REVIEW
笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
漫画家の熊田プウ助さんが「ベアレスク」のショーで鮮烈なデビューを果たし、あれよあれよという間に人気パフォーマーになっていく様を裏話とともに面白楽しく描いたコミックエッセイ。心から幸せな気持ちになれる一冊です。
![笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』](assets/images/review/BOOK/Bearlesque/bearlesque_top.jpg)
漫画家の熊田プウ助さんが「ベアレスク※」のパフォーマーとしてデビューしてから、あれよあれよと言う間にAiSOTOPE LOUNGEで開催の「六尺J-POPナイト」や「包茎ナイト」、道後温泉のストリップ劇場、「デパートメントH」など数々のイベントに出演するようになり、多彩なパフォーマンスを繰り広げる様や、楽屋裏でのあれこれを面白楽しく描いたコミックエッセイです。いろんな意味で素晴らしい、幸せで夢のある一冊です。
※ベア(クマさん)が演じるバーレスク。バーレスクといえば、アギレラ主演の映画を思い出す方も多いと思いますが、あれはちょっとカッコよすぎるのではないでしょうか。どちらかというと乳首にタッセル(房)を着けてクルクル回したり、巨大な羽根の扇子で体を覆ったりという、ちょっと派手で面白さも感じさせるようなセクシー系ダンスです。
実は身近で熊田さんのショーをたくさん観てきたので、語りたいことは山ほどあるのですが、まずは、できるだけ客観的に、この本の魅力や面白さをしっかりお伝えしたいと思います。
『世界一周ホモの旅』シリーズや『おひとりホモ』シリーズはもちろん、『薔薇族』の「ROSEなひとびと」や『G-men』の「極楽コロシアム!!」、『バディ』の「脂の園」などゲイ雑誌での連載にも触れてきた方は、熊田プウ助さんのギャグ漫画家としての非凡さをよくご存じかと思いますが、その笑いのセンスに、ご自身のベアレスク・パフォーマーとしてのワクワクするようなサクセス・ストーリーが掛け合わされて、熊田さん史上最もキラキラした、ハッピーで、夢のある、感動的ですらあるお話がふんだんに盛り込まれた、それでいてゲイゲイしさ全開の、他に類を見ない一冊になっています。
もともとゲイナイトで何かやっていたわけではない人が、50歳近くになってパフォーマンスを始めて、評判を呼び、いろんなイベントに呼ばれるようになり、本場のストリップ劇場でも認められた(ノンケ男性客にも喜ばれた)という夢のようなストーリーは、人間、その気になれば何だってできるという希望を与えてくれます。パフォーマンスをやろうと思い立ってから実際にステージに立ち、プロのパフォーマーになるまでを描いたドキュメントとしても本当に素晴らしいです(考えてみれば、ドラァグクイーンにしてもGOGO BOYにしても、そういうストーリーを描いた作品ってあまりないですよね)
本の中で、いろんなドラァグクイーンさんやGOGOさん、いろんなイベントの様子も描かれていて、親近感がスゴいです。エスムラルダさん名前は出てないけど顔がそっくりだからすぐにわかった!とか、六尺イベントってこういう感じなんだへええ〜!とか、様々なディテールもお楽しみいただけます(あと、山岸涼子さんのバレエ漫画やガラかめを知ってると笑えるコマなどもあります)
熊田さんが50歳の誕生日を、AiSOTOPE LOUNGEを埋め尽くす六尺野郎たちに祝ってもらえたというエピソードなども、きっとほっこりさせられます(うっかり泣いちゃうかも)
長年ゲイナイトをたくさん体験してきた人として(ちゃんと数えてないですが、1000回近く行ってると思います)、常々不思議に思っていたのですが、ゲイナイトのパフォーマーと言えば、ドラァグクイーン(キレイ系からお笑い系まで)とGOGO BOY(キレイ系)または脱がないダンサーさん(キレイ系)という感じで、女装せず、男系で笑いを取りに行くパフォーマーってほとんどいないんですよね。ゲイにとって男性はエロスの対象なので、男の姿でステージに上がった時、まずはイケる/イケないとか性的な目で見てしまうということが、笑いを邪魔するのかもしれません。そういう意味では、熊田さんは本当に難しい、高いハードルを見事にクリアした、稀有な方だと思います(※熊田さんはセクシーじゃないという意味ではなくて、圧倒的な芸の(ゲイの?)パワーと面白さで観客の性的な目線を凌駕しているわけで、実はそれはスゴいことなのです)
実は5年前、阿佐ヶ谷の小さなクラブで熊田プウ助さんが初めてベアレスクをやった時の鮮烈なデビューに立ち会っているのですが、曲選びやコンセプト(○崎良美「どきどき旅行」でハワイアンショー&○村英里子「誘惑のチャチャ」で茶摘みショー)がまず面白いし、身のこなしやダンスの素養、間の取り方、脱いだ衣装のあしらい、オチへの持っていきかたなど、どれをとっても完璧で、本当にこれが初めてなの?とビックリするくらいのクオリティでした。天才だ!と思いました。
熊田さんは「これを機にベアレスク人口が増えたらいいな」と語っていますが、そうそう誰にでもできるわけじゃなく…(DQやGOGOも誰でもできるわけじゃないのと一緒で)、熊田さんのコミック作家としての笑いのセンスと、ベアレスクという着眼点のよさ、脱ぎっぷりのよさ、そしてパフォーマーとしての天性の才能が結実して、唯一無二の存在になれたんだと思います。
それでも、個人的には、ベアレスクに限らずセクシーかつ面白いパフォーマンスを見せてくれる男系パフォーマーの方がもっとたくさん増えたらいいなと期待してます。未来の新しいジャンルを切り開くのはあなたかもしれません!
ゲイシーンって、ふとしたきっかけでステージに上がってスポットライトを浴びたり、おもてなしスタッフに選ばれたり、いろんなチャンスに恵まれてますよね。超モテ筋って感じでなくても、マッチョやガチムチでなくても、やる気とセンスがあれば、誰もがスターになれる可能性があるんだよってことを、こんなに生き生きとリアルに、楽しくハッピーに描いた本ってなかったなぁと思います。ゲイの世界の「夢と魔法」が詰まった一冊です。本当に素晴らしいのでぜひ読んでみてください。
ホモ漫画家、ストリッパーになる
熊田プウ助:著/実業之日本社:刊
※こちらに、熊田さんがGOGOのDOさんやCourseKさんと一緒に「デパートメントH」に出演した時のお話が掲載されています。ステージ写真も載ってます。ぜひ見てみてください。
INDEX
- リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
- 愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
- ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの同性愛をありのままに描いた映画『TOVE/トーベ』
- 伝説のデザイナーのゲイライフに光を当てたドラマ『HALSTON/ホルストン』
- 幾多の困難を乗り越えてドラァグクイーンを目指すゲイの男の子の実話に基づいた感動のミュージカル映画『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』
- ドラァグクイーンに憧れる男の子のミュージカル『Everybody's Talking About Jamie』
- LGBTQ版「チャーリーズ・エンジェル」的な傑作アニメ『Qフォース』がNetflixで配信されました
- 今こそ観たい、『It's a sin』のラッセル・T・デイヴィスが手がけたドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』
- 美しい少年たちのひと夏の恋と永遠の別れを描いた青春映画――『Summer of 85』
- 80年代UKのゲイたちの光と影:ドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』
- 映画『日常対話』の監督が綴った自らの家族の真実――『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』
- "LGBT"以前の時代に愛し合い、生き延びてきた女性たち――映画『日常対話』
- 映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『シカダ』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『ノー・オーディナリー・マン』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『恋人はアンバー』(レインボー・リール東京2021)
- 台湾から届いた感動のヒューマン・ミステリー映画『親愛なる君へ』
- 日本で初めて、公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画『片袖の魚』
- 愛と自由とパーティこそが人生! 映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』レビュー
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