REVIEW
LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
6人の実在するLGBTQユースが体験したり悩んだりしたことに基づいて、野原くろさんが漫画を描き下ろし、さらに6人から聞いたリアルなエピソードをエスムラルダさんがエッセイにまとめた一冊『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』をご紹介します。
高校を舞台に、性的マイノリティの子や周囲の友達やいじめっ子やいろんな生徒たちの人間模様を生き生きと描いた青春群像劇な漫画(野原くろさんが描き下ろしています)と、その登場人物たちの詳細なライフヒストリーや思いについてのエッセイ(実在のユースのみなさんにエスムラルダさんがお話を聞いて書き下ろしています)、さらに、LGBTQの基礎知識や「なぜアウティングしてはいけないのか」といったコラムも加えられた、いまのLGBTQユースのリアルがギュッと詰まった一冊です。
主人公は、男性として扱われることに違和を覚えながらも女性として生きたいわけでもないと思い悩む二葉凛。凛の友達で明るく優しい性格が魅力の桜庭陽菜は、そんな凛の悩みを聞いてくれます。二人と同級生で、寡黙な優等生対応の真瀬智史も、やはり凛を支えてくれる存在です。別のクラスには、明るくカミングアウトしているゲイの星野虹太や、ノルウェー留学を終えて転校してきたオープンリー・レズビアンの大月さやかもいます。そして、ラグビー部のスターであり、腕力の強さをひけらかし、”女みたく”振る舞う凛や虹太に嫌がらせをしてしまう黒崎輝といういじめっ子もいます。そんな登場人物たちが、周囲に初めてカミングアウトしたり、いじめられたり、反撃したり、励ましたり、距離ができたり、どうしたらいいのか悩んだりしながら、少しずつ「本当の自分」を受け容れられるようになっていく…という物語です。きっと『glee/グリー』を思い出す方も多いであろう、ハイスクール青春群像劇ですが(カロフスキーも登場しますし)、『glee/グリー』と違うのは、この物語の登場人物たちは、実在するリアルなLGBTQユースがモデルになっているということです(個人が特定されないよう、ちょっとずつ設定を変えたりシャッフルしたりはしているそうです)
野原くろさんの漫画にウットリしたあと、6人の登場人物のより詳細なライフヒストリーや思いを綴ったエッセイパート(エスムラルダさんが実際にモデルとなったユースたちに会って話を聞き、書いています)を読むと、さらにリアルに伝わってくるものがありますし、このエッセイの中でのカミングアウトもあり、また、性のことだけではない、複雑な家庭の事情が関係するお話なども語られています。エスムラルダさんもあとがきで書いていますが、昔も今も、ユースの悩みは変わらないのだなぁとしみじみ、思わされます。
LGBTQのユースが、「自分たちもいろいろ悩んだり、つらいこともあったけど」と自身の体験を語りながら、同じユースの悩める仲間たちに向けて応援のメッセージとして世にトビタたせた一冊です。例えば学校で教材として取り上げたりもできるような本ですし、全国の図書館などにも入ったらいいなと思います。
この本ができあがるまでの経緯は少々複雑で、文科省が展開する日本の若者の海外留学への気運を醸成する官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」の日本代表プログラムによる派遣留学生のなかに、LGBTQやLGBTQ関連テーマでの留学経験者も何名か参加していて、大学のサークルやプライドパレードの企画などを通してプライドハウス東京と接点を持ち、話すなかで、「もし、LGBTQ+に関するレガシーを残すのなら、私たちと同じように悩んでいるユースに向けて「レガシー」を残したい」との思いにプライドハウス東京が共鳴し、「ユース発!LGBTQ+コミックエッセイを出版し、全国に届けたい!」というプロジェクトが立ち上がったのでした。ですから、漫画にもエッセイにも、モデルとなったみなさんの海外留学のエピソードが出てきます。
実はこのプロジェクト、駐日英国大使館もサポートしてくれていて、4月28日に駐日英国大使館で出版記念イベントが開催されました。
ヘレン・スミス首席公使や、アマンダ・ミリング英外務・英連邦・開発省閣外大臣(アジア担当)がご挨拶したあと、Nao Hanaokaさん、中岸巧さんというユースのお二人と、松中権さん、エスムラルダさんを交えた4人でのパネルトークが行なわれ、この本ができるまでの経緯や思い、制作秘話や苦労話などが語られました。正直に言うと、最初はこのプロジェクト、あまりピンとこなかったのですが(留学を推進したいのかな…と思ってしまったり)、こうして直接ユースの方々が目の前にいて、思いを語る姿を見ていると、腑に落ちるというか、応援したい気持ちにもなりました(人間ってそういうものですよね。リアルに会って話したりするのは大事です)。中岸さんの「ユースは守られるべきというだけじゃなく、可能性を秘めているんです」という言葉が印象的でした。
ちなみに、私は中座してしまって見届けられなかったのですが、トークイベントが終わった後、エスムラルダさんがまるで英国女王のようなドレスを着て登場する素敵な光景も見られたそうです(画像はこちら)
海外留学とか英国のイメージを与えてしまったかもしれませんが、あまり気にせず、イマドキのLGBTQ+Allyの高校生たちのリアリティに触れ、野原さんの漫画を愛で、慈しむという目的でぜひ読んでみてください。きっと、6人のうちの誰かは「自分はこのキャラクターに似ている」と思えたり、感情移入できたりすると思います。そして、漫画を読み終えたあと、上記のカラーの挿絵を眺めると、胸がキューっと締めつけられるような思いに駆られるハズ。遠い昔に置いてきてしまった、忘れかけていたピュアな感情がよみがえるかもしれません。大切にとっておきたくなる一冊です。
トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー
著:野原くろ/エスムラルダ
サウザンブックス
A5判/並製本/150ページ
INDEX
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
SCHEDULE
- 07.06BEAR-TRAIN《8th ANNIVERSARY》
- 07.06JOCKSTRAP DRAGON
- 07.072ちょパチ