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REVIEW

日本初のプライドパレード開催、そして挫折…草創期のゲイリブを牽引したレジェンド・南定四郎さんの人生を追ったドキュメンタリー映画『熱狂をこえて』

『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』の松岡弘明監督が4年の歳月を経て完成させたドキュメンタリー映画『熱狂をこえて』。草創期のゲイリブを牽引し、数々の「日本初」を実現したレジェンド・南定四郎さんの軌跡、挫折、そして20年間の沈黙を経て活動に復帰した現在の心境を捉え、過去の真実にも迫る、静かな感動に満ちた名作です

日本初のパレード開催、そして挫折…レジェンドの真実に迫るドキュメンタリー『熱狂をこえて』

 『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』の松岡弘明監督が、1994年に日本で初めてプライドパレードを実現させたゲイの活動家・南定四郎さんに4年間取材し、完成させたドキュメンタリー映画『熱狂をこえて』。南定四郎さんはゲイ雑誌『アドン』『MLMW』などの編集を経て、80年代にIGA日本を立ち上げ、ゲイリベレーションやエイズ・アクションに携わり、90年代には「ゲイアートプロジェクト」や東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、コミュニティセンター「hands on hands」を立ち上げ、94年に日本で初めてのプライドパレードを開催しました。(96年のパレードでは集会が紛糾するという事件に見舞われ、コミュニティ活動から距離を置くことになりましたが)南さんが主体となって推進した活動は、多方面で日本のプライド運動の礎となりました。この映画『熱狂をこえて』は、南さんの半生を通して日本のプライド運動の原点を記録するドキュメンタリーであり、同時に、次世代へと手渡される貴重なアーカイブでもあります。
 一足お先に試写で拝見できましたので、レビューをお届けします。
(後藤純一)

<あらすじ>
これまでに日本で40ヵ所以上の街でプライドパレードが開催されてきたが、その歩みの出発点に、1994年に南定四郎が始めたプライドパレードがあった。1931年に樺太で生まれ秋田県で育った南定四郎は、22歳で上京し、自分らしい生き方を模索し続けた。1984年、ゲイ解放運動を開始した彼は活動にのめり込み、自らの熱意に身を任せていく。そして1994年、日本初のプライドパレードを立ち上げる。このとき南はすでに63歳だった。南が主体となって進めた活動は日本におけるプライド運動の礎となったが、次第に彼は独自の信念に固執するようになり、周囲との溝を深めていく。そしてついに第3回パレードでは大きな反発が起こり、南は運動の第一線から身を引くことになる…。




 まず驚いたというか、ぜひみなさんにもご覧いただきたいのは、1994年の第1回パレードの映像が残っていたということです(もちろん、その映像自体は松岡監督が撮ったものではありませんが、それを発掘し、南定四郎さんにも見せ、語らせているのはスゴいと思います)。「正気の沙汰じゃない」「石を投げられるのでは?」などと言われ、おそるおそる遠くから見ていた方も多かった、初めは50人くらいしか歩いてなかった、といった情報が流布していますが、映像を観ると、ずいぶん印象が違っていて、今のパレードとあまり変わらないような音楽を流すフロートで盛り上がる人たちが多く、今でもなかなかお目にかかれない、女性たちがマルディグラのように揃いの衣装でダンスを披露しながら行進する様なども映っていて、高揚感やお祭り感が伝わってきます。

 南さんは第1回のときは、実行委員の方たちの自発性に任せていたそうで、それがあのようなお祭り感のある素敵なパレードの実現につながったんだと思われます。
 しかし、南さんが企業との連携に疑念を抱き(ストーンウォールのお膝元のNYにしてもNYC PRIDEが商業的になりすぎたことへの批判があり、NYC PRIDEとは別の「プライドの原点」的なデモとしてのパレードが行なわれたりしていますし、そう考えるのはゆえなきことではありません。まして、当時、一般企業の協賛などほとんど考えられないことでした)、企業との連携をプラスに考え、行動した実行委員の方との対立が生まれてしまったそうです。
 第3回ではとうとう、南さんは独断的に、派手な衣装やダンスなどのお祭り的な要素を禁止し、権利の主張としてのパレードという性格を強め、批判を招くことに。そして、パレード後の集会が紛糾…。さらに、その際に最後まで批判者の対応にあたっていた運営本部長が半年後に事務所から飛び降り…という悲劇につながりました。
 以後、20年間、南さんは表に出ず、活動から退きます。
 
 パレード開催に至るまで、本当にすごい勢いで、ブルドーザーのように道を切り開いてきた南さんですが、集会の紛糾と仲間の死はあまりにもショックな出来事だった、言い換えると大きな「挫折」だったと言えます。
 その間、南さんは何を思っていたのか、あの頃の出来事を、今はどう思っているのか、といったことが、沖繩の海や自宅を背景に、少しずつ語られていきます。
 南さんと同時代で活動していた方たち――当時のパレードの実行委員の方たちや、大塚隆史さんや鈴木賢さんや小倉東さんらが、あの頃の南さんについて正直に語っています(ちゃんと功績を認める発言も収録されていて、バランスがとれています)。「挫折」の本質は何だったのかが浮き彫りになっています。
 
 松岡監督は、世代的にそんなに南さんの活動した時代(90年代以前)のことを知っているわけではないでしょうが、とあるイベントで、『沖縄カミングアウト物語』のときに(調子に乗って)失敗を経験したと明かし、そのことが、大きな挫折を経験した南さんに話を聞いてみたいという動機につながったと語っていました。縁というか、運命のようなものを感じました。

 南さん以前の70年代に目立つ活動をしたゲイのレジェンドといえば東郷健さんを思い浮かべる方も多いと思いますが、あそこまで毀誉褒貶相半ばする(トラウマになった方も多い…私は個人的には素敵で面白い方だったと思っていますが)ような人では南さんは決してなく、歴史に残る「日本初」をいくつもやり遂げた非常にパワフルな活動家として、再評価と言いますか、こうしてその活動を振り返るドキュメンタリー映画が作られ、奇しくも『LGBTQヒストリーブック』が完成したのと時を同じくして公開されることに、一抹の感慨を禁じえません。

 当時の南さんのパレードに参加したことのある方はもちろんですが、そうでない方にとっても、90年代にこんなスゴいパレードをやってたのか!とか、いろんな驚きや発見や感動があると思います。
 いまGoogleで検索しても、80年代以前のLGBTQの運動の歴史ってほとんど出てこなくて、なかにはその時期には何もなかったと思っている方も少なくないという話も聞きましたが(正直、私も80年代のことは最近までよく知りませんでした)、80年代以前にも実にいろんなことがあったということが、この映画を観てもよくわかるようになっています。当時を知る「古株」の人たちがどんどん年をとっていくなかで、歴史をきちんと記録し、若い方たちにも知っていただくということには(きちんとバトンを渡すうえでも)とても大切な意味があるんじゃないかと思ったりもします。
 
 ともあれ、このようなハイクオリティな映像で、配給がついて一般の映画館で上映されるような作品として日本のゲイの歴史において重要な活躍をした方のドキュメンタリーが(『94歳のゲイ』だけじゃなく)制作された(はっ、そういえば南さんも現在94歳…これは何かの偶然なのでしょうか)、しかも同じゲイの監督の手によって制作されたということ、とても素晴らしいと感じます。本当にプロというか、メジャー感のある映画に仕上がっています。拍手!です。
 
 今後、プライド月間の6月に全国順次公開されることになっていますが、下記にお知らせするように、東京レインボープライドが5/30にコミュニティ向けの上映会を開催したり、一足お先に観ることができる機会もあるようです。ご都合のつく方はぜひご覧になってみてください。

熱狂をこえて
2026年製作/日本/105分/配給:アップリンク/監督:松岡弘明/出演:南定四郎ほか
 


◼︎5/30上映会のお知らせ
 本作は東京プライド前日の6月5日に東京で先行上映され、6月26日よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開されることになっていますが、さらにその前に、プライドマンスのキックオフ的なイベントとして、NPO法人東京レインボープライドがコミュニティ向けの上映会&トークイベントを開催することになりました。
「当日は、本作の監督と当法人共同代表による対談を通して、日本におけるプライドの歴史と現在、そしてこれからについて考えます。過去から現在、そして未来へ。プライドの歩みをともに見つめ、これからの一歩を考える時間となれば幸いです」
 
日本初のプライドパレードを開催した人物の半生ー 映画上映会「熱狂をこえて」
日時:5月30日(土)17:30-20:00
会場:Queer Space Tokyo(港区南青山7-10-3 南青山STビル1F)
参加費:500円
17:00- 受付開始
<プログラム詳細>
17:30- 映画上映(1時間45分)※日本語・英語字幕がございます。
19:15- 監督、出演者のご挨拶・コメント
19:30- 監督や出演者へのQ&A

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