REVIEW
田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻が発売されました。ゲイの高校生・宙と、彼のよきメンターであるカフェのマスターのカミングアウトをめぐる物語は、ドラマチックに、誇り高く、美しく完結しました。

9月12日土曜日(奇しくも札幌でパレードが開催された日)、田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻が発売されました。物語はラストに向けて怒涛のような展開を見せます。すでにいろんな方がTwitterなどに感想を投稿していますが、あらためて3巻を通して読んでみて、これは本当に名作です!と言うほかない、ドラマチックで、PRIDEを感じさせる、美しくも感動的で、愛すべき作品だと感じました。レビューをお届けします。(後藤純一)
3巻のストーリー自体を書いてしまうと、これから読む方の楽しみを奪ってしまうことになるので、あまり直接的には書かないようにいたしますが、予想を超えたアクションや大胆な描写、秘められた激しさの噴出に驚かされました。1巻を読んだ時には想像できませんでした。3巻で『僕らの色彩』という作品の持つ「旨味」というか「真価」が一気に花開いた感があります。
『弟の夫』のマイクは最初からゲイとして登場し、弥一がホモフォビアを克服してマイクを家族として受け入れていく過程が描かれていましたが、『僕らの色彩』はゲイであることをどのように周囲に伝えていくかというカミングアウトをめぐるお話で、ゲイのカミングアウトということをここまで深く追求し、描ききった作品もほかにないだろうと断言できる作品になっていました(異性愛が前提となっている社会では、同性愛者は常にカミングアウトしていかない限り、勝手に異性愛者と見なされてしまうというのは、クィア・スタディーズのイヴ・セジウィックも『クローゼットの認識論』で述べていた問題だと思いますが、そのことをあんなに見事にビジュアル化することに成功した作品って今までなかったのではないでしょうか…スゴいです。歴史的です。今後、世界的に高く評価される予感がします)
個人的に最も感動したのは、宙の「怒り」のシーンです。自分ではなく、敬愛するマスターへの侮辱に対して怒るのです。この「怒り」の意味は、宙のモノローグによってあらためて捉え直され、それが(そのような言葉では名指されないものの、実質的に)「PRIDE」であることが示されるのです(それは宙によるささやかな「ストーンウォール暴動」だったと言っても過言ではありません)。なかなか自分自身、ゲイであることを受け入れきれず、内なるホモフォビアに苦しんでいるような仲間たちへの応援メッセージのような、とても大切なシーンだと感じました。
そしてもう一点、『僕らの色彩』を通しで読んでみて、とても素晴らしいと感じたのは、最初から最後まで、物語を駆動していてたのが「好き」という感情だったことです。宙は野球部の吉岡のことが好きで、でも、吉岡が「ホモなんて気持ち悪い」と言うクラスメートと一緒に笑っているのを見てショックを覚え、そして学校をサボって海辺でフテ寝するわけですが、そんな宙を見かけたマスターが、昔好きだった人にそっくりだったので思わず宙に向かって「好き」と言ってしまい、それがきっかけで、すべてが始まりました。宙の人生が色彩を帯びはじめました。宙はゲイの先達であるマスターのアドバイスのおかげで、孤立無援のグレーな世界から這い出て、カラフルな世界へと飛翔することができました。「好き」は本当に素晴らしい感情です。そして(公式アカウント田亀源五郎『弟の夫』『僕らの色彩』最新情報で、まさにそのシーンが固定ツイートに表示されているので、決してネタバレには当たらないと思いますが)宙は最後に、マスターに「俺とキスしてくれない?」とお願いします。マスターはメンター(教育的指導者)であり、祖父と孫ほども年が離れた白髪のおじさんですが、それでも宙は、友情のような、愛情のような、感謝の気持ちが入り混じったような「好き」の気持ちで、そうするのです。それは掛け値なしに美しく、感動的なシーンでした。読者のなかには、あくまでもゲイの初心者と頼れる先輩という「キレイな」関係を崩してほしくなかったと感じる人もいたかもしれませんが、あのラストだったからこそ素晴らしかったと、声を大にして言いたい気持ちです。
ゲイの世界では、友達どうしでも(彼氏がいたとしても)キスしたりハグしたりすることってよくあると思います(ありますよね?)。ご挨拶みたいなものだよね、なんて言ったりしますが、「好き」の表現のスタイル(文化)として、とても素敵だと思います。(頭の固い)ストレートの人たちが、男女間でつきあってもいないのにキスするとかありえない!と憤慨するのを尻目に、僕らは「好き」の印としてキスを交わすのです(今時はキスもなかなかできなくなってしまいましたが…)。そういう意味で、「PTA的」ではない、ゲイらしいラストで本当によかった、素敵だったと感じた次第です。
ゲイらしいと言えば、『弟の夫』のマイクもそうでしたが、『僕らの色彩』のマスターもヒゲクマ系のおじさんで、とてもよかったです(巻を重ねるごとにどんどんセクシーに見えてくるから不思議)。宙もなかなか男の子っぽい感じですし、吉岡もゴツめのキャラで、BLの現実離れした華奢な美少年たちとは一線を画し、ちゃんとゲイの目を喜ばせるようなキャラクター造型になっています(同じストーリーでも、これがBL的な絵柄だったら「うちらには関係ない世界だ」と思って読まない方もいたのでは…)。この作品が一般誌(月刊『アクション』という青年向けコミック雑誌)で連載され、世に送り出されたことの意義も、決して小さくないと思います。
まぎれもなく「ゲイによるゲイのゲイための漫画」であって、いろんな意味で素晴らしい、何度も読み返したくなる名作『僕らの色彩』全3巻をぜひ、お手元に。
『弟の夫』のように、ドラマ化されることも期待します。
『僕らの色彩』第3巻
田亀源五郎/双葉社
<原画展のお知らせ>
大阪の画廊モモモグラでは9月13日から「僕らの色彩」の完結を記念した田亀さんの個展を開催しています。『弟の夫』『僕らの色彩』を中心に、原画や設定資料が多数展示されます。会場ではサイン入りの単行本や、グッズも販売。グッズ等を3000円以上購入した方には、オリジナルポストカードが進呈されます。
『僕らの色彩』完結記念 田亀源五郎個展 ~モノクロから生まれる色~
会期:2020年9月12日(土)~10月4日(日) ※毎週木曜定休
会場:画廊モモモグラ(大阪市)
入場無料
INDEX
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
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