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実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント

「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」の記念プレイベントとして開催された映画『ハッシュ!』上映&スペシャルトークのレポートをお届けします。子どもをさずかりたいゲイカップルの物語として2002年公開当時、世間でもゲイコミュニティでもたいへんな反響を呼んだ映画ですが、実は浜崎あゆみさんのためにゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていたという驚きの新事実が明かされるなど、とても中身の濃いイベントでした

25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんの映画『ハッシュ!』スペシャルトーク

12月の映画特集でもご紹介していたように、「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」の記念プレイベントとして12月3日、2001年のカンヌ国際映画祭監督週間に正式出品されていた映画『ハッシュ!』の特別無料上映&スペシャルトークイベントが東京日仏学院 エスパス・イマージュで開催されました。まだLGBTQという言葉も知られていない時代に、商業映画でおそらく初めて同性カップルの子育てをメインテーマにした作品を、田辺誠一さん・高橋和也さんのような著名な俳優で映画化されたことで、ゲイコミュニティ内でも世間でもたいへんな話題を呼び、世界的に高い評価を得た作品です(配給会社によるゲイコミュニティ向け試写会が開催されたことも素晴らしく、映画の内容とともに、記念碑的な意義を持つ作品となりました)。その上映&トークイベントの模様をレポートします。 


 カンヌ国際映画祭の「監督週間」は、1968年の5月革命が起こった翌年の1969年、カンヌ国際映画祭の公式選考プロセスや商業主義的な傾向、保守的な運営方法に批判的だった映画監督協会(SRF)によって創設された独立した併設部門です。現代映画における最も独創的な表現形式を紹介することに重点を置き、第1回開催のポスターには「自由なる映画 Cinéma en liberté」というスローガンが掲げられました。「監督週間」部門はこうして今日まで世界中の新たな才能の発掘の場として、マーティン・スコセッシ、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、大島渚、シャンタル・アケルマン、マノエル・ド・オリヴェイラ、ジム・ジャームッシュ、ソフィア・コッポラ、侯孝賢、黒沢清、ミア・ハンセン=ラブ、アラン・ギロディら数多くの映画監督を世に送り出してきました。(アンスティチュ・フランセ「自由なる映画たち 〜7本の映画でたどる「カンヌ監督週間」〜」より)
 「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」は、特定非営利活動法人映像産業振興機構(略称:VIPO[ヴィーポ])が「監督週間」とのコラボレーションの一環として開催するものです。2023年にアジア初の開催が実現し、好評を博し、今年で3回目の開催となります。『国宝』や『かぐや姫の物語』なども含む選りすぐりの12作品が、12月12日~25日にヒューマントラストシネマ渋谷で上映されます(詳細はこちら
 その「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」の記念プレイベントとして、これまでにカンヌで上映されてきた数ある日本映画の中から橋口亮輔監督の『ハッシュ!』が選ばれ、監督と主演の田辺誠一さんによるトークイベントが開催されることになりました。「自由なる映画」という監督週間のスピリットに相応しい作品だったからではないでしょうか。
 
『ハッシュ!』
主人公は2人のゲイと1人の女性。人は本質的に孤独であることを自覚してしまっている3人は、しかしそれでもなお、他者と共にあることを選択する。苦さの向こうに、あきらめの先に、新たな希望があることを感じとり、あらゆる現実的な問題を克服し、新しい「家族」の可能性をさぐってゆく。
2001年/日本/監督・脚本・原作:橋口亮輔/出演:田辺誠一、高橋和也、片岡礼子ほか



トークイベントレポート

 12月3日(水)、飯田橋にある東京日仏学院(アンスティチュ・フランセ東京)にある映画館「エスパス・イマージュ」には、ひさしぶりにスクリーンに蘇る『ハッシュ!』を、そして監督や田辺さんを見ようと、多くのファンの方たちが駆けつけました。
  『ハッシュ!』は今観ても本当に新しく、素敵な映画です。とても爽やかで初々しい感じのゲイカップルが友人の女性と「スポイト」を使って子どもを…というメインストーリーの魅力はもちろんですが、高橋さん演じる直也が母親に「俺は手術なんかしないよ」と言う、当時の世間の理解はまだそんな感じだったんだな…と思い出させてくれましたね。田辺さん演じる勝裕のお母さん役として冨士真奈美さんが、義姉役として秋野暢子さん、兄役の光石研さん(今は『ぼくたちん家』でホモフォビックなオヤジ役を…)が出演していたあたりのキャスティングもとても素敵でした。ゲイの映画ではありますが、女性へのエールも感じさせますし、みんなそれぞれあがいているというか、頑張って未来を見ようとしているところが、本当のテーマだったような気もしました。

 
 上映後、会場の割れんばかりの拍手に迎えられ、橋口監督と田辺さんが登場、司会は我らがよしひろまさみちさんです。
 よしひろさんに「二人がお会いするのはひさしぶりなのでは?」と聞かれ、田辺さんは「もう12~13年ぶりじゃないですかね?」と、監督は2013年の『ゼンタイ』の公開のときのトークイベントのとき以来だと明かしました。
 2001年の第54回カンヌ国際映画祭の監督週間に参加した際のことについて聞かれると、監督は満面の笑みで「田辺くんは忙しかったから、私たちのあとの便で深夜0時くらいにホテルに到着して、ホテルの前でシャンパンを持って出迎えましたよ」と、田辺さんも「そうですね、カンヌの時期はどこもホテルがいっぱいだったから、端のほうの今でいう民泊のような場所で、みんなで泊まりましたね」と懐かしそうに語りました。
 監督週間に正式出品された経緯について監督は、『渚のシンドバッド』がロッテルダム国際映画祭でグランプリをいただき、パリのシネマテークでも上映していただいて、そこのディレクターをやっていた女性が私の作品を憶えてくれてたんですが、出世して『カンヌで橋口作品をぜひ』と言ってくれたんです」と語りました。
 当時のキャスティングについて監督は、実は初めは田辺さんに断られたこともあると明かしました。「『二十歳の微熱』を撮るにあたってキャスティングを考えていた頃、ちょうど田辺くんが『MEN’S NON-NO』でデビューしたばかりで、イメージにピッタリだと思ってオファーしたんですが、その時は断られてしまって」。その後、役柄が固定化されることを危惧して、より幅広く演じていきたいという思いを持っていた田辺さんが『渚のシンドバッド』の試写会で監督に会って、『ハッシュ!』の際に改めてオファーしたところ、ぜひ、ということになったんだそうです。
 撮影当時のことを振り返って橋口監督は「日活スタジオで24日間リハーサルしました。こんなにやる必要あるのかってくらい。その時の田辺くんの演技を見て『本人自身が面白いんだから、ゲイ役をやるとか、そんなことは一切考えないで田辺くんはそのままで演ったほうがいい』と言ったんです。そうしたら田辺くんは『僕は演技をする時に自分を使ったことはありません』と言って。だから『騙されたと思ってやってみて』と諭して…。撮影後にどうだったか聞いたら、『自分を使って演技をするのがこんなに楽しいことだと思いませんでした』だって」と語りました。
 田辺さんが「勝裕が直也に初めて会うシーン、あれは実はトニー・レオンを意識してたんですよ」と語ると、橋口監督も「それは今まで知らなかった。撮影中に知ってたらドン引きだったかもね」と笑いを誘いました。
 橋口作品の登場人物たちの職業設定について尋ねられた監督は、土木研究所で働く勝裕は、フランソワ・トリュフォーの『隣の女』の中でジェラール・ドパルデューがお堅い仕事のはずなのに池の検査のために船でぷかぷか浮いていて遊んでるようにしか見えない、それが優柔不断な男のキャラクターに合っていた、そんなイメージで、『ハッシュ!』ではゲイである勝裕が自分の人生をちゃんとしようと硬い仕事に就いているけど「このままでいいのかな?」と思っている、と説明し、「みなさん、何らかの仕事をして自分を成り立たせているじゃないですか。現実に生きているわけですから。やっぱりその仕事を選ぶっていうのも、ちゃんとその人のパーソナリティが反映されているものだろう、ということがあって」と語っていました。
 よしひろさんに「監督の新作も観たいものです」と振られると、「『ハッシュ!』の続編があれば」と田辺さんが素敵な提案をしてくださり、しかし監督は「57歳になった直也と勝裕が子育てをしていて、というのはあまりリアリティがなさそうで、どうなんだろう」とあまり納得いかなそうな様子で…それに対して田辺さんが「育った子どもと会うというプロットなら?」とさらに提案。すると監督は「実は『ハッシュ!』は浜崎あゆみのために考えていた企画なんですよ。93年の段階で考えていたのは、直也と勝裕の間に生まれた子どもが成長したのが浜崎あゆみで、その子を中心にという物語を考えていたんです。でも『二十歳の微熱』の後に歌手になったから実現せずで、大人の男性のほうを中心とした物語になった」という、驚きの新事実を明かしました。
 田辺さんの「公開してから約25年も経つのに、今もお客さんの心の中にこの作品世界が生きていて、観ていただけて、本当にうれしいです」との言葉で、トークイベントは幕を閉じました。

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