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「akta」を訪問したピーター・ピオット博士、コミュニティセンターの重要性を強調

2014年10月31日(金)、前国連合同エイズ計画事務局長でありエボラウイルス発見者でもあるピーター・ピオット博士が、来日の折、コミュニティセンター「akta」を訪問し、HIV予防におけるコミュニティ活動の役割の重要性について、語ってくださいました。

「akta」を訪問したピーター・ピオット博士、コミュニティセンターの重要性を強調

(Photo by toboji)


昨年、「コミュニティセンター「akta」が無くなる!?」という記事をお届けしました。その後、「akta」存続を求める署名活動も広がりを見せ(フライングステージの公演や映画祭でも署名が呼びかけられるなどして)、本当に多くの方が署名に賛同してくださいました。が、厚労省の予算削減の方針は変わりなく、状況はあまり進展しておらず…。そんななか、2014年10月31日、前国連合同エイズ計画事務局長でありエボラウイルス発見者でもあるピーター・ピオット博士が、来日の折、コミュニティセンター「akta」を訪問し、HIV予防におけるコミュニティ活動の役割の重要性について、語ってくださいました。その時の模様をレポートしつつ、あらためてコミュニティセンターの重要性について書いてみたいと思います。「コミュニティセンター「akta」が無くなる!?」の続編でもあり、世界エイズデー間近なこの時期にぜひ読んでいただきたい記事です。(後藤純一)

 

前国連合同エイズ計画事務局長のピーター・ピオット博士が「akta」を訪問


HIV予防の世界的権威
ピーター・ピオット博士
 2014年10月31日(金)、前国連合同エイズ計画(UNAIDS)事務局長のピーター・ピオット博士が「akta」を電撃訪問しました。昨年の安倍昭恵さん訪問もずいぶん驚きをもって受け止められましたが、ピーター・ピオット博士来訪は、HIV予防の世界の「ラスボス」登場とでも言うべき大事件です。

 ピーター・ピオット博士は、1980年にアントワープ大学で微生物学の博士号を取得し、アントワープ熱帯医学研究所在勤中の1976年、ザイールでエボラウイルスを共同で発見。その後、サハラ以南アフリカにおいてエイズ、女性の健康、公衆衛生の分野で研究を指揮。そして、世界保健機関(WHO)の国際エイズ対策プログラム副ディレクター、元国連事務次長をつとめたほか、1995年から2008年まで、国連の10機関が合同で関わる国連合同エイズ計画(UNAIDS)の初代事務局長として世界のエイズ対策におけるリーダーシップを発揮しました。2009年から10年までインペリアル・カレッジの国際保健研究所所長をつとめ、現在はロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長となっています。1995年にベルギー国王より爵位を、2009年に英国より聖マイケル・聖ジョージ勲章(CMG)を、2013年に日本政府より第2回野口英世アフリカ賞を、タイよりプリンス・マヒドン賞を授与されています。

 エボラウイルスの発見者でもあるピーター・ピオット博士は、10月30日に来日し、エボラ出血熱の世界的流行を食い止めるための対策について都内で講演を行ったり、政府要人と会合をもつなどしていましたが、多忙なスケジュールの合間を縫って、10月31日の午前中にコミュニティセンター「akta」を訪れました。「akta」には、スタッフの方たちだけでなく、研究者の方たち(東京大学医科学研究所教授で厚労省エイズ動向委員会委員長の岩本愛吉さん、名古屋市立大学看護学部教授で長年ゲイ・バイセクシュアル男性向けのHIV予防に携わってきた市川誠一さん)、NPOの方たち(JaNP+の長谷川博史さん、ぷれいす東京の生島嗣さんら)、メディア関係者(産經新聞の宮田一雄さん)なども集い、意見交換が行われました。

 10時半過ぎ、「akta」にピーター・ピオット博士とハイジ・ラーソン博士(ピオット夫人)が到着すると、みなさんは拍手で出迎えました。
 30分程度しか時間がとれないということで、さっそく意見交換会がスタートしました。
 まず、NPO法人akta代表の荒木順子(ジャンジ)さんが、日本のゲイ・バイセクシュアル男性の感染の状況について概観し、「ゲイコミュニティの人々に最も響く予防のメッセージやコミュニケーションの方法を知っているコミュニティの人たち自身による働きかけが、aktaの活動の基礎になっています」と述べました。続いて、aktaのスタッフで研究者の岩橋恒太さんが、スライドなどを用いてaktaのこれまでの活動を報告しました。
 ピオット氏は、aktaがゲイシーンのさまざまな場所(ゲイバーやハッテン場など)にアウトリーチしていることを「多様な層に個別に対応しており、素晴らしい」と高く評価しました。「どの国でも、HIV陽性の人々、ゲイコミュニティの人々など、当事者コミュニティの活動がエイズ対策の根幹になっています」
「ロンドンは、ダイバーシティがあり、同性婚が認められ、無料で医療を受けられる制度が整っており、良いNPOも多数ある。それでも、毎日3〜4人のゲイ・バイセクシュアル男性がHIVに感染しています。エイズは終焉が見えているというメッセージがUNAIDSやエイズ学会から出されているが、それは間違っているだけではなく、危険だとさえ感じています。残念ながら今、世界的に見ても、医学的アプローチの方が公的なエイズ対策として認識され、コミュニティ活動への支援が減りつつある状況ですが、このままだともっと多くの人が感染し、状況が悪化するでしょう」
 それから、JaNP+の長谷川さんが「やっとここに来てくれたね」と、「東京はまだゲイ・バイセクシュアル男性の間での感染が5%程度に抑えられている。それはこれまでの活動の成果」と語り、ピオット氏が「多くの成果に拍手を贈りたい」と賛辞を贈る場面もありました。
 ピオット氏は今回、エボラ出血熱に関する仕事で来日されましたが、「緊急に対処すべきエボラ出血熱と、長く流行が続くエイズのような感染症とは別の性格のものである」という点も繰り返し強調しました。

 今回のピオット氏の「akta」訪問は、毎日新聞首都圏版やグローバルファンド日本委員会(世界エイズ・結核・マラリア対策基金=グローバルファンドを支援する日本の民間イニシアティブ)の記事としても掲載されています。

HIV支援:「コミュニティーが重要」 英のピオット博士、新宿のNPO訪問 /東京(毎日新聞)
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20141101ddlk13040206000c.html

ピーター・ピオット氏 HIV予防の拠点コミュニティセンターaktaを訪問(グローバルファンド日本委員会)
http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2014-11-02_akta


 

HIV予防の鍵を握るコミュニティ

 10月19日、「akta」で開催された国際エイズ会議の報告会で、岩橋さんがサンフランシスコとロンドンの感染状況の比較研究を紹介してくれて、たいへん興味深く聞きました。サンフランシスコとロンドンは、どちらも多様性が尊重され、同性婚も認められ、ゲイが暮らしやすい街。なのですが、最近のロンドンの新規感染者数はサンフランシスコの約3倍になっている。その違いは、文化・社会的なものだといいます。サンフランシスコのコミュニティはとてもオープンで、HIV陽性であることをカミングアウトしている人もとても多く(周囲に陽性者の人がたくさんいるため、HIVを身近でリアルなものとして感じられ)、検査を受ける人も多くなっている。それに対し、ロンドンは、なかなかオープンにできない社会。ゴムなしの人、クスリをやる人も多く、検査にあまり行かない。そうすると、陽性であることに気づかないままリスキーなセックスを続ける人が多くなるということでした。(それでも、ロンドンでは医療費が無料で、最先端の治療も受けられ、NPOの活動も盛んで、ある意味、手厚い保護を受けられるのです)
 
 日本も、10年前までは、なかなかHIVのことをオープンに語ることができず、検査を受ける人も少なく…という状況だったと思います。が、「akta」のおかげで変わったと思います。
 まだ二丁目に「akta」がなかった頃(2002年以前)、たとえば年に1度「VOICE」というイベントが四谷区民センターで開催されたり(ぷれいす東京主催)などはありましたが、二丁目のゲイバーにコンドームが置かれていたりはせず、HIVに関する話題はタブーとされていました(HIV陽性者への偏見も相当なものがありました)。2000年頃、ゲイの間で肝炎が流行した時は「これからエイズの感染爆発が起こるのでは?」と噂されたりもしましたが、「akta」ができ、コンドームを配るデリヘルボーイズが結成され(ポップで若々しいイメージが流布し)、Living Togetherがスタートし、二丁目の人たちの意識がだんだん変わっていきました(HIVに対する嫌悪がやわらぎ、オープンになっていきました)。その結果、(検査に行く人が多くなったこともあって、新規感染は毎年ゆるやかに増え続けてはいるものの)爆発的な感染とまではいかず、ずっと他の国に比べて低めに抑えられてきました。
 
 もしかしたら、「決して国家予算も潤沢ではないなかで、ゲイだけが特別扱いされるのはおかしい」とか、「コミュニティセンターは税金の無駄遣いだ」というようなことを思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ゲイ・バイセクシュアル男性がVulnerable(感染にさらされやすい)であり、その層に特化した予防が必要であると国際的に認識されているように、ピオット氏が「コミュニティ活動の支援を止めればもっと感染が拡大する」と警告を発していたように、コミュニティセンターを拠点とした予防啓発活動の重要性は揺らぐことはありません。そして、海外ではもっとたくさんの(億単位の)予算がゲイコミュニティ向けに充てられてきました。
 
 HIVへの嫌悪感や恐怖が払拭され、よりオープンに語られ、同時にHIVが身近でリアルなものとして感じられ、セーファーセックスが自然とできるようになり、検査を受ける人が増え…という好循環が生まれることが、最も効果的な予防につながります(サンフランシスコがいい例です)。コミュニティ向けの予防啓発ができなくなり、ロンドンのような状況になれば(しかも日本は同性愛者の権利の平等や制度も整備されていませんし、社会保障も決して充分とは言えません)、どうなるかは想像に難くありません。