REVIEW
歌川たいじ『母の形見は借金地獄 -全力で戦った700日-』
歌川たいじさんの新作は『母さんがどんなに僕を嫌いでも』の続編的な作品。歌川さんのエンターテイナー精神が発揮された、壮絶にして感動的な実話コミックエッセイとなっています。

『じりラブ』『ツレちゃんに逢いたい』『ブレイクスルー』でツレちゃんとのほのぼのした日常(パートナーシップ)やお友達のこと、そしてゲイプライドというものを、実にラブリーに、感動的に描いてきた歌川さん。マンガのタッチはそのままに、1年前には歌川さん自身の子ども時代のつらいつらい経験を描いた『母さんがどんなに僕を嫌いでも』を発表し、大ヒットを記録しました。
お母さんが亡くなったあとに残された莫大な借金。その債務を逃れるため、相続放棄をしようとしたら、「金返せ〜」とゾンビたちに取り囲まれることに(まさかのホラー展開)。どうしても返さなければならなかった借金を保険金で支払おうとしたら、お母さんの死が事故か自殺かをめぐって保険会社と争う羽目に(まさかの火サス展開)。警察も裁判所も自殺だと決めつけるし、弁護士は髪の毛が九一(くっぴん)分けだし、なんだか歌川さんまでゾンビになっちゃいそう…
でも、大将やかなちゃん、『ブレイクスルー』で活躍したタカユキくん、歌川さんのおばあちゃんに似た女性(新しいキャラクター)など、応援してくれる人たちもいて。
果たして歌川さんは、初めての裁判で、大どんでんがえしの奇跡を起こせるのでしょうか?
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』は、本当につらい体験の数々に胸が苦しくなる、そしてそれを乗り越えてきた歌川さんの奮闘や周りの人たちのあたたかさに涙せずにはいられない一冊でした。今回の『母の形見は借金地獄 -全力で戦った700日-』は、負けたら借金地獄が待っている(それこそ首をくくりたくなる)という、壮絶にしてとんでもなく厳しい現実を描きつつも、ゾンビが出てきたり、どこか楽しく読めてしまう(歌川さんの気遣いですね)エンターテインメント作品になっています。
そんなふうに楽しく読めてしまいつつも、やはり、勝てるかどうかわからないのに700日(約2年)にわたってあきらめずに闘い続けたことは本当にスゴイことだと思いますし、誰もが歌川さんのようなスーパーマン(「なんとかする人」)ではありませんけども、「がんばれば、僕だってきっと…」と思えるはずです。右肩下がりの時代、閉塞感が日に日に強まる世の中にあって、この本は「あきらめないで」と勇気づけてくれます。もしかしたら、あなたにも奇跡を起こすパワーをくれるかもしれません。
INDEX
- FANTASTIC ASIA! ~アジア短編プログラム~(レインボー・リール東京2023)
- 映画『マット』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『秘密を語る方法』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
- 愛という生地に美という金糸で刺繍を施したような、「心の名画」という抽斗に大切にしまっておきたい宝物のような映画『青いカフタンの仕立て屋』
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
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