REVIEW
『きのう何食べた?』第5巻
シロさん&ケンちゃんというゲイカップルの毎日の晩ご飯(レシピと作り方の詳細もわかります)と二人の幸せライフを描いたゲイコミック『きのう何食べた?』。待望の第5巻が発売されました。今回はシロさんの意外な部分がくっきりと示され、インパクト十分な新キャラクターも登場し、たくさん笑わせてくれました。
弁護士の筧史朗(シロさん)&美容師の矢吹賢二(ケンちゃん)というゲイカップルの毎日の晩ご飯(レシピと作り方の詳細もわかります)をからめながら、二人の幸せライフを描いたゲイコミック『きのう何食べた?』の第5巻が発売されました。作者はあの男女逆転版『大奥』の作者、よしながふみさんです。
シロさんは43歳には見えない若々しさを保ち、仕事にやりがいを求めず、毎日定時退社しては自分流に手際よく晩ご飯を作ります。両親にはゲイであることを伝えていますが、実家とは距離を置いています。職場では特にカミングアウトしていません。
ケンちゃんは41歳の美容師で、明るくて人当たりがよく、どこでもオープンにしています。料理は得意ではなく、専ら史朗が作った手料理を食べる係です。
二人は、日常生活の中でささいなトラブルや面倒に巻き込まれつつも、何とかやり過ごし、最終的には二人で美味しいご飯を食べてほっこり…というパターンで連載が進んでいきます。
第2巻では二人の「なれそめ」が明らかにされ、二丁目が登場しました。第3巻ではケンちゃんが初めて大晦日を独りで過ごすという「大問題」が生じます。第4巻では、ちょっと頭の薄いがっちり系のヨシさんと、50代で恰幅のいいテツさんというカップルが登場し、テツさんが亡くなったときの相続についてシロさんに相談するという、ちょっとジーンとくるシーンがありました。また、風邪で寝込んでしまったシロさんのために、ふだん料理をしないケンちゃんがいっしょうけんめい晩ご飯を作るというお話もありました。
さて、最新刊である5巻は、ゲイのニューフェイスが登場し、マンガらしく笑いどころの多い、楽しい一冊になっていました。
買い物仲間である富永さん(カムアウト済み)のお宅におじゃまして料理の手伝いをしていたシロさんは、冨永さんのダンナさんから同じゲイの小日向さん(あの漫画家の小日向さんがモデル?)を紹介されます。小日向さんは今まであまり登場しなかった体育会系。二丁目でモテるタイプです。シロさんはいきなり小日向さんに恋愛相談を受けます。内容は、ジルベールという彼氏(竹宮恵子の『風と木の詩』だとピンときたあなたは通ですね)がわがままで困っているというものでした。二人はメアドを交換し、友達になるのですが、シロさんはケンちゃんに浮気と勘ぐられるのがいやで、そのことを秘密にしておきます。さて、シロさんはこの小日向さんとの関係をケンちゃんに黙っておくのか、それとも…という辺りを楽しんでください。
もう1つ、笑える(でもちょっと泣ける)エピソードを紹介しましょう。お正月にひさしぶりに実家に帰ったシロさんですが、両親が何やら嵐の前の静けさのような不気味さを醸し出しています。平和な昼食のあと、やにわに両親は「史朗さん、来年は彼氏をうちに連れてらっしゃい!お正月なら彼氏さんもお休みでしょう?」「史朗!お前そんな生半可な気持ちで同性愛やっとるのか!?」と叫ぶのです。
他にも、実はシロさんがアイドルオタクだったということがバレたり、(本当はシロさんは興味ないけど)二人で指輪を買いに行くエピソード、一見愛想がないけどスジを通すレジ打ちのおばさんのエピソードなども素敵でした。それから、ケンジの家族が今回、初めて登場します(ちょっと複雑なのですが…)
これまで通りリアルなゲイカップルのさりげない日常生活を描きつつも、今回はシロさんの小市民的で「おばさん」的な部分がフィーチャーされ、より愛されるキャラになっていた気がします。どんな読者にも「イイネ」と思わせるところが素晴らしいです。「このキャラにこれをさせるの?」みたいな絶妙なおかしみにあふれ、よしながさんの筆がますます冴えわたっているのを感じさせます。
INDEX
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
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