REVIEW
DVD『レディー・ガガ ザ・ストーリー』
21世紀が生んだ世界のポップ・スター、レディ・ガガの誕生の軌跡を追ったDVD『レディー・ガガ ザ・ストーリー』。前代未聞の数分間にわたるゲイパレードのシーンが、ガガとゲイとの関係を鮮やかに印象づけます。
これまでに発表された伝記本『レディー・ガガ』『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』と同様、裕福なイタリア系アメリカ人の家に生まれ、パリス・ヒルトンと同じカトリック系のお嬢様学校に通っていたステファニー・ジャーマノッタがいかにしてポップ・クイーン、レディ・ガガになったのか、というストーリーです。音楽大学に通いながらストリッパーをやったり、レディ・スターライトとコンビを組んで強烈なパフォーマンスを繰り広げたり、フサーリと恋に落ち、デフジャムとの契約が断られ、レッドワンと出会ってついに才能が開花し、プッシー・キャット・ドールズに曲を提供しながらワールド・ツアーに同行して話題を呼び…。その内容自体はこれまでの本とほぼ同様ですが、ガガの伝記本を書いたライターなど、複数の人がガガという人物の非凡さを熱く語っていく構成や、「どこにでもいるふつうの女子高生」が「ショッキングなパフォーマンスをする女性」になり、レディ・ガガへと変貌を遂げていくという過程がビジュアルとして生き生きと見えるのは、やはり面白いです。
途中、ガガとマドンナが比較されるシーンがありますが、2人の最大の共通点は「ゲイを支援していること」だとして、ゲイパレードの映像が流れ、いかにガガがゲイのファンを大事にしてきたかということが語られます。「ゲイカルチャーのためのガガの活動は、まさに伝説的」「ガガはパーフェクトなゲイのアイコンだ」「彼女はゲイコミュニティを意識している」「ハデに着飾り、夜の町へ繰り出すパーティ好きなゲイは、ガガのテーマとぴったり重なる」…パレードの映像は、昨年の首都ワシントンD.C.で行われた全米プライドマーチでガガ自身が行進する映像につながります。周りのゲイたちは「レディ・ガガを大統領に!」と叫び、ガガは「ありがとう、愛してるわ!」と答えます。このシーンだけで(全体で63分あるうちの)数分間をも占めています。ポップスターについてのビデオでこんなにゲイパレードの映像が使われることは未だかつてと思います。自身もパレードを歩いたガガだからこそ、です。感動しました。他にも、HIV予防のプロジェクトについてシンディ・ローパーと対談し、「LGBT向けのTV局に仕事で行ったときに会って、意気投合した。ゲイクラブでもよく会うの」と語るシーンがあり、元カルチャークラブのボーイ・ジョージが「ジギー・スターダスト以来のショッキングさ」とガガを絶賛するシーンがあり、ガガがペレズ・ヒルトンにあいさつするシーンがあり、絶対にゲイだと思われるファンがいっしょに写真を撮ってもらって感激で泣くシーンなど、随所にゲイが登場します。
もちろん、バイセクシュアルであることを公言していることや(ガガに向かって「僕もバイセクシュアルです」と言う男性のファンが映っています)、インターセックスだという噂にも触れられています(その噂に対し、「性別は重要ではない。私は私」とコメントしたことで、ゲイやトランスジェンダーが支持した、とライターが語っています)「存在自体が話題」であり「パフォーマンスアート」である「21世紀の」ポップ・スター、レディ・ガガ。その誕生に、ゲイのファンとの相思相愛ぶりが欠かせないファクターであったことが、よくわかる映像でした。
ガガのPVやライブ映像などはいっさい入っていませんし、若干編集も粗いかな…という気もしますが、そういう意味で、一見の価値はあると思います。(後藤純一)
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
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- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta