REVIEW
恋する男子たちの姿に胸キュン…心に残る名作映画『せき止められた水』(レインボー・リール東京)
レインボー・リール東京上映作品レビューその2は、クロアチアの村に住むバイセクシュアルな男の子が主人公の『せき止められた水』。2人の男の子の仲睦まじさが愛しくて、胸が締め付けられるような思いがする作品です

レインボー・リール東京上映作品レビューその2は、クロアチアの村に住むバイセクシュアルな男の子が主人公の『せき止められた水』。2人の男の子の愛らしさにキュンとしつつ、それを認めない村人たちの残酷さに胸が苦しくなります。ベルリン国際映画祭でも上映され、テディ賞候補ともなった作品です。
<あらすじ>
マルコはクロアチアの村で両親と、仲の良い弟のフィチョと暮らしている。彼は運動神経抜群だが、学校を卒業したら父親の希望通り自動車整備士になるつもりだ。そんなマルコの平穏な生活は、二つの出来事によって一変する。一つは村が洪水に見舞われる危機、もう一つは初恋の相手・スラベンが父親の葬儀のために帰郷したことだ。




心に残る名作でした。マルコって運動神経抜群で、サッカー部のヒーローだし、アームレスリングの大会にも出たりするし、男女問わず人気があって、しかもダウン症の弟の面倒をすごくよく見てる優しい兄で、非の打ち所がないような好青年なんです。でも、そんな好青年のマルコにはただ一点、みんなには隠している過去があって、それが初恋の相手が男子だったということなのです。相手のスラベンは、そのことが原因でに父親に家を追い出されてしまい、単身、ベルリンに…。そんな父親が急に亡くなり、数年ぶりにスラベンが村に帰ってきます。初めはぎこちなかった二人ですが、再び会うようになって。そのマルコとスラベンの仲睦まじい姿に(まだ20歳そこそこの男の子なんですよ)おじさん、キュン死しそうになりましたよ…(ていうか涙が出てきました)。ホントに、なんでこの二人が幸せになれないんだろうって。でもこのクロアチアの田舎の村では、激烈な差別が待っていて…暗澹たる気持ちにさせられました(一瞬の出来事ではありましたが、スラベンのお母さんが息子の味方になってくれるシーンは素敵でした)
愛のある終わり方ではあったので、胸を撫で下ろしました。でも、本当にシビアな、胸が苦しくなるような作品だったため、上映後には拍手が起こらず、みなさん鎮痛な面持ちで帰って行かれました。
この映画、川べりが恋する二人のデートの場所として繰り返し登場するのですが、ある夜、大雨で増水し(村人が土嚢を積んだり)、ゴウゴウと恐ろしい勢いで荒れる夜がやってきて、もしかして「幸せの象徴」だったはずの川が「悲劇の舞台」に変わってしまうのでは…とヒヤヒヤしました。『せき止められた水』というタイトルはこの川の決壊を防ぐために積まれた土嚢を意味する「Sandbag Dam」の日本語訳ですが、いろんな意味が含意されていて、いい邦題だと思います。
96年の映画祭にドラァグクイーンとして参加して以来(スパイラルの1階から3階までレッドカーペットが敷かれ、フラッシュの放火を浴びながら颯爽と歩いた思い出)、今年で30年も、欠かさず映画祭に参加してきて、数えきれないくらいたくさんのゲイ映画を観てきたわけですが、昔はこういう、思春期のゲイ・バイセクシュアルの男の子が家族や周囲に受け容れられなくて悩むような作品ってたくさんあったのですが、だんだん欧米では受容が進み(ゲイであること自体は当たり前になり)、セクシュアリティの悩みというよりも、少数民族のゲイとか、軍隊のゲイとか、「ゲイ×⚪︎⚪︎」というタイプの作品が多くなっていきました。
そんななか、ひさしぶりに、直球の「セクシュアリティの悩み」映画を観た気がします。21世紀のヨーロッパでもまだこんなにゲイやバイセクシュアルはつらい思いをしなければいけないのか…という驚きがありました。
細かいことなのですが、マルコは女子からもモテるし女子とつきあう気もあるバイセクシュアル男子なので、割とノンケっぽい(長めの髪)ルックスなのに対し、スラベンは(劇中ではほとんど語られないのですが)ベルリンでゲイとして暮らしているので、髪もやや短めでひげもたくわえていて、ゲイっぽい見た目になっている、という対比がとてもリアルだと思いました。というか、スラベンがそういう見た目になっていることから逆に、ベルリンできっとゲイとして暮らしているんだろうな、と想像できました(服装にしてもそんな感じで、マルコは平気でサッカーのユニフォームとか着るけど、スラベンは絶対に着なさそう)。そういう「らしさ」って結構、大事だと思います(日本のこれまでのノンケさんが作ったゲイの映画やドラマはすべてそういう視点に欠けていると思います)
そして、これはものすごく個人的な感想で恐縮なのですが、スラベンがちょっとぽっちゃりしたcub(若い熊)だったのもよかったです。20年くらい前に映画祭で上映された『ベアカブ』もおじさんが中心で、こういう若いクマさんが登場するのは結構珍しいです。日本の(半分くらいの)ゲイの方たちにも受けると思います。ほとんど脱ぐシーンがなかったのが残念ですが、それでもスラベンのかわいさの魅力は十分すぎるくらい堪能できます。cub好きな方はぜひ、7月にご覧ください。
せき止められた水
英題:Sandbag Dam 原題:Zečji nasip 監督:セイェン・セルニック・カナク
2025|クロアチア、リトアニア、スロヴェニア|88分|クロアチア語 *日本初上映
ベルリン国際映画祭ジェネレーション14plus部門出品
6月20日(土)18:55-
7月12日(日)10:00-
INDEX
- ブリティッシュ・カウンシル+BFIセレクション:トランスジェンダー短編集+『5時のチャイム』上映(レインボー・リール東京2025)
- 映画『ドラマクイーン・ポップスター』(レインボー・リール東京2025)
- アート展レポート:『Home Pleasure|居家娛樂』 MANBO KEY SOLO EXHIBITION
- アート展レポート:Queer Art Exhibition 2025
- アート展レポート:THE ART OF JIRAIYA-ARTWORKS1998-2025 児雷也の世界展
- “はみだし者”を描くまなざしの優しさが胸を打つフランソワ・オゾンの最新作『秋が来るとき』
- すべての輝けないLGBTQに贈るホロ苦青春漫画の名作『佐々田は友達』
- アート展レポート:ノー・バウンダリーズ
- 御涙頂戴でもなく世間に媚びてもいない新世代のトランスコミック爆誕!『となりのとらんす少女ちゃん』
- アメリカ人とミックスルーツの若者のアイデンティティ探しや孤独感、そしてロマンスを描いた本格長編映画『Aichaku(愛着)』
- 米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』
- エキゾチックで衝撃的なイケオジと美青年のラブロマンス映画『クィア QUEER』
- アート展レポート:浦丸真太郎 個展「受粉」
- ドリアン・ロロブリジーダさんがゲスト出演したドラマ『人事の人見』第4話
- 『グレイテスト・ショーマン』の“ひげのマダム”のモデルとなった実在の女性を描いた映画『ロザリー』
- アート展レポート:藤元敬二写真展「equals zero」
- 長年劇場未公開だったグレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』がついに公開!
- アート展レポート:MORIUO EXHIBITION「Loneliness and Joy」
- 同性へのあけすけな欲望と、性愛が命を救う様を描いた映画『ミゼリコルディア』
- アート展レポート:CAMP
SCHEDULE
- 09.252CHOME HOUSE
- 09.26さっぽろレインボープライド
- 09.26First kiss
- 09.26POP POP BUNNIES -2nd STEP-
- 09.26露ナイ 秘密の楽園






