REVIEW
マレーシアで奮闘する人たちの姿を追った感動のドキュメンタリー映画『クィア・アズ・パンク』(レインボー・リール東京)
レインボー・リール東京上映作品レビューその4は、マレーシアという非常にLGBTQに対して不寛容な国で唯一、セクシュアリティをオープンにして活動しているパンクバンド「Shh...Diam!」のメンバーたちの姿を追った、感動を禁じ得ないドキュメンタリー映画です

クィアパンクバンド「Shh...Diam!」は、その名前(マレー語で「黙れ!」)に反して、自分たちの真実を世界に叫び続けている。マレーシアの政治情勢が変化する中で、バンドメンバーのファリス、ヨン、ヨヨの率直な会話を捉え、観客を彼らの生活へと誘う。クィアの権利を否定する国を背景に、自己表現、身体の変容、愛、親の期待、不安、政治参加といったテーマを掘り下げている。新型コロナという逆境を跳ね返そうと奮闘するバンドメンバーの軌跡を力強く描いたドキュメンタリー。(公式サイトより)
6月21日(日)にレインボー・リール東京で上映された『クィア・アズ・パンク』のレビューと、アフタートークの模様のレポートをお届けします。
『クィア・アズ・パンク』レビュー


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とてもパンクな『来訪者』を観たその20分後に『クィア・アズ・パンク』が始まりました。
マレーシアで唯一の、クィアネスをオープンにして活動しているパンクバンドを追ったドキュメンタリー。パンクと言ってもその音楽はいたってソフトで親しみやすい感じでした。どちらかというと、マレーシアという国でLGBTQが置かれている状況の厳しさがものすごくよくわかってよかったし、つらくてしんどい状況のなかで、このバンドのメンバーがどんだけ勇敢に(でも楽しそうに)闘ってきたかということもよくわかって、感銘を受けました。観れてよかったです。
バンドリーダー/フロントマンのファリスはトランス男性で、他のクィアのために、と性別移行の経過の写真をFacebookに残してあったり、デモに参加して声を上げたりという活動をする方ですが、あっけらかんとした気さくさの持ち主で、悲壮感があまり感じられないというか、素敵な方です。その明るさに救われます。
一緒にバンドをやっているヨーヨーはパートナーが外国籍で同性で、もちろん同性婚ができないのでパートナーの方はマレーシアにずっといられる保証がないのですが、そんな二人がパートナーの母国で結婚式を挙げるシーンには、涙させられます。
いろんな思いを歌詞に乗せて、歌と笑いで観客を魅了する「Shh...Diam!」のメンバーを、ずっと応援したくなります(いつか日本でライブがあったら、会いに行きたいと思うはず)
3年前にはレインボーカラーの腕時計をすると3年以下の禁錮刑に…という信じがたいニュースもありましたが、お隣のタイとは対照的に、イスラム教を国教とするマレーシアでは、同性間の性交渉はいまだに違法で、最大20年の禁固刑が科されます。野党・人民正義党の指導者アンワル・イブラヒム元副首相が1998年、当時のマハティール首相と対立し、副首相解任と同時にソドミー法違反で起訴され、その後も野党指導者として人気を集めるたびに起訴され、2015年に有罪が確定し、服役までするという悲劇に見舞われました(政敵のいやがらせだとの見方も強いです)。2017年には同性愛“防止”を啓発する動画に賞金を出すとか、2018年には車の中で愛し合おうとしていた女性二人を公開杖打ち刑に処すなど、ひどいニュースが伝わってきました。同性愛描写のある映画を上映禁止にしたり改ざんしたりなどの報道も度々ありました。
そんなマレーシアのクィアの人たちはどんなふうに暮らし、どんな思いをしているのだろう…と以前から気になっていたのですが、この映画を観て、(シンガポールと違って)デモもあるし、こうして「Shh...Diam!」がオープンに活動できているし、ということがわかり、厳しいながらも一筋の希望が見えた気がしました。
どの国にも、(例えば日本では美輪様が最前線で闘ってきたように)勇気を出して最初に本当の自分を堂々とカムアウトし、道を切り拓き、社会を変えようと奮闘してきた偉人たちがいたわけですが、「Shh...Diam!」のメンバーたちは、まさにマレーシアでのそういうパイオニアなのです。その姿が感動を呼ばないわけがありません。ぜひ、ご覧いただきたい映画です。
クィア・アズ・パンク
英題:Queer as Punk 監督:イーウェン・チェン
2025|マレーシア、インドネシア|88分|英語、マレー語 *日本初上映
ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品
6月21日(日)13:30-
7月11日(土)13:50-
アフタートーク
6月21日(日)の回の上映後、この作品のアソシエイトプロデューサーを務めた秦岳志さんと、映画研究、クィア批評の研究者である久保豊さんが登壇し、アフタートークが行なわれました。ざっとですが、対談の内容をご紹介します。(お二人のプロフィールはこちらをご覧ください)
久保:昨年、台湾女性映画祭でこの作品を拝見しました。劇中の「ロンリー・レズビアン」を肩を組んで歌ってる人たちがいましたね。
秦:うれしいですね。監督のイーウェン・チェンはもともとテレビ局に番組を提供している方で。
久保:ファリスもジャーナリストなんですね。
秦:マレーシアでは6割がマレー系ムスリムで、彼女は中華系女性というエスニックマイノリティで。社会に訴えたいという思いがあった。
久保:ドキュメンタリーってどうやったら面白くできるのかという話があって。撮りたいことを撮るだけじゃなく人に寄り添って、関係性をちゃんとつくることも一つあるのかな。ファリスはユーモアに溢れてるのがいいですね。私が好きなシーンで、ファリスが車に掃除機をかけてるシーンがあって。ドキュメンタリーではあまり見ないですよね。人を撮ろうとしてるからこそ。
秦:私はアソシエイトプロデューサーということになっているのですが、イーウェン・チェンが「Docs By The Sea」というアジアのドキュメンタリー作家の育成プログラムに参加した際に私がメンター講師を務めて、編集などを教えたということなんです。彼女は怖がって、この作品が上映できるのかどうか、怯えてたんですよね。最初の長編で、撮影も編集も独りでやって。国内で一緒にやってくれる人が誰もいない。(マレーシアのクィアの)日常を映画で観れるようにするには、と悩んでるのを励まして。
久保:撮れて本当によかったですね。
秦:最初に観た時は、結婚式とかステージも、こんなになかったんです。うまく撮れてるところを使ってた。キスシーンもなかった。どう提示するかというところで、国内でのハードルが難しさになっていた。ファリスの家族もカットされた。涙したシーンもあったのに…にじみ出てることを祈ります。
久保:マレーシアにはクィアのポジティブな表象がないと言ってた。僕も本を書いてるんですが、セクシュアリティについて編集者にご自身だけでなく周りの人にも関係しますが、どうしますか?と言われて、監督と似てるなと思いました。
秦:中華系トランス男性の映画があって、ファリスはそれがすごい好きで、自分はレズビアンだと思っていたけどトランス男性を知って解放されたと言っていました。オープンにできない人が大勢いるなかで、どう仕上げるか。
久保:今後の上映はどんな感じなんでしょうか?
秦:今回、日本初上映に感謝しています。字幕もつけていただいて。この先、自主配給も含めて検討します。来年目指して、ライブ付きでやれたら。
この後、質疑応答の時間が設けられました。
――(観客の方からの質問)本国では上映されたんですか?
秦:いい質問です。マレーシアでは政変が度々あって、どの政権も宗教右派の似たり寄ったりで。上映したら逮捕される可能性が高い。どういうかたちで上映できるかわからない。安全じゃないというのが現状です。
久保:プロテストなんだ、というセリフもありましたね。この映画を観ることもそう。大学でもやりたいです。
秦:ぜひ広めてください。
本国では上映が難しいということが、マレーシアの状況を雄弁に物語っていると感じました。
たくさんの方がこの作品を観て、同じアジアの、7時間くらいで行けるような国のクィアの人たちの現実に思いを馳せ、何かできることはないかと思うきっかけになればと願うものです。
INDEX
- 実在のゲイの生き様・心意気へのオマージュであり、コミュニティへの愛と感謝が込められた感動作:映画『スワンソング』
- ゲイが女性の体を手に入れたら!? 性をめぐるドタバタを素敵に描いた台湾発のコメディドラマ『美男魚(マーメイド)サウナ』
- 家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
- SATCのダーレン・スターが手がける40代ゲイのラブコメドラマ『シングル・アゲイン』
- 涙、涙の、あの名作ドラマがついにファイナルシーズンへ…『POSE』シーズン3
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
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