REVIEW
【AQFF】泣けるほど心に残る、恋に傷つく青年たちの群像――イ=ソン・ヒイル監督が10年ぶりに手がけたクィア映画『ソラスタルジア』
アジアンクィア映画祭に向けての上映作品レビュー第3弾は、クロージング作品『ソラスタルジア』。またしてもスゴい名作です。泣けます。こういう恋をしてみたいと思う方、多いはず。ぜひご覧ください

韓国クィア映画の旗手イ=ソン・ヒイル監督(『後悔なんてしない』『夜間飛行』)による、10年ぶりのクィア映画復帰作であり、最新作です。タイトルの「Solastalgia(ソラスタルジア)」は、環境変化によって故郷を失った人々が抱く『失われた場所への郷愁』を意味するそうです。
第14回ソウル国際プライド映画祭のクロージング作品に選ばれています。そして今回のアジアンクィア映画祭(AQFF)でもクロージング作品になっています。
<あらすじ>
2022年、韓国・江原道東海市で朝鮮半島史上最大規模の山火事が発生する。映画学科の学生たちは、卒業制作のドキュメンタリーを撮るために被災地を訪れるが、撮影中の対立を経て大半のスタッフがソウルへ戻り、現地には監督のソンフンと撮影監督のジフンだけが残ることに。二人は長い時間をともに過ごすうちに、監督の過去と心の傷が明らかになっていき――。


予想以上にロマンスでした。友情と恋愛の間。純粋な思いにヤラれます。どうしてこんなに泣けるんだろうって自分でも思うんですが、終盤は泣けて泣けて仕方ありませんでした。『イバンリのチャン・マノク!』『3670』に続き、またしてもスゴい名作が…今回のAQFF、ヤバいですよ。たぶんハズレとかないと思います。
ストーリーはあまり詳しく語らないようにしますけれども、山火事で被災した町のことを記録に残すために江原道東海市(トンヘ市。日本海に面する、海岸が美しいところです。まるで日本のどこかの港町の風景を見ているかのような錯覚を覚えます)に来たんじゃない、ということが、次第にわかっていきます。そして、これは映画撮影の映画というよりも、映画学科のソンフンとジフンという二人の青年の、お互いに思い合っているのに、そのことを伝えるのに臆病で、なかなか先に進まない、奥手で控えめな、友情のような恋を描いた作品なんだとわかっていきます。
卒業制作作品で監督を務めるソンフンは、クールというかそっけない感じの人で、みんなに愛想を尽かされます。撮影監督のジフンも帰ろうとしますが、ほっとけない様子で、戻ってくるのです。そこから海辺でのキャンプ生活が始まるのですが、だんだん、ジフンはお人好しで人懐っこくて茶目っ気のあるタイプの男の子だと、そして、ソンフンは、そっけないんじゃなくて、何か思い悩んでいることがあって、それは、このトンヘという町に対する思い入れなのだと、わかっていきます。
そして、本当に控えめにさりげなく、なのですが、実はソンフンはジフンのことを好きだし、ジフンもまた(ノンケっぽく見えるけれども)ソンフンのことを思っているということが、少しずつ描かれていきます。
イ=ソン・ヒイル監督が描くゲイって、『後悔なんてしない』にしても、『夜間飛行』にしても、素で男っぽい人(ついでに言うと、精悍ながっちりした青年)が多いんですよね。今作もそうで、二人とも男っぽい、魅力的な人です(観ていくうちに、きっと魅了されると思います)。そんな二人の、なかなか一筋縄ではいかない恋模様は、まるで男どうしの友情の延長のような感じなのですが(『夜間飛行』もそうでしたね)、そこがたまらなくイイのです。
見出しに「群像」と書いたのは、実は、もう一人、恋に傷つく青年が出てくるからです(冒頭の、あまりにも青春な、絵になるシーンに登場します。美しく、素敵なシーンです)。詳しくは書きませんけれども、とても重要な登場人物です。
さまざまなかたちでお伝えしてきたように、韓国社会はとてもゲイに厳しいです。ソンフンたちもその厳しさから決して自由ではありません。イ=ソン・ヒイル自身もゲイとしてその厳しさは身に染みてわかっているわけですが、だからこそ、自身の映画の中では登場人物たちが幸せになれるようにという「願い」のような思いが表現されている気がします。この映画の中でだけは君たちは自由でいられるよ、幸せになっていいんだよ、とでもいうようなあたたかさ。だからこそ、必ず救いがあるし、ゲイの観客が決して失望しない作品になっています(そこがBLと全く違うところです)
ソウルのゲイコミュニティを描いているわけではありませんが、ゲイとして、ゲイの仲間に対するエールというか愛情というか友情のような思いを映画に込めているところは『3670』と同様です。その思いが伝わってくるからこそ、泣けるんだと思います。
海が本当にきれいです。この町に暮らす人々の心もまた、この海と同じくらい、きれいです。
しかし、山火事だけでなく、気候変動によって、この町の美しい砂浜もまた、失われつつあるのです…。そういう「Solastalgia」(環境変化によって故郷を失った人々が抱く『失われた場所への郷愁』)が、通奏低音として鳴り響いています。田舎ではとてもじゃないけどゲイとして生きていけないと思って都会に出てきた人、とても多いと思うのですが、きっとひさしぶりに故郷の町に帰ってみると、昔あったものがなくなっていて愕然としたり、悲しみを覚えたり、ということを多かれ少なかれ経験していると思います。もしかしたらゲイにとって「Solastalgia」とは、年末年始に実家に帰ったときに「まだ結婚しないの?」と聞かれて嫌になるのと同じくらい、誰もが抱いてきた共通の感情なのかもしれません。
映像の美しさとともに、音楽の美しさ・素敵も味わってください。
そして何より、主人公の二人の魅力(本当にいい役者さんです)を堪能してください。
22日、『ソラスタルジア』で最高のクロージングを体験してください。
(後藤純一)
ソラスタルジア
原題:솔라스탈지아、英題:Solastalgia
2024年/韓国/95分/監督:イ=ソン・ヒイル/出演:Park Kyoung-bok、Hong Seong-gwan *海外初上映 *AQFFクロージング作品
INDEX
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
- 驚愕のクオリティ、全編泣ける究極のゲイドラマ『Ours』
- 女子はスラックスOKで男子はスカート禁止の“ジェンダーレス制服”をめぐるすったもんだが興味深いドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』
- 恋愛指向の人がマイノリティである世界を描いた社会実験的ドラマ「もしも世界に 『レンアイ』がなかったら」
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