REVIEW
【AQFF】痛みを抱えるゲイたちに贈る愛の讃歌――韓国で初めて同性結婚を挙げたキム=ジョ・グァンス監督の最新作『夢を見たと言って』
アジアンクィア映画祭(AQFF)事前レビュー第4弾。『夢を見たと言って』は、ポップなゲイのラブコメかと思いきや(前半はそんな感じでしたが)、もっと深くて、せつなくて、涙なしには観られない…痛みを抱えるすべてのゲイたちに贈る愛の讃歌でした

いよいよ21日からアジアンクィア映画祭(AQFF)が始まります。ギリギリになってしまいましたが、事前レビュー第4弾として『夢を見たと言って』のレビューをお届けします。
「2025年の全州国際映画祭でワールドプレミアされた本作は、オープンリー・ゲイの監督であり、韓国で初めて同性結婚を挙げたことでも知られるキム=ジョ・グァンス監督(『2度の結婚式と1度の葬式』)の最新作。日本でも配信されたイ・ホンネ主演の『Made in Rooftop』や、BLドラマ『新入社員』などを手がけ、“BLの名手”として確固たる人気を築いた監督が贈る、軽やかで愛おしいロマンティック・コメディ。」(公式サイトより)
<あらすじ>
カメラの中古取引で出会ったキョンイルとキョンホ。キョンホはお金が必要でカメラを売りに来るが、愛着のあまりなかなか手放せない。ひと悶着の末にキョンイルがカメラを受け取って去ると、諦めきれないキョンホは思わず後を追う。奇妙な占い師や元カレとの遭遇を経て、二人の一日は思いがけない方向へ転がっていく——。



セックスのシーンでこんなに泣いたのはひさしぶりです。
てっきりポップなゲイのラブコメだろうと思って観ていたら(前半はそんな感じでしたが)、まさかのシリアスでせつない、ドラマチックな展開になり…またしても泣かされてしまったのです。もしビジュアルからBL的な映画を想像した方は、決してそうではないので安心してくださいとお伝えしたいです。
キョンホくんは、天真爛漫といえば聞こえはいいけど、ちょっと不思議ちゃんな男の子。お金が必要で我が子のようにかわいがっていたカメラを手放すことにしたけれども、どんな人が買ったのか、ちゃんとカメラを大切に扱ってくれるのか、気が気じゃない様子で、後をつけたり、いろいろ注文をつけたりするのです。
たぶん30代のキョンイルさんは、初めは変な子だと呆れ、離れようとするのですが、いろいろと偶然が重なり、キョンホくんとの距離が一気に縮まっていき、かわいいと思いはじめるのでした。
役者さんがいいです。感情の変化を上手に表現しています。
ネタバレになるので詳しく言わないようにしますが、ラブラブに一気に盛り上がった二人の恋の行方は、突然、思いもよらぬ展開になっていきます。驚きましたが、それは「そんなことってある?」という非現実的な話ではなく、確かに僕らの身近にあるリアルで切実なことで、だからこそ沁みたし、愛を感じました。ケンチャナヨ(大丈夫?)が優しく響き合う時間に涙しました(画面はとてもエロティックなのに)
キョンイルにもキョンホくんにもそれぞれ重くのしかかる現実があり、二人は自分ではどうしようもできない重圧に負けてしまいそうになります。誰かにとっての当たり前は、誰かにとっての夢なのだという(映画のタイトルにもつながる)セリフがせつなく響きます…。
彼らの痛みは僕らの痛みでもあります。どうか幸せになってほしいと願わずにはいられません。
今回観たAQFFの作品のなかでも、いちばん身近で等身大でリアルな作品でした。
キム=ジョ・グァンスは2000年代に(当時としては画期的だったはず)『少年、少年に会う』『ただの友達?』といった短編で若い男の子たちの恋をポップにハッピーに描き、『2度の結婚式と1度の葬式』で(まるで『ウエディング・バンケット』のように)ドタバタのコメディとして同性カップルが結婚できるようになる社会を願い、実際に自らも韓国初の同性結婚式を挙げたりしてきた方です。ゲイのみんなが幸せに生きていけるようにという思いに貫かれています。今作もその延長線上にあって、ゲイのなかでもさらにマイノリティな人たちの生きづらさに優しく寄り添い、エールを送っている作品だと感じました。
生きるのがしんどいとか自分は不遇で不幸だと感じている方にこそ観ていただきたいです。きっと幸せをあきらめずに生きていこうと思える、勇気をもらえる作品じゃないかと思います。
(後藤純一)
夢を見たと言って
原題:꿈을 꾸었다 말해요、英題:Tell Me That You Love Me
2025年/韓国/73分/監督:キム=ジョ・グァンス/出演:チョン・シヒョン、イ・ウンジェ *日本初上映
※もしかしたら映画をご覧になって一部、不快に感じる方もいらっしゃるかもしれないので、私が一点だけ不満に感じたところもお伝えしておこうと思います。主役の二人がイカにも美形でキレイでかわいいのとは対照的に、途中で悪役のように登場する元彼が、わざと髪をボサボサにした“ブサイク”でちょいぽちゃで服装もダサめな兄さん(ですが、ゲイの何割かは主役の二人より彼のほうがイケるんじゃないかと思われる)方だったんです。キム=ジョ・グァンスは若細専で、“BLの名手”と言われるほど世間的なイケメンをたくさん起用してきた方なので、そういう演出をすることに迷いがなかったんだろうと思いますが、このある意味ステレオタイプな(ルッキズムと言えなくもない)キャスティングに対して不満を持つ方も少なからずいらっしゃるのでは?と思いました(悪役と書きましたが、彼の言ったことは、世間でまだまだ根強い偏見や恐怖心に基づくものでした。悪人というより、世間のフォビアを内面化した人物。考えてみれば、昔はみんなこうだったよね?と。そういう意味では気の毒な役回りです)。海外(欧米)のゲイコミュニティではBear系(毛深かったりプラスサイズだったり)を排除するのはよくないという共通認識が生まれ、ゲイのテレビ番組とかゲイアーティストのMVにBear系な人が一人も出ていないと批判され(映画やドラマに有色人種が一人もいない、LGBTQが一人もいない、あるいはそういう人たちが悪役や“怪物”のように描かれるのはおかしいと批判され、だんだん変わってきたのと同様です)、当たり前のようにBearな方も出演するし、いろんな体型のセクシーさが尊ばれるようになってきています(例えばこちらのGOGO発掘番組など)。今は過渡期ですが、アジアのゲイの世界もきっとそういうふうになっていくと思います。
INDEX
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
- 料理を通じて惹かれ合っていく二人の女性を描いたドラマ『作りたい女と食べたい女』
- ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』
- 劇団フライングステージ 第48回公演『Four Seasons 四季 2022』
- 消防士として働く白人青年と黒人青年のラブ・ストーリーをミュージカル仕立てで描いたゲイ映画『鬼火』(TIFF2022)
- かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)







