REVIEW
映画『夜間飛行』(TILGFF2015)
第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けします。7本目は『後悔なんてしない』のイ=ソン・ヒイル監督の新作『夜間飛行』。韓国の男子高校生たちが直面する厳しい現実を、そのなかで紡がれる友愛の輝きを描いた名作(ある意味、問題作)です。

第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で観た作品のレビューをお届けします。7本目は『後悔なんてしない』のイ=ソン・ヒイル監督の新作『夜間飛行』。韓国の男子高校生たちが直面する厳しい現実を、そのなかで紡がれる友愛の輝きを描いた名作(ある意味、問題作)です。個人的には、今年の映画祭で観た作品の中で最もズシンときた、一生忘れることができないだろう作品でした。(後藤純一)








中学では親友だったヨンジュ、ギテク、ギウンの3人。高校に進学すると、ギウンは問題児(不良)となり、いつしかオタクのギテクをいじめるグループのボスとなっていました。ゲイのヨンジュはギテクを見捨てず(自分もいじめられる危険があるのに)、いい友達であり続けました。ある日、ヨンジュはギウンに自転車を盗られたことをきっかけに、ギウンを追い回すようになります。3人の関係性がそこからまた変化していき、思わぬ方向へと進んでいきます…
これが韓国社会の現実なのか…と暗澹たる気持ちにさせられます(少なくともパレードに対するアンチの激しさを見れば、大げさではないと推測できます)。ゲイの男の子も、大人になれば自立して、チョンノのゲイバーに出かけたりして(キム・ジョグァンス作品のようなゲイコミュニティにもコミットできるでしょうが)、高校という閉塞的な空間では、逃げ場がありません。自殺した生徒のエピソードが語られる場面がありましたが、それはいじめられているギテクや、ゲイであるヨンジュにとっても他人事ではありませんでした。
この映画は、きっとある種の観客(映画祭に来られる方のもしかしたら大半)には拒絶反応をもたらすと思います。とても暴力的なシーンが多いから。それも、ヤクザ映画のようなカラっとした娯楽的なバイオレンスではなく、この上なく陰湿で、シャレにならない、本物の暴力だからです。ゴトウも個人的にバイオレンスが苦手で、いじめのシーンの苛烈さには、目を覆いたくなるものがありました。それでもなお、(必死に自分を奮い立たせながら)映画を見届けました。そして、最終的には、観てよかった…と思えました。それは、暴力の意味が反転し(愛の表現となり)、感動を呼ぶ瞬間(カタルシス)があり、絶望的な現実のなかで孤独な魂を寄せ合う一筋の希望が見えたからです。
それは、これまでほとんど経験したことのない類の、体の奥底に眠っていた何かが揺り動かされるような、激しくエモーショナルなものでした。
フーコーの言う「友愛」ってこういうことじゃないかとさえ思いました。ホモソーシャルな権力の王国が、男たちが不意に愛し合いはじめることで撹乱されるのです。
同時に、そこには「男の美学」があり、また、エロティシズムがありました。
ハン・ギウンという男の子は、(ヨンジュが見た目普通であるのとは対照的に)すさまじいエロス(男の色気)を発しています。不良グループのボスでありながら、その本心は誰も知らない、ミステリアスな存在であり、ある意味、孤高のアンチヒーローです。
もともとヨンジュたちとつるんでいたぜギウンはなぜ今、こんなに荒れているのか。母親と二人暮しの貧しい生活をしながら、夜はピザの配達のバイトをしています。同時に、ヤクザっぽい男と関係を持ちながら、誰かを探しています。それは、犯罪を犯した後に行方知れずとなっていた父親だと明らかにされます。
そうしたサイドストーリーが進んでいくにつれ、ギウンのナイーブな面が見えてきて、取り巻きたちのようなただの悪党やギテクのような情けない輩とは一線を画す、人間的な魅力が輝きを帯びてきます。ヨンジュだけが、彼のことを知ろうと努め、愛します。初めはそれを気持ち悪いと拒んでいたギウンも、「お前には友達がいない」という言葉でハッとさせられます。世界が変わっていく瞬間です。
もう1つ、大切なエピソードがあります。ヨンジュはときどき、アプリで知り合ったほかの高校のゲイの子と「Night Flight」という閉店したゲイバーの跡地で会っているのです。そこは街を見下ろす高台にあり、二人は夜景を眺めながら苦労を分かち合い、ほんの束の間、心を慰め合います。「Night Flight(夜間飛行)」は、彼らにとって唯一、安心してゲイでいられる居場所であり、大切な隠れ家なのです(現実が過酷だからこそ、そういう場所がかけがえのない意味を帯びてきます)。「Night Flight」から望むソウルの夜景は、間違いなく、この映画の最も美しいシーンのひとつでした。
孤独で、不器用で、だからこそ愛しい、男たちの絆の物語。ほろ苦くて、どこか滑稽で。正直、『ブロークバック・マウンテン』の時のように、しばらく余韻を引きずってしまうような、切ない映画でした。ゴトウは二度ほど、泣きました。
今後、『後悔なんてしない』のように一般上映されるかもしれませんし(なにしろベルリン国際映画祭に出品された作品です)。韓国映画の特集上映などに盛り込まれることもあるかもしれません。機会があればぜひ、(いろいろ覚悟のうえで)ご覧になってください。
INDEX
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』






