COLUMN
円山てのるのバルセロナ&マドリード・パレード・レポート
ライターの円山てのるさんが、スペインのバルセロナとマドリードのパレードを体験し、コラムを書いてくださいました。東京以外のパレードは初体験だというてのるさんの驚きや興奮が生き生きと伝わってきます。
円山てのるさんは、セクシュアルマイノリティがもっと社会で認められるようにという気持ちで、セクシュアルマイノリティの人権を訴える活動をレポートしたり、一般のサイトでも精力的に記事を寄稿したり、地味ながら、とても意義のあるライター活動を展開してきた方です。昨年の東京プライドフェスティバルの実行委員も務めていました。
そんなてのるさんは、現在、アイカタさんといっしょに長期海外旅行に出かけており、たまたま遭遇したスペインの大規模なプライドパレードの模様を自身のblog「てのる【Gay】タイムズ」にアップしていました。それがとても素敵でしたので、2つのパレードを経験して感じたこと、というテーマで「g-lad xx」にも寄稿していただきました。(編)
マドリードのプライド・パレード
海外のプライドパレードを初体験して思うこと~バルセロナとマドリード
いま、僕は連れ合いと一緒に、初めてヨーロッパの街々を訪ね巡っています。6月の後半から7月上旬にかけ、スペインに滞在していました。ご承知のように、この時期は世界じゅうの諸都市でプライドパレードが開催されていますが、僕たちはたまたま、バルセロナとマドリードのプライドパレードに遭遇する機会に恵まれました。
僕らはこれまで、東京で開催されたプライドパレードにしか参加したことがありませんでした。海外のプライドパレードに接するのは、今回が最初でした。海外のプライドパレードと言えば、オーストラリア・シドニー、ブラジル・リオデジャネイロ、アメリカ・サンフランシスコ/ニューヨーク、あるいは台湾・台北……などの都市を思い浮かべます。そして、どれもがそれぞれに東京のプライドパレードよりもはるかに大きな規模で、また独自の特徴をそなえていると聞いています。
スペイン第二の都市バルセロナと首都マドリードのプライドパレードが、かねてよりどのように開催されていたのかについては、バルセロナのほうが去年に次いでの第二回開催であること以外、僕らに、まったく予備知識がありませんでした。
知っていたのは、スペインが同性婚を認める国のひとつであることぐらいでした。
バルセロナのプライドパレードは6月27日に開催。プラザ・ウニベルシタットという、新宿駅東口前ロータリーぐらいの大きさの広場が参加者の集合場所でした。パレードの開始時刻午後6時が近づくにつれ、おもいおもいにレインボーフラッグを手に持ったり身体に巻き付けたり、あるいはその個性豊かな服装などから明らかにLGBTと判るよう主張しているハイテンションなお調子者たちが、どんどん集まってきました。はじめ、パレードの隊列に加わった当日参加の人たちは、さほど多いとは感じられませんでしたが、ふと気づくと沿道には、僕らのようにパレードの出発を待ちかまえている人たちの数が、あっという間にふくれあがっていたのです。
LGBTとその家族が絆を深め合うことをサポートする団体やHIV予防啓発組織など、さまざまなグループが横断幕を掲げて行進したあと、小さなものから超弩級なものまで、十種類ぐらいのフロートがパレードを賑わわせ、それにつられて、なおも大勢の人垣が沿道へ重なるようになりました。そして、いくつか、まるでライヴハウスのようにノリノリなフロートが通過するや、沿道の観衆が我先にとパレードの隊列の中へ雪崩れ込んでゆきました。
パレードは時間を経るごとに大きな人波にのみ込まれ、ゴール地点のエスパーニャ広場に到達するころには、数万人ないしは十数万人の大群衆が会場を埋め尽くす状態と化しました。エスパーニャ広場には、巨大スピーカーやDJブースを積んだ特設ステージが組まれ、大音響の中、夜おそくまで屋外レイヴが盛り上がり続けていったのです。
マドリードの新宿みたいなエリア、
Gran Via。パレードの熱狂は
深夜まで続いていたそうです
ところで、バルセロナから地下鉄と国鉄(RENFE)を乗り継いで一時間ほどのところに、シッチェスという名前の海水浴リゾート地があります。バルセロナをはじめ、スペイン各地から老若男女が遊びにやってくる保養地で、美しい砂浜と地中海特有の穏やかな青い海が心をなごませてくれる別天地です。
実は、シッチェスの海岸はヨーロッパ屈指のゲイビーチとして、知る人ぞ知るプレイスポット。ゲイが集まるレストラン・バー・カフェそしてディスコ、さらにホテルやアパートが充実しており、週末だけ借りて過ごすコンドミニアムも大人気。要するに、新宿二丁目にきれいな砂浜と海がつき、宿泊施設が充実されて、毎晩毎夜、バーやディスコで大盛り上がりをしているのと同じです。隣国フランスはもちろん、ヨーロッパ各地から大勢のゲイたちが遊びに訪れています。一般の男女カップルや夫婦、あるいはお子さんがたを含めた家族連れの観光客があふれる中、完全に融合して、ひと目でゲイ/ゲイカップル(ビアン/ビアンカップル)と分かる人たちが「どっさり」……まるで新宿二丁目レインボー祭りのときのように、堂々と愉快そうに集結しているのです。
そのシッチェスの小さな街で、今年”はじめて”プライドパレードとその付属イベントが開催されると聞いています。プライドウィークは7月9日から13日まで繰り広げられ、メインイベントのパレードは7月10日(土曜)に開催される予定だそうです。
スペインのゲイシーンが、現在とっても熱くなっているのは間違いないのに、すでにゲイリゾートのメッカと言われているような場所でさえ、プライドパレードの営みは、まだ始まったばかりなのだと分かります。ゲイ/LGBTの存在が、ひとつの大きな文化的ファクターとして完全に社会の中へ溶け込んでゆくには、スペインでさえ、これから先、もっと継続した努力とそれに見合う時間が必要になるのだと、僕は知りました。
マドリードのプライドパレードは7月3日に開催。アルカラ門広場から、マドリード随一の繁華街グランヴィア、カッリャオを通り、新宿御苑がまるごと収まってしまうほど大きなスペイン広場へと連なる、全長10キロメートル近くになろうという、両側あわせて4車線の大通りが行進のコースでした。ところが、パレードがスタートしても、ほとんど進んでゆきません。驚いたことに、プライドパレードの開始時刻から、コース本体そしてゴールのスペイン広場にいたるまでが、文字通り立錐の余地もないほど、無数の人人人によって完全に満たされてしまっていたからです。もとより、目視して概数を数えられるような人間たちの塊ではなく、あまりに巨大すぎ、いったいどのぐらいの人たちが現場を埋め尽くしているのか、見当がつきませんでした。後で調べてみると、おそらく百万人規模の大動員となったようです。
僕らふたりの存在があまりに小さかったものですから、現場で何が起こっていたのか、初めて体験した海外のプライドパレードでしたのでなおのこと、正確に描写することが叶いません。とにかく、現場に充満したすべての人人人が、数限りなく次々と現れるフロートのまき散らす、鼓膜を打ち破りそうなサウンドに合わせて、ひたすら踊り盛っていた……としか表現のしようがありません。プライドパレードであったにも関わらず、まったく「行進」する状態ではありませんでした。大通りを満杯にした人間たちの塊が、延々とレイヴ+レイヴ+レイヴ。もう、そこにはLGBTもヘテロも、ありませんでした。あったのは、人間たちすべての共感でした。
集結地となったスペイン広場には、百万人を超える大群衆が、深夜におよんでカイリー・ミノーグをスペシャルゲストに迎え、天地がひっくりかえるほどの盛り上がりをみせていたはずなのですが、僕らは、途中のグランヴィアまで付いてゆくのが精一杯でした。人間たちの塊の壁があまりにも固く、前へ進むことができなかったからです。
翌日のTVニュースでは、そのカイリー・ミノーグ・コンサートのひとこまが映っていましたが、背景には大きな打ち上げ花火の大輪の華々が咲き競う様子が。あれが、プライドパレード締めくくりのメインイベントだったとは……本当に、日本ではあり得ない光景でした。
バルセロナ・プライドパレードの規模と水準でも、僕らふたりは、そのあまりの鮮烈さに圧倒されていました。そして、その十倍も二十倍も強力なマドリード・プライドパレードでは、いったい何が起こっていたのかと、僕らは夢かまぼろしを見ていたかのようでした。
バルセロナのプライド・パレード
ひとえに、あれだけの信じられないようなハチャメチャを実現してしまえるのは、スペイン気質(かたぎ)と申しましょうか、言うなれば、今年のサッカーW杯で、スペイン代表チームが僕らを興奮させてくれたような、是が非でもシュートを決めにゆく集中力、選手たち相互の信頼と連携連帯、そして、あの突き刺すような気合い……などで喩えられる、要は鍛え抜かれ熟成されたソウル=魂(たましい)の力に頼るところが大きいと、僕は感じます。
きっと、それは彼・彼女らスペインのLGBTにとっては簡単な話なのです。自分らしく生きる/存在すると、ただそれだけのことだと、僕は思うのです。
東京の場合、警察当局……突き詰めれば日本の政府が強い規制を敷いていますから、スペインで開催されたのと同様なプライドパレードを実現させることは、いまのところ、限りなく不可能に近いと、空しい気持ちにならざるを得ません。
だから、スペインを目指すことなどに、初めからこだわる必要などないと思います。僕ら日本人は、日本でできる最大限を目標に、僕ららしく、できるだけの挑戦をすれば良いのです。
赤い屋根のテントは、協賛しているビール
メーカー、Estrella Damm社のブース
誰もが、どんな人でも、すべての僕ら人間が、それぞれのありかたのまま、素直に生きてゆくことが最も大切なのだということを、ひとりひとり、心にしっかりと刻み込んで、プライドパレードでも何でもない日々の日常を、ゆっくりと落ち着いて生きてゆくことが、まず大切なのだと思います。
そして、自信と誇りをもって、恥ずかしがったり照れたりすることもなく、「僕は/私はゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー……です。僕は/私は、すべてのあなたたちと同じ人間です」と思える/言える人になってゆくことが、いつか将来、日本のどこかでスペインのように超グレートなプライドパレードを開催する、その日へと連なってゆくのだろうとも。
僕と我が連れ合いは、できれば東京へ戻ってからも、さり気なく手をつないで歩けるようになってゆきたいものだ……と考えています。
パリにて
(円山てのる)