REVIEW
【アジアンクィア映画祭】俺様オヤジ vs マイノリティ連合の痛快バトル・コメディ――ドラァグとK-POPを添えて――映画『イバンリのチャン・マノク!』
アジアンクィア映画祭のオープニング作品『イバンリのチャン・マノク!』を一足先にレビュー。自分に逆らう村人に嫌がらせしまくりの腐った「俺様オヤジ」村長にソウルのレズビアン番長・マノクが対抗するバトル・コメディであり、思春期のクィアを救う感動の物語でもあります。笑えて泣ける、熱くて痛快なコメディ映画です!

渋谷ユーロライブで2月20日(土)・21日(日)の2日間にわたって開催される第5回アジアンクィア映画祭(AQFF=Asian Queer Film Festival)。『後悔なんてしない』や『GF*BF』など、のちに一般公開もされた数々の話題作をいち早く日本初上映してきた映画祭で、アジアらしいエモーショナルな作品に魅了され、泣いたり笑ったりしながら楽しめるイベントです。そんなAQFFが今年、13年ぶりに復活を果たすことになったのです。
そんなAQFFは今回、韓国のクィア映画を特集します。韓国では、キム=ジョ・グァンス(『ただの友達?』『2度の結婚式と1度の葬式』)やイ=ソン・ヒイル(『後悔なんてしない』『夜間飛行』)の活躍ののち、近年は『詩人の恋』『ユンヒへ』『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』のような本当に素晴らしいクィア映画が次々と製作されるようになってきています。アカデミー作品賞も獲るほど映画のレベルが高くなっている+(台湾ほどではないかもしれないけど)クィア作品もたくさん作られるようになってきている韓国の「今」を生き生きと伝える映画祭になりそうです。
そのオープニングを飾るのが、『イバンリのチャン・マノク!』です。2025年の富川国際ファンタスティック映画祭で〈観客賞〉を受賞し、主演のヤン・マルボク(『同じ下着を着るふたりの女』『イカゲーム』出演)が〈俳優特別言及(Special Mention)〉を受けた作品で、国内外の映画祭で「マノク旋風」を巻き起こし中。韓国の農村を舞台に、ジェンダーと世代を超えて生きる力を描いたハートフルなヒューマン・コメディであり、「笑いと痛み、そして連帯」の物語になっています。
今回、アジアンクィア映画祭から先に観せていただくことができたので、レビューをお届けします。
<あらすじ>
ソウルで20年間、レズビアンバー『レインボー』を営み、コミュニティの重鎮となっていたマノクは、母の訃報をきっかけに(世代交代ということも意識し)店を畳み、故郷の農村・イバンリへと戻る。村長を務める元夫の妨害やクィアへの偏見に満ちた地域社会の現実に直面したマノクは、自ら村長選挙に立候補することを決意するのだが――。



冒頭からしてめちゃめちゃおもしろかったです。20年間コミュニティのためにお店をやってきたレズビアン番長・マノクが、最近の若い子たちにキレて…という、どこかで見たことのあるような光景が繰り広げられます。
そして舞台は一転し、ドがつく田舎の農村。コンビニもスーパーもない、ひたすら田んぼが広がっているような村です。母が遺してくれた古い家に帰ってきたマノクですが、元夫は村長になっていて、自分に逆らう村人にいやがらせをしたりする「俺様」系の本当にイヤな奴だし、その今の奥さんはライバル心をむきだしにしてバチバチな感じだし(「女の闘い」的なシーンが繰り広げられます)、村人の多くも「なんで帰ってきた」的な雰囲気。
そんな村に無理して残らずとも、またソウルに帰ればいいじゃん、と誰もが思うでしょうし、実際ソウルの元カノや親友のクイーンも連れ戻しに来るのですが、戻れない理由があって。それは、元夫の子で、トランス男子のジェヨンの存在でした。男子の制服を着て中学に通うジェヨンですが、田舎ではロコツに奇異の目で見られたり、時にはいじめられたりもしています。マノクや元カノや親友のクイーンはジェヨンをいじめた男子たちを警察に連れて行くのですが、そこにジェヨンの担任の先生が来て、その態度があまりにひどくて、バトルが起こり(どんなバトルかはお楽しみに)、あとでその騒動を聞きつけた村長が、さらにひどいことを…。といった展開なのですが、キホン、コメディですし、めっちゃ笑えます。そしてみんなでジェヨンを救おうとする姿に、泣かされます。この感じ、とても懐かしい…まるで「寅さん」を観ているかのような人情味です。
日本映画ではいつの間にか味わえなくなってしまった「熱さ」がまだここにはあります。
そして、LGBTQへの偏見がめちゃめちゃキツい韓国の農村というリアルと、ある程度歴史を刻んで今や世代交代の時期を迎えているソウルのクィアコミュニティの様子などもうかがえて、実に面白い、エキサイティングな作品になっています。ドラァグクイーンのカルチャーとK-POPが融合したシーンなども韓国ならでは。素敵です。
権威主義的な村長が逆らう人をいじめるような腐敗とあきらめが蔓延した村で、人々の生活や権利のために立ち上がるマノクの姿も痛快です。選挙映画としても楽しめるかも!
この機会を逃すと観れないかも…ですし、本当に素晴らしい映画なので、ぜひぜひ、アジアンクィア映画祭でご覧ください。
イバンリのチャン・マノク!
2024年/韓国/108分/監督:イ・ユジン
AQFFオープニング作品 ★日本初上映
2月21日(土)11:15-、22日(日)14:15-、渋谷ユーロライブで上映
INDEX
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
- 台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
- 生き直し、そして希望…今まで観たことのなかったゲイ・ブートキャンプ・ムービー『インスペクション ここで生きる』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- 世界をトリコにした名作LGBTQドラマの続編が配信開始! 『ハートストッパー』シーズン2
- 映画『CLOSE クロース』レビュー
- 映画『ローンサム』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『ココモ・シティ』(レインボー・リール東京2023)
- FANTASTIC ASIA! ~アジア短編プログラム~(レインボー・リール東京2023)
- 映画『マット』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『秘密を語る方法』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
- 愛という生地に美という金糸で刺繍を施したような、「心の名画」という抽斗に大切にしまっておきたい宝物のような映画『青いカフタンの仕立て屋』
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
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