REVIEW
何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
Tiwtterでコストコに出かけるゲイカップルの漫画をお読みになった方も多いと思いますが、元の漫画『ふたりでおかしな休日を』もぜひ読んでみてください。何食べオマージュな「お菓子作り漫画」で、イマドキのゲイのリアルが描かれた作品です。

しっかり者でお菓子作りが趣味のトシくん(不動産屋を経営)と、キャピキャピキャラで甘いものが大好きなゴンちゃん(介護職)のゲイカップルの日常を描きながら、毎回お菓子づくりのシーンが登場、とくれば、これは「きのう何食べた?」のパロディ…いえ、オマージュですよね。タイトルの「おかしな休日を」は、「お菓子」と「おかしな」をかけたダブルミーニングです。
よしながふみ先生の「きのう何食べた?」は、みなさんご存じの通り、ドラマ化・映画化もされましたが、2007年から『モーニング』誌で連載され、当時としてはゲイカップルの日常を描いた作品が男性誌に連載されるってスゴいこと!と話題になったのですが、お話が進んでいくと、カミングアウトのことや、親との関係、お正月の過ごし方など、ゲイが直面しがちな様々な事柄がリアルに描かれていき、茶化したりバカにしたりせず、真摯にゲイに寄り添う姿勢に感動させられる(どんだけゲイに詳しいのか…と感嘆させられる)素晴らしい作品です。「LGBTブーム」以前、世の中に与えた影響は決して小さくないと思います。
『ふたりでおかしな休日を』は、そんな大傑作にオマージュを捧げるとともに、より突っ込んだかたちでゲイのリアルを追求した作品だと思います。
冒頭、1コマ目に登場するゲイカップルと思しき2人のイカニモっぷり(これ自分じゃん、とか、友達の誰々じゃん、って思う方、多いと思います)から始まって、ゴンちゃんがややぽっちゃり(がちむち…ではないと思いますが、GMPDのPかな?)で髪も短めなラブリーキャラっていうのが親近感湧きますし(何食べのケンジはあまりゲイ受けしない見た目だったと思いますが、ゴンちゃんはイケるって方、多いと思います)、何食べのジルベール&小日向さんカップルに当たるような、おうちに遊びに来るゲイカップルが、オネエ全開のゲイバーのママ&バツイチ子持ちノンケ上がりの太めイモ系というカップルなのですが、このノンケ上がりさんがどれだけこの世界でプレミア感あるかを語るシーンとかは、わかりみ深いです(作者の伊藤さん、ゲイのことを知りすぎている…よしながふみ先生もたいがいですが)
ストーリー的にも、会社でカミングアウトしてないトシくんが、部下の女子が「ウチもLGBTフレンドリーやりましょう!」と言い始めて戸惑ったり(この女子がまた、典型的な「ゲイ=オネエタレント」と勘違いしてるキャラで、絶妙にウザいのです)、ゴンちゃんがそれを聞いて「クビにしましょ!」って言ったり(笑)、でも、LGBTフレンドリー自体はいいことなので、やろうよと言って、なんとか「社長がゲイ」と思われないようにうまくやる方法を考える…といった、イマドキのゲイのリアルを巧みに描いていて面白いと思いました。会社がLGBTフレンドリーに舵を切ったり、社内でLGBT研修をやるようになったりするなか、みんなアライになりましょう!と呼びかけられて、自分、当事者なんだけどな…と思ったり、という経験をされた方、結構いらっしゃるのではないかと思いますが、そんな時代のリアリティをメジャー作品で描いたのは『ふたりでおかしな休日を』が初めてじゃないでしょうか。
お菓子作りのシーンもよかったです。今までケーキ焼いたりとかしたことなかったけど(そんなに興味なかったけど)初めて作ってみようかな…と思えました。そのお菓子作りのシーンが、各回のストーリーと絶妙にからんでいるところも、何食べそっくりです。もちろん、レシピやワンポイント解説などのページもあって親切&実用的。
最後のおまけで読めるゲイバー「なんだか悪いわね」の4コマ漫画も面白いです。
「何食べ」の"姉妹作"として(「ふたおか」って略されたり?)今後、世間でも大ヒットするかもしれません。「二匹目のドジョウ」を狙うテレビ局からドラマ化の話が来たりして?(その際はぜひ、ゴンちゃん役は変に痩せてない、原作通りの俳優さんでお願いしたいですね)
なお、Twitterで見た!という方も多いと思うのですが、トシくんとゴンちゃんがコストコに行った時の話を描いた漫画も素敵です(なんと6.4万件ものいいねがついてます)
ぜひ元ネタである『ふたりでおかしな休日を』を読んでみてください。こちらで何話か無料で読めます。
ゲイカップルがコストコに行ってビックリした話(1/2) pic.twitter.com/4VzqBWrCYU
— 伊藤正臣 (@itoomi) January 21, 2022
作者の伊藤正臣さんは(失礼ながらよく存じ上げなかったのですが)2005年に第65回少年チャンピオン新人漫画賞で奨励賞を受賞、2007年に週刊少年チャンピオンより『伝説の男マネさるたひこっ!』で漫画家デビュー、その後、『片隅乙女ワンスモア』(幻冬舎コミックス)、『タネも仕掛けもないラブストーリー』(集英社)、『人魚姫の水族館』(白泉社)、『マグネット島通信』(新潮社)、『恋とマコトと浅葱色』(LINEマンガ)など多数の連載を手がけてきたというプロの方です。他の作品もちょっと読んでみましたが、とても面白かったです。いろんな人間関係に習熟してると思いますし、そうした人間関係のなかから意外性のあるドラマを描き出すのが上手な方なのではないかと。才能を感じます。

『ふたりでおかしな休日を』1
著:伊藤正臣/刊:ヒーローズ/748円(税込)/175ページ
INDEX
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
- ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』