REVIEW
復刻版『銀の華』
日本のゲイコミックの金字塔と言うべき田亀源五郎『銀の華』の単行本が、待望の完全復刻となりました。今こそ、この名作をお手元におき、その世界観に酔いしれてください。

1994年から99年にかけてゲイ雑誌『バディ』で連載された総計900ページ近くに及ぶ長編大河ドラマ『銀の華』。2001年からジープロジェクトにて単行本(全三巻)が発売されていましたが、完売後、絶版状態となり、ネットでもその復刊を望む声が高まっていたのを受けて、このたび、ポット出版より完全復刻されることとなりました。全巻お買い上げいただいた方には特典小冊子「『銀の華』未収録図画集」が無料進呈されます(詳しくはこちら)。この復刻を祝し、ゲイ漫画の金字塔とも言うべき『銀の華』のレビューをお届けします。(後藤純一)
吉原で派手に遊び散らかしていた月島の銀次郎は、「金華楼」の女郎の悪口を言っていたのが仇となり、亭主に恨まれ、借金のカタに「金華楼」に身売りされるはめに。男女郎となった銀は、時には激しい折檻を受けながら、客を悦ばせるための修行を積み、苦界へと堕ちてゆく…という物語です。
しかし、この『銀の華』は、ただの和風ポルノ漫画ではありませんし、ただの残酷絵巻でもありません。類い稀な男女郎としての素質を持ち、数奇な運命をたどった銀次郎という男の生き様(愛と性。そして業の深さ)を、さまざまな人間模様を織り込みながら描ききった、せつなくも美しい大河ドラマです。
『銀の華』は銀次郎を中心とした明治末の吉原を舞台にした群像劇ですが、そこには、ゲイに限らない普遍的な人間模様の妙(ゲイだと思われる人は少ししか登場しないにもかかわらず、たいへんゲイテイストです)、そして計り知れない人間の心理や欲望の奥深さ(業とも言うべきもの)が描かれています。ノンケの方が読んでも十分にそのドラマとしてのクオリティは伝わるはずです(野郎どうしのハードな性描写を苦手と見る向きもあるでしょうが)。男女逆転版『大奥』のように、いつかはドラマや映画になってほしいと強く思います(今のご時世では難しいでしょうが…)
吉原で男女郎として生きることは銀次郎にとって、初めこそ苦界(地獄)に他ならないものであったけれども、次第に男に責められながら同時に快楽も芽生えていきます…たぶん、そここそが『銀の華』の真骨頂であり、他の(異性愛視点の)作品とは一線を画すものだと言えるでしょう。一方的に苦渋をなめさせられる不条理な物語(「金華楼」の亭主等が抑圧者、銀が被抑圧者という構図)ではなく、加虐/被虐の関係性のなかにエロスが生まれ、性的指向さえ超越していくのです。
しかしその結果、銀次郎は、身も心も男女郎となり、男なしでは生きていけない、四六時中男を欲する体になってしまいます(「土手のお金」とシンクロします)…それこそが苦界であるとも言えましょう(最終話はあまりにも悲しく、壮絶です)。果たしてぼくらはそんな銀を「かわいそう」と他人事のように眺めていられるでしょうか? 銀の姿が自分そのものに見えてしまうからこそ、激しく心を揺さぶられ、涙するのではないでしょうか。
そして『銀の華』は、田亀先生の渾身の筆使いが冴えわたる作品です。吉原の街並み、女郎たちの着物、男たちの体毛の一本一本まで丁寧に描き込まれ、あらゆるカットが絵になり、芸術としか言いようのない高みにのぼっています。その世界観の美しさにシビレ、何度でもこの名作に酔いしれてください。
INDEX
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