REVIEW
ミニマムなのにとんでもなくスリリングでクィアな会話劇映画『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』
『ダイ・ビューティフル』の監督がコロナ禍の間に撮り上げた、一幕物のお芝居のような映画です。ずっと同じ場所で二人がしゃべっているだけなのに、とんでもなくスリリングでドラマティック。A24作品に負けないくらいの「こんな映画観たことない」感。それでいてゲイゲイしい作品です。ぜひ誰かと観て、感想を語り合ってください

10年前の東京国際映画祭で観客賞と最優秀男優賞に輝いた『ダイ・ビューティフル』を憶えている方もいらっしゃることでしょう。フィリピンの「ミスコンの女王」として名を馳せたトランス女性の突然の死とあまりにも美しく感動的な葬儀を描いた、素敵な作品でした。その『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナが監督・脚本を手がけ、発表するやいなや国内外の映画祭で20冠近くに輝き、フィリピンでは舞台化も決定している話題作が『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』です。「死」をトリガーに「生」と「性」に鋭くメスを入れた「都会派・新感覚・会話劇」。愛する人との別れ、LGBTQ+、性加害、SNS世代の危うさなど、さまざまなテーマを盛り込みながら現代フィリピンのリアリティを描き出した作品です。
<あらすじ>
先生、本当の僕を知りたいですか? コロナ禍。大都会マニラの老舗レストラン。著名な小説家である恋人マルコスを亡くしたばかりのフィリピノ語文学教授エリックは、教え子のランスと再会の約束をしていた。喪失感を抱えつつも、自分を慕うランスとの時間を楽しみにしていたエリック。アップルパイとダフトパンクの話題で距離を縮めてゆく二人だったが、マルコスの話をきっかけに空気は一変する。まるで“別人”のように。自分を見つめるランスの瞳の奥から、エリックはマルコスの驚くべき真実を知ることになる――



胸に染み入るような素敵な歌から始まります(フィリピンの歌手Reymond Sajorの「LET THE PAIN REMAIN」という歌です)。傑作の予感。感情が高まります。男は街中の、とあるレストランの前の駐車場に車を停めます。マニラも東京と変わらない景色だな、とか思ったり。
待ち合わせしていたのは、ランスという学生の男の子で、男は大学の教授でした。名前はエリック。つい最近、パートナーで有名な作家のマルコスが亡くなったことがわかります。ランスは以前、義父に虐待を受けていて、顔にあざを作っていたのを見かねたエリックが自室を避難所に使うよう申し出て、しかし、そのことがマルコスとの間に微妙な感情のもつれを生み…といった話が、二人の会話から次第に浮き彫りになっていきます。
この映画はずっとこのレストランの中で、この二人の会話劇によって展開されていくのですが、マルコスも“登場”しますし(演劇的というか映画的というか…注目してください)、息を呑むほどスリリングです。あの『8人の女たち』よりもさらに狭い世界での密室劇であるにもかかわらず、次々に驚愕の出来事が語られ、片時も目を離すことができず、あっと言う前に時が流れ、エンディングを迎えます。二人の俳優の演技合戦がスゴい。濃密な演劇を観ているかのよう(実際、舞台化されています)
以前『ダイ・ビューティフル』をご覧になった方のなかには、あのゴージャスであると同時に切なくもあるドラマティックな世界とは全く異なり、あまりにも簡素な(誤解を恐れずにいえば低予算な)作品であることに違和感を抱く方もいらっしゃるかもしれません。けれども、これが徹頭徹尾、クィアの映画であるということ、斬新な発想と複雑で緻密な脚本によって、これまで誰も観たことのないような作品を作りあげているという点は共通している(それこそがジュン・ロブレス・ラナの才能である)ことは認めないわけにはいかないのではないでしょうか。
いろんな感想があると思います。イマドキの若者は本当にしたたかで恐ろしい、とか。エリックは少し倫理的にすぎるんじゃないか、フィリピンはそんなに性に対して厳しいのか、とか(カトリック教徒が大多数を占める国ですからね)。てっきり二人はそういう関係なのかと思った、とか。きっと観終わったあと、誰かと話したくなることでしょう(なので、彼氏や友達と一緒に観ることをオススメします)
コロナのパンデミックの間に世界は大きく変わりました。フィリピン社会もそれは同じこと。ソーシャルディスタンスや隔離が要求され、学校の授業もオンラインになり、そして、オンラインでの新たなビジネスも生まれました(Only Fansとかもそうですよね)。ゲイの世界にも少なからず影響があり、出会いやセックスの方法・スタイルにも変わった部分があるし、もしかしたら恋愛やパートナーシップについての捉え方やコミュニティのありようにも変化があったかもしれません。けれども、人間の愛や欲望というものの「本質」は変わっていないはずだし、その変わらない「本質」のほうにこそ、あっと驚くような深い真実が見えたりして、リアルだし(きっと、僕らの周りのいろいろと同じです)、面白いと思います。
時にサスペンスで、ヒューマンドラマでもある(泣きそうになるシーンもある)、とても入り組んでいて一筋縄ではいかない、答えが簡単には見つからないような物語。それはよその国の遠い世界のお話のようにも思えるし、とても他人事とは思えない身近なことのようにも感じられます。
騙されたと思ってぜひ。きっと観てよかったと思えるハズです。
フィリピンのクィア映画は日本での上映機会は多くありません。90年代に話題になった『真夜中のダンサー』のほか、テディ賞を受賞してアジアンクィア映画祭でも上映された『マキシモは花ざかり』(本当にいい映画でした。オイオイ泣けました)、あとは先述の『ダイ・ビューティフル』ですよね(ロブレス・ラナ作品としては2022年の大阪アジアン映画祭で『ビッグ・ナイト』も上映されてました)。貧困や暴力沙汰、人が死んでしまうお話が多くて、なんだか遠い国の出来事のようにも感じていました。その点、今作は、大きなビルが建ち並ぶ街の風景が映し出され、レストランもきちんとしていて(マナーも完全に西洋化されていました)、東京とあまり変わらない感じがしました。一方、フィリピノ語(タガログ語)と英語が自然にミックスされて会話がなされているところも印象的でした。

アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス
原題または英題:About Us But Not About Us
2022年/フィリピン/91分/監督・脚本:ジュン・ロブレス・ラナ/出演:ロムニック・サルメンタ、イライジャ・カンラス
2026年1月17日(土)シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開
INDEX
- 米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』
- エキゾチックで衝撃的なイケオジと美青年のラブロマンス映画『クィア QUEER』
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- こんな映画観たことない!エブエブ以来の新鮮な映画体験をもたらすクィア映画『エミリア・ペレス』
- アート展レポート:大塚隆史個展「柔らかい天使たち」
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SCHEDULE
- 03.07ノーパンスウェットナイト 58本目
- 03.07Mirror Ball







