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COLUMN

「LGBTインバウンド セミナー」レポート ~海外とつながり、日本を変える試み~

旅行業界で今、海外のLGBT向けの「おもてなし」にきちんと取り組む「LGBTインバウンド」が本格的に動きだしました。旅行業者向けのセミナーに参加してわかったことは、これは日本の社会をよりフレンドリーに変えていく試みにほかならないということでした。

「LGBTインバウンド セミナー」レポート ~海外とつながり、日本を変える試み~

京都のお寺で同性結婚式ができるようになったというニュースを見聞きしたことがある方も多いと思います。海外のLGBTをもっと日本に招こうとする旅行業界のムーブメント「LGBTインバウンド」が今、本格的に動こうとしています。旅行業者向けのセミナーに参加してみてわかったことは、海外に目を向けているように見えて実は、日本の社会をよりLGBTフレンドリーに変えていくことなんだということでした。(後藤純一)

 


「LGBTインバウンド」とは?

 

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初めて日本に寄港した
Atlantisゲイクルーズの豪華客船

 2010年3月、大勢の海外のゲイの方たちが豪華客船から日本の港に降り立ちました(詳しくはこちら)。思えば、あれが「黒船襲来」的な日本のLGBTインバウンドの夜明けだったのではないかと思います。
 インバウンドというのは旅行業界の用語で、海外から日本への旅行のことです。逆に日本から海外へ旅行することはアウトバウンドと言います。
 今でこそIGLTA(国際ゲイ&レズビアン旅行連盟)に加盟する旅行会社やホテルが珍しくなくなり、海外のゲイカップルやレズビアンカップルを歓迎するお寺での結婚式がプランニングされたりもしていますが、当時は海外からのそういうお客様のおもてなしを真剣に考える人はほとんどいませんでした。
 

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『ファビュラス』2号掲載の
マルディグラツアーと
True Travel 紹介記事

 アウトバウンドについて言うと、これは結構な歴史を持っています。1990年代半ばにはすでに、ゲイ雑誌『バディ』と一般の旅行会社が組んで、シドニー・マルディグラ・ツアーが実施されていました(2002年頃までに何度か実施されました)。これは、世界一ハデと言われるパレードやアフターパーティに参加し、心から楽しく過ごせると同時に、海外の進んだゲイシーンやカルチャーに触れて日本にもいい部分を取り入れようといった趣旨でもありました(ゴトウも参加しましたが、「人生観が変わった」と言っても過言ではない、何もかもがスゴい体験でした)。1999年には日本で初めてのゲイの旅行会社「True Travel」が創業され(「True Travel」もマルディグラ・ツアーを実施)、『ファビュラス』が出版され、札幌のパレードで初めて海外のようなハデなDJフロートが走り、そして、2000年には東京レズビアン&ゲイパレードと(あの伝説の、二丁目に上がった花火で大勢を号泣させた)レインボー祭りが初開催されました。マルディグラ・ツアー(だけではありませんが、これを含め、海外のシーンに刺激を受けた人たち)が、こうした2000年前後のコミュニティの活気に一役買っていたことは間違いないと思います。
 

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2014年のShangri-La “WHITE BALL”
での「RUSHCRUISE」SPショー

 一方、東京のゲイシーンを見てみると、1990年代からすでに「THE PRIVATE PARTY」という1000人規模のゲイナイトが芝浦「GOLD」や新宿「LIQUIDROOM」で盛り上がりを見せ、二丁目では「Delight」や「GAMOS」といったゲイクラブが(堂山では「EXPLOSION」が)誕生し、毎週末のようにイベントで賑わうようになり…と、今に近い状況が生まれていました。現在はもちろん、新木場ageHaの「Shangri-La」をはじめ、二丁目(に限らず全国)で多彩なゲイナイトが盛り上がりを見せ、その楽しさは自信を持って海外に誇れるようなものです(こんなにバリエーション豊かな、ありとあらゆるタイプのパーティが開催されている街って世界でも二丁目だけだと思います)
 二丁目という街自体も、数百軒のバーを擁する(それもいろんなタイプのお店がある)世界有数のゲイタウンとなっています。日本のゲイバーは欧米のそれと異なり、座ってくつろぎ、お通しとともにお酒や会話をゆったりと楽しみ、という独自のスタイルですが、たぶんほとんどの観光客はそうしたお店を体験していないままなのではないかと思います。
 せっかくこんなに素晴らしいゲイシーンを発展させているのに、その情報は(「Shangri-La」などを例外として)あまり海外には伝わってこなかったと思います。実にもったいない話です。
 また、欧米のゲイたちが盛んに交流を広げ、国際的なLGBTイベント(たとえばゲイゲームズやワールドプライド、Mr.GAYコンテストなど)で盛り上がってきたなか、日本は、そうした流れからは取り残されてきた部分があることは否めません(行って参加して来る方は以前からいらっしゃいましたが、日本への誘致というところまではいきませんでした)
 

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ホテルグランヴィア京都と春光院による
同性結婚式プランのイメージ写真

 そんななか、日本でもLGBTインバウンドに取り組もうとする人たちが現れてきました。まず、2010年、マグネットという会社が立ち上がり、冒頭のゲイクルーズの会社とつながったり、2011年にはShangri-Laとのコラボによって指宿で大きなイベントを開催したりしました(ちなみに、g-lad xxももともとはマグネットで制作されたものです)
 2012年にはOut Asia Travelが設立され、本腰を入れて海外のお客様のアテンドを始めるとともに、国内の旅行業者に向けてセミナーを開いたり、IGLTAに加盟するホテルを増やしていったり、受け入れ態勢の整備を進めてきました(国内の宿泊をはじめとする旅行業者にLGBTのことを認知させてきたのです)
 全く知られていませんでしたが、実は、2006年にすでにIGLTAに加盟していたホテルがありました。それがホテルグランヴィア京都です。LGBTの人たちを歓迎したいという気持ちで加盟し、初めは社内研修などをやっていたそうですが(それこそ同性カップルのダブルベッド利用など)、2012年にOut Asia Travelが主催したセミナーに参加して「やっとどうすればよいか、わかった」といいます。その後、パレードにブースを出展したり、積極的にコミュニティに関わりをもつようになり、昨年には、京都の春光院(副住職の川上全龍氏がとても理解のある方で、すでに海外のレズビアンカップルの結婚式を行ったことがありました)と協力して仏式での同性結婚式のプランを企画し、内外で話題を呼びました(マドリッドでのIGLTAの総会に参加したグランヴィアの池内さんは、質問攻めにあったそうです)

 円安によって今、空前の外国人旅行客ラッシュとなっているなか、もっと海外のLGBTにも(旅行のついでに)日本のシーンの魅力を味わってほしいという思いもありつつ、LGBTインバウンドは単に海外からゲイやレズビアンの観光客をたくさん呼んで事足れりとするのではなく、様々な意義を持っています。次の章では、先日開催されたセミナーをレポートし、その辺りについても掘り下げたいと思います。

 


「LGBTインバウンドセミナー」レポート

 

 NHKの朝のニュース(首都圏版)で放送されたのをご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、9月29日(火)、Out Asia Travel主催で旅行業者に向けたLGBTインバウンドセミナーが開催されました。新宿区にある会議室にはおよそ50社の方たちが詰めかけ(遠くは沖縄から)、熱気あふれる会になりました。

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 まず、「LGBTとその動向について」という題で、同性婚の実現を目指して活動するEMA日本の理事長・寺田和弘さんが、LGBTについての基本的な事柄を解説しました。グラデーションで表現されたイラストや、性的指向についてのアンケート、世界の同性パートナー法の一覧など、さまざまな資料を見せながら、最近の動き(渋谷区の条例や企業の取り組みなど)も紹介していました。面白かったのは、世の中にいろいろある「男女の夫婦を前提とした商品」(旅行関係含む)でした。前のデンマーク大使は同性婚していた方だったというお話も印象的でした(寺田さんはデンマーク大使館上席政治経済担当官を務めていた方)
 

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 次に、ホテルグランヴィア京都の営業推進室長・池内志帆さんが登場し、「拡大を続けるLGBT市場~世界の現状と日本の課題」というテーマでお話しました。最初に(ふだん口にしないと思うのであえて、と前置きして)会場の皆さんにLGBTと復唱させる斬新な始まりで、お話もとても充実していて聞きやすかったです。世界の現状という点では、ストーンウォールからレインボーパレードに至る話、80年代のアメリカでのゲイマーケティングのこと、今やLGBTがトレンドセッターとみなされ、旅行の分野では世界で2000億ドル(アメリカが半分を占める)の市場となっていること、スペインの成功の実例などが取り上げられました。日本については、東京レインボーパレードでブースを出して100組超が着物で記念写真を撮ったことやGAPの取り組み、ファーストレディがパレードに参加したことが欧州で大きなニュースになっていたことなども紹介しつつ、沖縄のパームロイヤルNAHAのゲイ向け広告に触れながら、ホテルとして具体的にどういうことをしていけばよいのかということを教えてくれました(ちなみにホテルグランヴィア京都を利用する海外のLGBTの方は、肌感覚で以前の3~4倍に増えているそうです)
 また、IGLTA総会やITB(国際旅行博)といったイベントが、それ自体国際的な注目の的となっており、世界中の都市が誘致合戦を繰り広げている、アジアではまだ開催されたことがないが、日本はチャンスがある、しかしまずその都市自体がIGLTAに加盟していないといけない(日本ではまだどの都市も加盟していないばかりか、加盟している企業は全国で合わせて17社しかないのが現状)といったお話がとても興味深かったです(ニュースでお伝えしたように、このセミナーの翌々日には、奈良市がIGLTA加盟を宣言しました。そう遠くない将来、日本でアジア初のIGLTA総会が開かれるかもしれません)

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 それから、Out Asia Travel代表の小泉伸太郎さんから「OUT JAPAN」立ち上げについて、お話がありました。「OUT JAPAN」は日本で初めての海外のLGBTに向けたポータルサイトです。ゲイバーやクラブ(イベント情報)、レストラン、ショップ、ホテル、コラムやニュースなどが盛り込まれる予定です。これまで、日本発の外国語(Englishや中文)のLGBT総合情報サイトがなかったため、豊かで魅力的で素晴らしいシーンがあることや、新鮮できめ細かな情報が海外に伝わっておらず、せっかく日本に来ても二丁目が素通りされたり、そもそも日本に興味を持たなかった方も多かったと思いますが、「OUT JAPAN」ができることによって、そうした現状が一気に変わっていくことが期待されます。さらに、「OUT JAPAN」は、東京オリンピック・パラリンピックを前に、行政や企業にも働きかけながら、海外のお客様を「おもてなし」することによって、日本のLGBTシーンがもっと活性化したり、国際社会にもっと注目されるようになったり、ひいてはIGLTA総会やOUT GAMESなどの国際イベントの誘致を目指していくそうです。「OUT JAPAN」のローンチは10月中旬になるそうです。

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真ん中がIGLTAのロアンさん

 休憩の後、寺田さん、池内さんに加えて、IGLTAの広報ディレクターであるロアン・ハルデンさんをパネリストにお迎えし、パネルディスカッションが行われました。まず、ロアンさんの方からIGLTA会員のベネフィット(リストに載ることで20ヵ国以上に効果的に情報が伝わるほか、メンバーのレートで広報ができたりする)について紹介があり、その後は質疑応答へ。旅行関係の仕事をしているトランスジェンダーの方から「日本でLGBTインバウンドを進めるうえで国の理解も必要だと思うが、どういったことが課題になってくるか?」という質問が上がり、「政府のサポートは必要ですね。ロビー活動もしていきましょう。IGLTAでもTが快適に旅行できるための取り組みをやっています」といった回答があったほか、パームロイヤルの方から「アメリカでフレンドリーな旅行会社の実例を教えてください」という質問が上がり、デルタ航空の実績(IGLTAのプラチナ会員になっている。社内でも研修があったり、ゲイの社員を起用した企画づくりも行われ、LGBTへのアピールも行っているなど)が紹介されました。
 

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会場で配布されたパームロイヤル那覇
の宣伝用うちわ。デザインもモデルも
ゲイの方だそう。素晴らしい!
 といったところで閉会の時間になり、参加者の方たちの半分くらいが、そこから二丁目での懇親会へと流れていきました。会場は二丁目のバー「Bridge」で、みなさんとても雰囲気を気に入っていらっしゃいました。ゴトウも(人見知りながら極力)いろんな方とお話をさせていただきました(皆さんご存じの旅行代理店の方などもいらしていて、以前札幌パレードツアーでお世話になったとご挨拶したり。NHKの方ともいろいろお話させていただきました)。とある旅行会社の男性の方が「今年初めて代々木公園のプライドに参加した。正直、初めは怖いという気持ちがあったが、行ってみると全然! とてもハッピーで楽しいイベントだった。ぜひみんなに行ってほしいって来年は言うつもり」と語っていて、ちょっと胸熱でした。
 
 セミナーは翌日には京都でも開催されました。基調講演を行ったのは虹色ダイバーシティの村木さんでした。きっと東京同様、熱い、充実した会になったことと思います。
 また、ロアンさんが10月1日に奈良市長に会い、自治体としてのIGLTA初加盟が実現したことは、こちらでお伝えした通りです。

 今回のようなセミナーが本当に素敵だなあと思うのは、今までLGBTのことをよく知らなかった方(実際に会ったことのない方)が、小泉さんたちとお話することで、どんどんフレンドリーになっていく様が、生き生きと目に見えることです。今後、そうした方たちがパレードや横浜のイベントなどにブース出展したりするなかで、さらにいっそうフレンドリーになり(アライとして成熟し)、心強い味方になってくれることでしょう。そうして今後、ホテルグランヴィア京都やパームロイヤルNAHA、福島のグランデコなどに続き、全国でいろんな「素敵」が展開されていく予感がします。

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