REVIEW
シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
シンコイ最終章がこの10月に公開され、内外のたくさんのファンの熱い注目を集め、そしてついに、感動のフィナーレを迎えました。レビューという名のラブレターをお届けします
9月24日にシンコイ最終章の公開が発表され、世界のファンのみなさんが歓喜、そして1ヵ月をかけて全4話が公開され、最終話が公開された10月29日には「シンコイ」がトレンド入りを果たすほど、大勢の方がX(Twitter)にシンコイへの思いを熱く語りました。YouTubeのコメント欄にはハングルや中文や英文や、世界のいろんな国の言葉が並んでいます。日本のみならず、海外でも愛されるようになった作品でした。最終話は1日で4万回以上、視聴されています。まだまだ伸びると思います。
最終章のレビューを書くにあたっては、ストーリーに極力触れないようにいたしますが、第1話は「えーっ!」て思わず声が出そうなショッキングな幕開けで、そこから「起承転結」的に話が進んでいき、若手キャストのサブストーリーなんかも描かれていたりして、最終話では、みんなが感動し、キモチよく泣けたと思います。多くの人が「こんな素敵なドラマを作ってくれてありがとう」とコメントしていましたね。
ジュンノスケさんが男泣きするシーン、マサキさんの奥深い優しさ、シンジくんの思いの切なさ、そしてリョウタロウくんの涙。名シーンがたくさんありました。ユウキさんもカッコよくなってました。オネエキャラはモテない・デキないというこの世界の「お約束」を覆したところにも好感が持てました。
第二章でショウタくんとリョウタロウくんというニューフェイスが登場したように、今回の最終章ではシンジくんとセイヤくんが登場しました。カワイイ子を投入して新陳代謝を図るのはアイドルグループの王道のやり方ですね。定石をしっかり踏まえていらっしゃいます。
ヒゲクマ・GMPD系が好きな人にとってはたまらないキャスティングですし、そういうアイドルグループのような(「萌え」とか「推し」とか)鑑賞の仕方もできる一方、ただそういう見た目がカワイイ人たちを揃えて中身のないことをやってるわけじゃなく、ちゃんとしたドラマになってるし、最終章はさらにクオリティを上げてきたと感じました(ロケ地とかも素敵でしたよね。いろいろ丁寧に考えて作られていたと思います)。いい作品を届けたいという製作陣の「思い」が感じられましたし、しっかりそれがファンにも伝わったと思います。
シンコイがどうしてこんなに多くの人を惹きつけるのか?については、こちらのレビューでほとんど語り尽くしたと思います。GMPD(ベア)系のゲイによるゲイのリアルを描いたドラマはこれまでにもあったのですが、シンコイはキャスト(のルックス)も脚本も映像も音楽もクオリティが高く、また、純愛に徹しながら「切なさ」や「ひたむきさ」を追求しているところが新しく、かつ、ゲイバーを中心としたゲイコミュニティの温かさが描かれているところや、新橋のゲイシーンを盛り上げようとする気持ちに支えられているところもよかったと思います。笑いもあるけど「ヤスくない」というか、「気概」や「本気度」を感じさせますよね。
最終章を観終わって、シンコイの魅力について新たに感じたこともいろいろありました。
みんなそれぞれ会社勤めしてて、真面目に仕事を頑張って、時には仕事で大変な苦労もして、苦しいけど、それでも腐らず、グレたりもせず、一生懸命生きていく「真っ当さ」が描かれていたのがよかったと思います。私の元彼が以前「ゲイだからってバカにされたくないから、人一倍仕事を頑張る」と言っていたのですが、きっとそういう「矜持」を持って頑張ってる方って多いと思うんですよね。
一方で今回は、彼氏に甘えられない不器用さとか、逆に誰かに頼らなきゃやっていけない不甲斐なさとか、恋愛で誰かを傷つけてしまうこともあったりする…という、ある意味の人間的な「弱さ」も率直に描かれていたと思い、そこもよかったと思います。映画やドラマってほとんどの場合、主人公は絶対的な正義で強くて無敵のヒーローとして描かれるわけですが、そうじゃない地点に行ってしまってファンを戸惑わせたというのは、オドロキでしたし、ドラマとしてスゴいと思います。
恋愛の描き方についても、こうして3シリーズを振り返ってみると、シンコイって、片思いが多かったり、せっかくつきあっても壁にぶち当たって壊れそうになったりという、なかなか恋愛が成就しない、ある意味「幸薄い」恋愛ドラマだったと思うのですが、考えてみると、それはゲイの恋愛のリアルそのものなんですよね。出会いやセックスがお手軽になればなるほど、本気の恋ってなかなかできなくて(ダメなら「はい次」ってなりがちで、なかなか長続きせず…そもそもつきあっても親兄弟や職場の同僚が応援してくれるわけでもなく…)、だからこそ、一生添い遂げるのは「この人だ」と思えるような相手との出会いは本当に貴重だし、かけがえのないものです。そんな運命の人と出会いたい、本気の恋をしたいと思う気持ちすらも、もはや貴重なものになっているかもしれない時代に、本気で恋する男たちの熱さを描き、恋っていいよなって思い出させてくれたことは奇跡だし、そこがやっぱりシンコイのいちばんの偉業なんじゃないかと、あらためて思いました。
ただ、恋って自分本位になりがちなもので、ともすると人を傷つけてしまったりも…。なので、誰かに迷惑をかけたくないとか愛する相手のために自分が我慢をしようという大人で理性的な部分と、恋を貫こうとか甘えようとする感情との間に葛藤が生まれることもしばしばで…好きだからこそ、わざと突き放したり、相手のことを思って身を引いたりもして…そういったリアリティが「切なさ」を喚び起こしますよね。「真っ当に」生きたいと思ってるけど、人は「弱い」生き物でもあり、こと恋に関しては、失敗したり、傷つけあったり、正解がわからない泥沼に陥ったり…でもそんなとき、友達が背中を押してくれたり、手を差し伸べてくれたりするっていうところもリアルだし、よかったです。きっと似たような経験をしている方も多いと思いますし、誰に感情移入できるかできないか、とか、あのときこうすればよかったのに、とか、いやあれはこういうことだったんだよ、とか、いろいろ語りたくなるところも魅力ですよね。
「いい夢を見せてもらった」「いい恋をしようと思えた」「世の中捨てたもんじゃない」と思えた方も多いことでしょう。大げさかもしれませんが、ハマった方にとっては、広い意味で「生きる勇気」を与えてくれた作品だと思うんですよね。人はパンのみに生きるわけじゃなく、セックスのみに生きるわけでもなく。本気の恋もしたいし、何でも話せる友達も大切にしたい。人生においていちばん大切なことや「幸せ」の何たるかを再確認させ、様々な事情でそれをあきらめてしまってる人にも「大丈夫、あきらめないで、未来を信じて」っていうエールを送ってくれた、そんな作品だったような気がします(褒めすぎでしょうか?)
ヒゲクマ・GMPD系好きな方はすでにご覧になったかと思いますが、そうでない方もぜひ(GMPDとかイカニモ系が好きじゃない方もいらっしゃるかと思いますが…いったんその気持ちはおさめていただいて、作品として観ていただければと思います)。まだシーズン1・シーズン2を観ていない方はこちらからどうぞ。
(文:後藤純一)
INDEX
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
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