのですが、よくわからない自説を滔々と述べたり、突然抱きついてきたりという“キモい”人として描かれ、嘲笑の対象になっています。彼は偶然、道で拾ったかつらをかぶってみるのですが、ジャン・ジーヨンに抱きついて突き飛ばされた拍子にかつらが外れてしまい(予告編にもその場面があります)、嘲笑のネタとして扱われます。また、詳しくは書きませんが、ちょっとびっくりするような、明らかにウケをねらったシュールなやり方で「黙らせられる」のです。
Bearコミュニティに属していない圧倒的多数のゲイの方も、ゲイ以外の性的マイノリティの方も、ノンケの方なども、おそらく何とも思わないのでしょうが、私のBearプライドは「許せない」という感情を喚び起こしました。
個人的には、あの食堂のおじさんのような巨漢でイモっぽい見た目こそが、これまで観た全てのアジアンゲイ映画の中でもピカイチのセクシーさだと感じますし(東海林監督も「最高に可愛かった」と言ってますし、同じように感じる方は多いはず。「天使」とか言われそう)、ああいう熊系のおじさんこそが主人公として起用され、恋愛で幸せになるような映画を観てみたいです(共感してくれる方、何百万人もいるはず)。しかし、この映画では、そういう方が露骨に奇矯な行動を取る“キモオヤジ”としてひどい扱いを受け、貶められているのです。かわいそうだし、ガッカリしたし、残念だし、悔しかったです。たぶん監督は、Bearプライドの何たるかも知らないでしょうし、薄毛で太めな中年男性をバカにすることに何のためらいもなかったのでしょう…。
ただしこれは、監督だけじゃなく世界中に浸透してしまっている「Bearフォビア」とも言うべきルッキズムの問題であるとも言えます(最初のアンパンマンが太ったおじさんで、「これじゃあ売れないよ」とあらゆる人が柳井嵩に繰り返し忠告する『あんぱん』の残念さも記憶に新しいところです)。男性の薄毛や毛深、体型、年齢についての侮蔑や差別はLGBTQに限った話じゃない、だから、ここでそれを指摘するのは違うのではないか、という見方もあることでしょう。
しかし、せっかくこういう巨漢でイモっぽい(一部かもしれませんが)Bearコミュニティの一角で大歓迎されそうなアジア系のキャラクターがやっと、劇場公開されるようなメジャーなゲイ映画の中に登場したのですから、主役でなくても、目立たなくても、せめて他の人と同じように扱われてほしかったです。
やっと中国の監督がこういう映画を作るようになったのだから、それだけでもすごいじゃないか、そこは目をつぶろうよ、しょうがないよ、という声も聞こえてきそうですが、中高年のゲイが出てくる映画だからと思って観に行った方が、もしかしたらその方も薄毛で太めの方で、まるで自分が侮辱されているように感じて悲しい思いをするとしたら、違うんじゃないか、しょうがないなんて言えないんじゃないかと思ってしまいます。
もしかしたらその方も、日常生活の中でずっと薄毛や体型のことをバカにされて、すっかりあきらめてしまっているかもしれませんが、そういう方こそ、映画という夢の世界の中では、自分のような人がチヤホヤされたり幸せになったりするのを観てほしいのです。映画ってそういうものじゃないでしょうか? わざわざお金を払って観に行った映画で傷ついたり悲しい思いをするなんて…やりきれない気持ちです。
この映画にコメントを寄せている方たちなども言及してないですし、このまま不問に付されてしまい、観に行った方が傷ついたりするのはよくないし、誰かが言ったほうがいいんじゃないかと思い、もしかしたら関係者の方から恨まれるかもしれませんが、書くことにしました。
そのような意味で、ぜひ観に行っていただきたいという気持ちと、注意してくださいという気持ちがないまぜになっているのです。
(後藤純一)
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