REVIEW
心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
世界数万人のファンの方のために、シーズン1・シーズン2・最終章で完結したはずのシンコイに少しだけ物語を前に進めるスピンオフ(全2話)が作られ、公開されました。レビューをお届けします

2024年11月、ファンの皆さんの「待ってました!」の喝采のなか、シンコイのスピンオフ作品(全2話)が公開されました。
恋愛のこと、新橋のゲイシーンのことを中心にしたシンコイで、これまで描かれてこなかったようなこと――ゲイの世界のネガティブな部分やカミングアウトのことが描かれつつ、幸せな気持ちになれる胸キュンシーンがたくさん詰まっていて、ファンの皆さんが心から満足し、拍手を送れるようなスピンオフになっていました。
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おそらく多くの方はすでに視聴済みかとは思うのですが、これからご覧になる方もいらっしゃると思うので、ストーリーは直接的には書かないようにします。ただ、なんとなく何が起こったかわかってしまうかも…そこはご容赦ください。
第一話では、ハンカチをグギギと噛むような思いにさせられる(こういう人いるよね、という)典型的なイヤな人物が登場し、あろうことか、シンコイの天使とも言うべきリョウタロウくんを傷つけるという、世界数万人のシンコイファンの血圧が上昇したに違いない展開がありました。親友を傷つけられたショウタくんのとった行動に、二人の友情に多くのファンが感涙したことでしょう。このスピンオフの最も泣けるシーンでした。
(逆に、あのイヤな人を演じたイケメンさん(およびその友達役)、よくあの役で出てくれたなと感心しました。勇気要りますよね)
第一話のラストは、ジュンノスケさん&タツヤさんの行く手に暗雲が立ち込めるのではないかとドキドキさせるシーンでした。
第二話でその意味が明かされ、あちゃーってなりましたよね。同じ立場だったら皆さん本当にため息が出ちゃうと思います(親とかカミングアウトしてない友達が突然部屋に来て大慌てとか、似たような経験をした方、少なくないと思います)。女性ならまだ言いやすいけど、ノンケの男の人には言いたくない、警戒してしまうという方は多いと思いますが、彼はガサツでイヤな人というわけではなく、いい話になってましたね。ホロリとさせられました。昨今「結婚しないの? 彼女いないの?」と聞くのは“よくない”ことだとされていますが、悪気なく聞いちゃう人のこともわかるし、壁や溝を作ってしまうのではなく、酒を飲んで話しているうちに自然と通じ合うこともあるよね、という。そこは夢物語かもしれませんが、ノンケさんって意外と理解あるよ?というのは今の時代のリアルだと思います。
そういう意味では、第一話では「ゲイにもイヤな人はいる」ということを、第二話では「ノンケでもいい人はいる」ということを描いてたわけで、そこはある面での真実を突いてるし、ドラマに深みを与えていたと思い、感心させられました。
(キホン全員ヒゲクマ系っていう世界にあって、イヤな役の人だけが二丁目的なイケメンマッチョ系というのは、現実世界では常に若くてマッチョなイケメンがゲイの世界の“ヒエラルキー”の頂点にいてそれ以外の人は見下されたりしているからこそ、という批評性なのだと解釈しています。太め嫌いな人はきっとネット上で文句を言うことでしょうが、そのことがまさにゲイの世界にベアフォビア?ファットフォビア?が蔓延していることの証左であり、このドラマの存在意義を浮き彫りにします。それに、そもそものシンコイの意義として、太めでヒゲで短髪で、という世間のイケメンの基準に当てはまらない登場人物たちは、昼間の職場では“むさ苦しい”などと蔑まれたりしているかもしれず、だからこそ、こうした人たちの生き生きした姿や幸せを描くことに意味があると言えます。それをBEAR PRIDEと言い換えてもいいと思います)
コテツさんとセイヤくんのエピソードも素晴らしいと思いました。
二丁目と違って新橋上野浅草あたりではオネエ(だったりキャピキャピしてたり)なタイプってマイノリティだと思うのですが、そういう二人をまるごと肯定し、祝福してるところがよかったです。愛すべき二人です。笑えて泣ける名シーンだったなぁと。ラブリーでした。
ラストシーンは、小さな波を乗り越えてホッとしたジュンノスケさん&タツヤさんの穏やかな日常を象徴する素敵なシーンでしたが、紆余曲折ありながらも試練を乗り越えて結ばれた二人のことが思い出され、余韻がひたひたと押し寄せるようなシーンでもありました。いつまでも幸せにと、この世界が永遠に続きますようにと願わずにはいられない、尊さがありました。
(フィクションの世界にここまで没入でき、その登場人物のことがここまでリアリティを持って胸に迫ってくるっていうのは、ドラマとしてスゴいことだと思います)
ジュンノスケさん&タツヤさんのカップルは、例えば欧米で『ハートストッパー』のチャーリー&ニックがアイコン(象徴的なベストゲイカップル)となっているように、アジアンゲイベアコミュニティのアイコンになったのではないでしょうか。国境を越えて、たくさんの人々の心の中にあたたかな灯火のように、宝物のように宿ったと思います。今後も話題に上り続けることでしょう。
俳優としては素人かもしれませんが、アジアンゲイベアコミュニティの中で絶大な人気を得たような出演キャストの皆さんのビジュアルの良さ、その存在感と脚本・演出の良さが見事に結晶し、奇跡が起こりました。「僕も真剣に、一生懸命、恋しよう」と思った方は多いことでしょう。「このシンコイの世界で生きられてたらどんなにいいだろう」と思った方も多いと思います。いろんな方の人生にいい影響を与えたはずです。
これで本当に完結だそうですが、もし何年後かに、まだもう一度、さらなる「少しだけその先」を観ることができたらうれしいですね。今は、シンコイを作ってくれて本当にありがとうございました、と花束を贈りたい気持ちです。
INDEX
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
- ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
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