REVIEW
シザー・シスターズ『ナイト・ワーク』
NYのクラブ・シーンが生んだゲイ・ユニット、シザー・シスターズの4年ぶりのニューアルバム『Night Work』が発売されました。今までのバリエーション豊かなポップ路線とはひと味違う、洗練されたパーティ・アルバムに仕上がっています。でも、その楽しいダンス・チューンの背景には、ある思いが込められていました…
シザー・シスターズはニューヨークのゲイシーンから誕生したジェイク・シアーズ(元GO-GO BOYのゲイ)、アナ・マトロニック(バイセクシュアル)、ベイビーダディ(ゲイ)、デル・マーキー(ゲイ)の4人組ユニットです。ちなみに紅一点のアナは、彼らとNYローワー・イースト・サイドのハロウィン・パーティで知り合ったそうで、アナもかなりキテレツな格好をしてたそうです(笑)
シザー・シスターズはディスコ/ファンク/ロックを横断したポップでダンサブルなサウンドと、ゲイテイストなパフォーマンスで人気を博します。2004年のデビューアルバム『シザー・シスターズ』は、ピンクフロイドをディスコ・テイストでカバーしたスペイシーなデビューシングル「Comfortably Numb」、カムアウトしようソングだったりするポップな「Take Your Mama」、美しく胸に迫るバラード「Mary」、ちょっとひねた感じのグルーブがソソる「Filthy/Gorgeous」など、実にカラフルでハイクオリティな極上のポップアルバムで、2004年の全英アルバム・セールスNo.1を記録し、ブリット・アワードで最多3部門(ガガと同じです)という栄誉にも輝きました。2006年にはセカンド・アルバム『ときめきダンシン』がリリースされ、日本でもシングル「ときめきダンシン」がヒットしました。
そして6月30日、ファンが首を長くして待っていた4年ぶりのニューアルバム『Night Work』が到着! アルバム発売に先がけ、1stシングル「Fire With Fire」のPVがリリースされました(偶然にもほとんどカイリーのNEWシングル&アルバムと同じタイミングでした)
過去のアルバムは、多種多様なジャンルの曲がまるでパッチワークのように組み合わされたバラエティ色豊かなポップ・アルバムでしたが、『Night Work』はほぼ一貫してダンス・ミュージック。ジェイクも「パレットの中の色数を減らしてみた」と語る通り、統一感のあるパーティ・アルバムに仕上がっています。
ジャケットはかの有名なロバート・メイプルソープの写真が使われていますが、初め、ジェイクがメイプルソープの写真を使おうと提案したときは、メンバー全員に反対されたんだそうです。それでもこの写真が使われることになったのには、深い理由がありました。ジェイクはこのように語っています。(こういうインタビューが載っているライナーノーツって素晴らしいと思います)
「今作のコンセプトの1つは、70年代から80年代のNYを中心としたアメリカのゲイシーン。
あの時代がいかに解放的で、進歩的で、享楽的だったか。大勢のアーティストが台頭してディスコ・ムーブメントが起きた。パトリック・カウリー、シルヴェスター、クラウス・ノミらが出て来て、パーティも盛り上がって、みんながカミングアウトした素晴らしい時代だった。ところが、いきなり大勢の人たちが突然次から次に死に出した。そんな時代の流れ。僕は15歳のときにカミングアウトしたけど、その時もまだエイズは深刻だった。その脅威におびえながら生きていた。でも、あの時代にはとても魅力を感じるんだ。
そして考えた。もし、シルヴェスターやクラウスが生きていたら、音楽はどうなっていただろう?ってね。あのパーティの行き着く先はどこだったんだろう?って。
だからこのアルバムでは、当時途切れてしまったところから歴史を引き継ぐつもりで、さっき話した疑問を投げかけながら、『実はあのパーティでは終わらなかったんだ』という仮定の下で遊んでるんだ。それがこのアルバムの核なんだよ。
アートワークにメイプルソープを使ったのも、彼があの時代を体現しているからなんだ。あの時代ならではの快楽主義、美、闇、そして悲劇、それらすべてを象徴している。
ジャケットのお尻はピーター・リードというバレエ・ダンサーだよ。本当に美しい、華麗な人だった。彼も80年代に他界してるんだ。ゲイシーンにとっての母親みたいな存在の人たちと自分の人生の間にたくさんの類似点がある気がする。それがジャケットに込めた思いだよ。それに、遊び心があるイメージでしょ? 艶かしくて、喜びを感じさせてくれると同時に、繊細な背景もあるという」
『Night Work』は、単純にパーティを楽しもうというだけじゃなく、輝かしいゲイ・ディスコ時代へのオマージュであり、エイズで亡くなった先人たちへの鎮魂歌なのでした。
そう言えば、アナのお父さんもゲイで、彼女が15歳の時にエイズで亡くなったのでした。「エルトンがやっているような素晴らしいチャリティ活動に私も参加したい」と語っているように、彼女もジェイクと同じ思いを共有していたのでした。
そういった背景を踏まえたうえでこのアルバムをじっくり聴くと、底抜けの明るさの奥に一抹の『悲しみ」があるのを感じます。聴けば聴くほど、深みが増し、味わい豊かになっていくアルバムです。
6月27日(日)にはイギリスで毎年開催されている世界最大の音楽フェス「グラストンベリー・フェスティバル」で初出演のカイリー・ミノーグと共演したシザーシスターズ。今回カイリーのアルバムにソングライターとして親友のジェイクが参加していることもあって実現した共演でした。カイリーとシザー・シスターズは『Night Work』から「Any Which Way」を熱唱しました。(写真右)
8月1日(日)にはフジロックフェスティバルに出演することが決定しています。生シザーズを観たい方はぜひ、お出かけください。
また、カイリーと同様、MySpace上でカラオケコンテストが開催されており、最優秀3名はアーティスト本人が決定し、なんと来日の際に一緒にカラオケに行くことができるそうです!
シザー・シスターズ カラオケコンテスト
■応募期間
7月1日(木)〜7月14日(水)
■賞品(ユニバーサル・インターナショナルご提供)
・優秀賞 3名:シザー・シスターズ本人らと一緒にカラオケ(※1優秀賞者につき2名様まで友人を同伴することが可能です)
・一次審査通過賞 20名:サイン入りグッズ
詳細はこちら
『ナイト・ワーク』
ユニバーサルインターナショナル/2,200円 (税込)
1. ナイト・ワーク
2. 新しいのがお好き
3. ファイアー、ファイアー、デザイアー
4. お気に召すまま、気の向くまま
5. ハードに鳴らせ
6. 最後のひとしずく
7. イイ感じ、コンナ感じ
8. ボクの子猫ちゃん
9. くっついていたい
10. セックスとバイオレンス
11. 夜行性
12. 見えざる光
13. ファイアー、ファイアー、デザイアー ~Digital Dog Radio Remix (ボーナス・トラック)
14. 見えざる光 ~Us Mix (ボーナス・トラック)
15. 見えざる光 ~Siriusmo Remix (ボーナス・トラック)
INDEX
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
- こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」
- 最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』
- 時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
- トランスやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
- 夢のイケオジが共演した素晴らしくエモいクィア西部劇映画『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』
- アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
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