REVIEW
おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
中国の監督が国外で製作した、本国では上映不能なゲイ映画であり、中高年のゲイ・バイセクシュアル男性のリアルを描いた作品です

「モーパッサンの名作小説「ベラミ」を下敷きに、中国の田舎町で織り成される孤独な中年男たちの偶然の出会いと高まる気持ちをモノクロームの映像でつづったラブストーリー。ジム・ジャームッシュを敬愛するゲン・ジュン監督が、自身が1990年代に地元・黒竜江省の鶴崗市で出会ったゲイ男性の悲劇的な経験をもとに、同性との恋愛や体外受精、偽装結婚といった社会的テーマを盛り込みつつ、ブラックユーモアを散りばめてオフビートに描き出す」(映画.comより)
ゲン・ジュン監督は1976年中国・黒竜江省鶴崗生まれ。映画学校は出ていないものの、20年来黒竜江省で映画製作を続けてきました。『Free and Easy』(2016)はサンダンス映画祭などで上映され、ワルシャワのFive Flavours Film Festivalで観客賞を受賞、『Manchurian Tiger』(2021)が上海国際映画祭最優秀長編映画賞を受賞したほか、多くの作品が各国の映画祭で受賞し、高く評価されているそうです。今作『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』は(本国の中国では上映できないものの)台湾の映画賞「金馬奨」で主演男優賞(ジャン・ジーヨン)、撮影賞、編集賞、観客賞を受賞しました。大阪アジアン映画祭2025では『イケメン友だち』のタイトルで上映されました。
なお、主要なキャストであるシュー・ガン、ジャン・ジーヨン、シュエ・バオホーはゲン・ジュン監督と旧知の俳優たちなんだそうです(たぶんみなさんストレートの方たちだと思われます)
<あらすじ>
大餅(ダービン)売りのシュー・ガンはフォトスタジオで自身のヌード写真を撮影する。彼は理髪師の若い男ワン・ズーシンに別れを切り出され、あてもなく町を彷徨う。その田舎町のダイニングレストランでは、ぎこちない会話と視線を交わす男たちがいた。常連で骨董品売りのジャン・ジーヨンは、冷えきった夫婦生活に飽き飽きしていて、革ジャンを着た男に「同志だろ」と声をかけたのだ。一方、ワン・ズーシンはレズビアンカップルに精子提供する約束をしていた。健康な子を授かるために、と、カップルはとても厳格な要求を彼に突きつけ、監視の目を光らせる。ジャン・ジーヨンはある日、カフェを装ったゲイたちの秘密の出会いの場に赴き、そこでシュー・ガンと出会う。二人は街を歩き、食堂に入るが、そこには一風変わった「同志」の店主がいて…。






BL映画やドラマには決して出てこないようなゲイのおじさんたちの悲喜交々を描いたせつなくもおかしい群像劇で、ほぼゲイとレズビアンしか登場しない、(制作国はフランス・ポルトガルですが)これまでの中国の映画監督の作品には見られなかった画期的な作品になっています。
フランス語のBel amiは美しい男友達という意味なのですが、世間的に美しいと言われることはまずない(ゲイの中には彼らこそが美しいと讃える方も少なくないと思いますが)“冴えない”風貌のおじさんたちの映画にそういうタイトルをつけるところがオシャレだと思ったのですが、もしかしたら、私たちが本気でそう思ってるのと同様、監督も彼らを本気で美しいと思っているのかな?と思ったら、どうやら今作の主要な役者さんたちは監督とずっと一緒にやってきた(たまたま仲がよかった)人たちで、特にそういう意味はなさそうです。
ちなみにモーパッサンの『ベラミ』という小説は、そのイケメンっぷりを武器に女性たちを利用して成り上がっていく男を描いた作品だそうで、この映画が『ベラミ』を下敷きにしているという説明には「?」という感じでした。
フランス・ポルトガルで撮影されただけあって、モノクロの映像も、アコーディオンが物悲しく響く劇伴も、どこか昔懐かしいヨーロッパ映画を思わせる趣です。ジャームッシュ的なオフビート感というのもわかります(個人的にはジャームッシュといえば『ミステリー・トレイン』とか『ナイト・オン・ザ・プラネット』のようなカラー作品が印象に残っているので、モノクロだからジャームッシュっぽいというイメージはなかったです)
フォトスタジオで始まり、フォトスタジオで終わるというオシャレな構成。ラストシーンは「映画の魔法」もあり、同性婚への希望を感じさせる素敵なものでした。
『ブエノスアイレス』や『美少年の恋』のような香港映画を除けば、中国本土でこれまでに製作された男どうしの恋愛を描く映画作品は、『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993、中国・香港・台湾)、『藍宇 ~情熱の嵐~』(2001、中国・香港)、『スプリング・フィーバー』(2009、香港・フランス・中国)くらいしかなかったと思うのですが(しかも『スプリング・フィーバー』は中国で映画製作を禁じられたロウ・イエ監督がゲリラ的に撮影した作品で、当時から今に至るまで中国では上映禁止です)、今回、中国人であるゲン・ジュン監督が、製作も上映も海外ということではありますが(もちろん、中国では上映禁止です)、このようなジャームッシュを思わせる「美しい男たち」の映画を撮ったことには決して小さくない意義があると思います。中国映画が新しい局面を迎えたような気がします。
考えてみれば、特にハンサムではない、体も鍛えてない、何かで目立ってたり活躍してるわけでも全然ない、どこにでもいそうなおじさんたちが出会ったりセックスしたりする映画って、世界的に見てもほとんどなかった気がします。
そういう意味では、中高年ゲイ映画の金字塔といいますか、エポックメイキングな作品と言えるかもしれません。
劇中、「LOVE IS LOVE」という欧米で同性婚運動の合言葉となっているフレーズをサインボードに描いているカフェを装った館が出てくるのですが(18世紀イングランドの「モリー・ハウス」とかもこんな感じだったんじゃないかと思いますが)、その会員制のゲイサークル(出会いの場というかハッテン場のような場所?)を運営している館の主人が、いわゆる「クセ強」な人で、意思疎通するのも大変で、不条理な思いを余儀なくされる描写が変にリアルだと思いました(中国に実際にあるんでしょうか?) その町にそこしかない出会いの場所であるがゆえに「この人の機嫌を取らないと自分はこのサークルに入れない」と思ってみんな堪えるのでしょうが…。ゲイが公に認められていない社会の「あるある」なのかもしれません。
そのシーンとも関係するのですが、BDSMにまつわる描写もあります。というか、館での不条理に見えたやりとりもまた、一種のSMプレイだったのかもしれません…。みなさんはどう観るでしょうか。
男性のフルヌードも出てくるし(局部は見えていません)、セックスのシーンもしっかり描かれていて、中国の監督の作品としては、いろんな意味で先進的だと感じましたし、ステレオタイプだったり過剰に美化されたりしていない、リアルな、しかも中高年のゲイ・バイセクシュアルの世界を描いていたところが素晴らしいと感じました。
しかし、私にとってはこの映画は、アンビバレントな感情を喚び起こす作品でした。
ぜひ観に行ってください!という気持ちと、観ないほうがいいかもしれないよ…という気持ちが、今もせめぎあっています。詳しくは、次のページでお伝えします。
ベ・ラ・ミ 気になるあなた
原題:漂亮朋友、英題:Bel Ami
2024年/フランス、ポルトガル/116分/監督:ゲン・ジュン/出演:シュー・ガン、ジャン・ジーヨン、シュエ・バオホー、ワン・ズーシン、チェン・シュエンユ、ワン・チン
11月15日よりユーロスペースほか全国で順次公開
INDEX
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- アート展レポート:CAMP
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- 今までになかったゲイのクライム・スリラー映画『FEMME フェム』
- 悩めるマイノリティの救済こそが宗教の本義だと思い出させてくれる名作映画『教皇選挙』
- こんな映画観たことない!エブエブ以来の新鮮な映画体験をもたらすクィア映画『エミリア・ペレス』
- アート展レポート:大塚隆史個展「柔らかい天使たち」
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
- ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
SCHEDULE
- 01.18がいずば14周年&がい還暦パーティー







