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アメリカのLGBTムーブメントを視察した方たちが見る「日米の違い」

3月7日にアメリカンセンターJAPANで開催された「アメリカLGBTムーブメントの今〜国務省IVLP参加者・講演会」の模様をレポートいたします。そこから日米のLGBT事情の違いや、日本独自の課題、LGBTムーブメントの方向性について、見えてきたことをお伝えいたします。

アメリカのLGBTムーブメントを視察した方たちが見る「日米の違い」

 『International Visitor Leadership Program』(IVLP)はアメリカ国務省が主催する交流プログラムで、さまざまなテーマに沿って数名の参加者がアメリカの関係機関やNGO/NPO、企業や個人を訪問して意見交換や情報共有をするものですが、2013年、LGBTというテーマで松中権さんらがこれに参加しました。
 2015年もLGBTをテーマにIVLPが実施され、関西と福岡から、村木真紀さん(NPO法人 虹色ダイバーシティ代表、『職場のLGBT読本』著者、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」チェンジメーカー賞受賞)、南和行さん(なんもり法律事務所 弁護士、『同性婚—私たち弁護士夫夫です』著者)、小嵒[こいわ]ローマさん(NPO法人 Rainbow Soup代表)、牧園祐也さん(Love Act Fukuoka代表)、石崎杏理さん(FRENS代表)の5名の方々が選ばれ、昨年7月に視察を行いました。その成果を共有し、これからの日本のLGBT権利擁護活動の展望を考えるための報告会(シンポジウムおよび懇親会)が1月9日に東京大学駒場キャンパス内で行われました。そして、3月7日にはアメリカ大使館主催で同様の講演会「アメリカLGBTムーブメントの今〜国務省IVLP参加者・講演会」がアメリカンセンターJAPANで開催されました。
 今回、こちらの講演会を取材することができましたので、その模様をレポートしつつ、長年コミュニティ内で議論の的ともなっていた「欧米と異なる日本でのムーブメントのあり方」について迫ってみたいと思います。


 3月7日(月)の夜は、雨がしとしと降る肌寒い夜で、観客はそんなにいないのでは…と思ったりしたのですが、会場は超満員! すごい熱気でビックリしました。 

 前回参加者の松中権さんがモデレーター(司会)をつとめ、5名の方が順番にお話を進めました。

 トップバッターの南和行さんは「Grassroots Advocacy for LGBTI Rights(LGBTの権利を求める草の根の活動を訪ねる)」というタイトルで、今回の視察旅行の概要を説明してくれました。最初の訪問地ワシントンD.C.では、国務省、国防総省、司法省、共和党LGBT政策グループ、ジョージワシントン大学、HRC本部などを訪問。フロリダのマイアミビーチでは、World Out Games招致委員会、マイアミビーチ警察、ユース支援団体(PrideLine)などを訪問。LGBTの活動をする弁護士や学者との懇談。アラバマ州モントゴメリー&バーミンガムでは、Roza Parks記念館、南部貧困法律センタ-、公民権運動記念館などを訪問。ゲイをカミングアウトする教育委員やLGBTの親の会との懇談。レズビアンの写真家の自宅をプライベート訪問。アリゾナ州フェニックスでは、LGBT権利擁護の活動をする州議会議員、ユース支援団体(one・n・ten)、トランスジェンダー活動団体、「不法」移民LGBTユース団体を訪問。最後のロサンゼルスでは日系コミュニティLGBTイベント「Okaeri」、アジア系LGBT活動団体、ロサンゼルスLGBTセンター、It Gets Betterプロジェクト、UCLAウィリアムインスティテュートなどを訪問したとのことです。ちょっとため息が出るくらい、充実した内容です。南さんは国務省の当事者団体やバーミンガムでカミングアウトしている教育委員など、「自分らしく」かつ組織や地域のために人権活動に取り組む人たちのことを挙げながら、行政や立法、学校、企業、地域社会、家庭など、それぞれの現場で一人ひとりの「自分らしく」を擁護していくことができないかと問いかけました。

 続く村木真紀さんは、全米で大人気なドラマ『モダン・ファミリー』や『glee』の影響力についての話題をつかみとして、印象に残った訪問先についていろいろお話してくれました。企業のLGBTフレンドリー度調査「Corporate Equality Index」を実施するHuman Rights Campaign(HRC)はD.C.に大きなビルを持ち、150万人のサポート会員を擁し、人気の就職先ともなっているとのこと。マイアミビーチは2017年OutGamesの招致に向けて市や地域コミュニティと一体になって活動し(1000万ドルもの予算がつき)、見事に招致に成功したそうです。LGBTについてのさまざまな学術調査で名前が知られるThe William institute(UCLA法科大学院内)については、同性婚の議論のなかで、裁判所が審理を行う際の根拠となるようなデータを提供していましたが、その際、コミュニティに都合の悪いデータであっても公表していた(公平性を担保)ということなど。虹色ダイバーシティの代表である村木さんは「いろんな人を巻き込んで」「説得力あるデータと思いの強さで」夢を叶えていけるという確かな手応えをつかめたようです。

 次の石﨑杏理さんは、福岡でLGBTユースのサポートなどを行う「FRENS」の代表です(ご自身はトランスジェンダーでありバイセクシュアルの方だそうです)。石崎さんはアリゾナ州フェニックスのユースセンター「one・n・ten(ワンエンテン)」の支援の充実ぶり(リーフレットが豊富だったり)や、ロサンゼルスのLGBTセンターでのホームレス・ユースの支援のことなどについて熱く語ってくれました。アメリカではホームレス化している若者の実に4割がLGBTで、理解のない親に家を追い出されたりした彼らが、生きるためにやむなくセックスワークをしたり、路上生活のつらさを忘れるためにクスリに手を出したりして、短期間でボロボロになっていくというお話が身につまされました。一方、高校や大学にはゲイ・ストレート・アライアンス(GSA)というクラブが設けられたり、LGBTイシューに特化した職員がいるというお話は興味深かったです。

 それから「Love Act Fukuoka」代表の牧園祐也さんのお話。何度もお話に出てきてはいますが、やはりロサンゼルスのLGBTセンターが、HIV陽性者の支援もしているということで、取り上げられました。4階建てのビルまるごとがLGBTセンターになっていて、500人の職員が雇用され、8900万ドルの予算がある(大半が寄付で賄われている)というスケールの大きさには、驚かされます。HIV検査には、LGBTだけでなく、他所で受け入れてもらえないストレートの方も来られるそうです。それから、幼い頃にアメリカに連れて来られて国籍がないままだったりというUndocumentedな(Illegalではなく)移民のLGBTユースを支援するQUIPという団体についてのお話が、身につまされるものがありました。彼らはIDを持っていないので病院にも行けず(なかにはオバマケアで救われる人もいるが、セックスワークなどで前科があって要件を満たせない人が多い)、教会にも受け入れてもらえず…とても厳しい状況に置かれているそうです。トランス女性に対する虐待も問題になっているとのこと。

 最後に、福岡のLGBT支援団体「Rainbow Soup」の代表をつとめる小嵒(こいわ)ローマさん(レズビアンの方)が総括的にお話しました。D.C.のコンビニに置いてあったウエディングカードがふつうにゲイカップルのデザインだったりしたとか、トランスジェンダーであることをカミングアウトしたケイトリン・ジェンナーがものすごい話題だ(LGBT関係の寄付が増額した)といったキャッチーなお話から、各地のセンターのレポート、「世界でもっとも影響力のある人物100人」にも選ばれた「Freedom To Marry」代表のエヴァン・ウォルフソン氏のお話まで多岐にわたりましたが、なかでも、(石﨑さんもお話していましたが)現地でお会いした方が時間外でもボランティアでアテンドしてくれたりというあたたかなホスピタリティに感激したとか、個人のストーリーを語っていくことが大事、といったお話が心に響きました。そして、日米の違いについて、「国レベルでLGBT向け施策が展開されている」「行政予算や企業・個人の寄付によるサポート」「保守的な宗教観がLGBT人権擁護活動の妨げになり、バックラッシュも起きている」とまとめてくれました。

 5名の方のお話のあと、質疑応答の時間が設けられ、いくつか会場から質問がなされましたが、ここでは「視察を終えて、日米を比較してみて、日本での問題は何だと思いますか?」という質問に対する回答をご紹介したいと思います。
南さん「夫婦別姓がなかなか認められないこともそうだが、結婚が日本独特の法制度になっている。家族はこうあるべき、とがちがちの法的拘束になっていることが問題」
村木さん「セクシュアリティのことがベッドの中の話になっている。口に出せない。公にすべきでないと思っている方がとても多い」
石崎さん「そもそも教育の現場で、人権ということが教えられていない。なぜ差別がいけないのかという根本に触れず、○○と言うのはやめよう、とかそういう話になってしまっている」
牧園さん「当事者の活動を最もじゃましているのは当事者だったりする。揚げ足を取ったり。闘っている人を後ろから刺したり。当事者の成熟度が問われると思う」
小嵒さん「国立社会保障・人口問題研究所などが実施した調査で、友人が同性愛者だったら抵抗があるとか、同僚が同性愛者だったらいやだと答えた男性管理職が過半数だったと発表されましたが、身近にいない、慣れていない人が多いのだと思う。できる範囲で地道にやっていくこと」
 それから、「日本では欧米とは違うやり方が求められると思いますが、日本人の心の琴線に触れるにはどうしたらいいと思いますか?」という質問が出ました。以下、回答をご紹介します。
南さん「講演会に呼ばれてお話したりしますが、小学校から振り返って親との関係まで、自分自身のストーリーを語るのが、いちばん受けがいい」
石崎さん「型通りの話ばかりじゃなく、個人的なストーリーを語ることは大事。とあるトランスジェンダーを支援している学校の校長が、大学時代に同期の人からカミングアウトを受けて、いつか機会があればサポートしたいと思っていた、という話を聞いた」
南さん「ただ、私の話を聞けば全部わかりますよ、とは言ってはいけない。そこはお断りするようにしている」

 たいへん有意義なお話を聞けて、会場からは大きな拍手が贈られました。終了後、講演者の方と直接お話したり、名刺を交換したりという時間が設けられ、多くの方が残っていました。


 個人的に、今回の報告会に参加してさまざまなお話を聞いていちばん印象に残ったのは、アメリカにはアメリカのタフな現実が(今でも)あるということです。ホームレス・ユースのことや、Undocumetedな移民の若者…過酷な状況に置かれた彼らが、なんとか、最低限の生活を送れるようになったり、教育を受け、仕事を得て、幸せを実感できるようになってほしいと願うものです(なお、日本でも、親に勘当されてホームレス化する若者がいなかったわけではありません)
 質疑応答のなかで提起された「日本での問題」について、みなさんとても重要な指摘をされていたと思います。戸籍・家族・結婚にまつわる法制度の問題(旧態依然とした制度設計)、世間の人たちの性意識の低さ、人権意識の欠如(教育の問題)、これらはみな、日本という国の根幹にかかわるようなことだと思います(一言で言うと、未だに男尊女卑的なジェンダー観が幅を利かしているということ)。そこから世間にホモフォビアが瀰漫し、表立って攻撃されずとも、真綿で首を絞めるような(空気としての)差別が横行し、友人や同僚にカミングアウトしづらい現状や、当事者もまたホモフォビアを内面化しがちという問題も生じているのではないでしょうか。
 そうだとすると、日本の社会を根本から変えていかないと(政治を変え、法律も改正し)、LGBTが生きやすい社会の実現は叶わないということなのでしょうか…? そうだとも言えますし、そうではないとも言えると思います。
 石崎さんが「とあるトランスジェンダーを支援している学校の校長が、大学時代に同期の人からカミングアウトを受けて、いつか機会があればサポートしたいと思っていた」という感動的なエピソードを語ってくれましたが、ぼくら一人ひとりが身近な人にカミングアウトすることで、世の中は確実に変わっていきます(個人のストーリーを語っていくことの大切さ)。南さんや村木さんがメディアに出て、同性婚の意味や、職場環境改善の必要性を訴えてきたことをはじめ、声を上げる当事者の方が増えてきた結果、着実に世間もLGBTフレンドリーになってきています(10年前、20年前には予想もできなかったようなことが今、どんどん起こっていますよね)
 たとえ今すぐ物事が望むように動かないとしても、地道に環境を整えつつ(アライを増やしつつ)、根気よく続けていけば、いろんなことがいい方向に変わっていきます。できる人が、それぞれの持ち場で地道な努力をしていくこと(無理せず、希望を失わず)、それに尽きるのではないかと思いました。