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虹色ダイバーシティの代表・村木真紀さん

大阪市淀川区のLGBT支援にかかわったり、LGBTが生き生きと働けるような職場環境改善に取り組んできた大阪のNPO法人「虹色ダイバーシティ」。代表の村木真紀さんにインタビューをお願いしました。

虹色ダイバーシティの代表・村木真紀さん

 LGBTが生き生きと働けるような職場環境改善(アンケートの実施、企業での講演など)に取り組んできた大阪のNPO法人「虹色ダイバーシティ」。昨年9月の淀川区によるLGBT支援宣言、そして今年に入ってからのLGBT支援事業の展開にも、虹色ダイバーシティが大きく貢献しています。先日のRainbow Festa!では、チャリティ専門ファッションブランドのTシャツも販売するなど、多角的な展開を見せています。
 特に、LGBTイシューに関して電話相談、コミュニティスペースの開設、講演会の開催などを行う支援事業を展開する(それだけの予算をかけている)淀川区の支援宣言および事業展開は本当に素晴らしく、(HIV予防啓発を除けば)これまで前例がない、ある意味、奇跡とも呼べるものですが、そんな「淀川区の奇跡」を中心に、昨今のめざましい活動について、虹色ダイバーシティの代表・村木真紀さんにお話を聞きました。


このポスターが、区民祭りの
ポスターなどといっしょに、
街中の掲示板に貼られました。

——虹色ダイバーシティを立ち上げたきっかけ、経緯を教えてください。

村木さん:前の会社がソフトウェア会社だったのですが、毎日本当にしんどくて…眠れなくなり、医師の診断を受けて3ヵ月休職することになったんです。2011年のちょうど震災の頃だったんですが、そのとき、誰かと話してないと不安…ということもあり、仲のいいレズビアンの友達と話してて。で、仕事の話になって、私はベンチャー企業で、彼女は日本の有名企業に勤めてたんですが、二人とも全く同じことを言ってて、驚いた。会社に勤めてどんなにがんばっても報われないという感じ。

——それは、女性だから? セクシュアリティゆえのこと?

村木さん:女性の問題かも、と思いましたが、少し違うような気がしました。彼女の勤め先は一通りしっかりしてる企業だったのに、そんなだったから、やっぱりセクシュアリティが関係あるのかな?という結論に達した。で、海外のサイトで、企業がLGBTフレンドリーかどうかがいかに勤務意欲に影響するかということを示すデータを見て、「これやね~」と。それからたまたま、イギリスの友達を訪ねる機会があり、「ストーンウォール」という団体の「職場の生産性」に関するレポートをもらうことができて。日本でもこういうのをそろそろやらなあかん、という思いを強くして。そこで、最初は、有休や休日を使って企業を訪問し、こういう問題があると語ることを始めた。けど、企業って動いているのが平日の昼間じゃないですか。じゃあこれはもう、NPOを立ち上げようと。

——思いこんだら、動く人なんですね。行動力がスゴい。

村木さん:アイディアを思いついたら、やらずにいられないんです。もともと企業向けのコンサルティング会社で、経理分野のコンサルタントをやっていたんですが、それが人事向けに変わったという感じ。あと、その頃、オバマ大統領が2期目で当選してLGBT支援を打ち出したというニュースがばんばん入ってきてたり、何か世間の潮目が変わってきた感じもあった。

——グッドエイジングエールズとかTSSAとかいろんな動きがあって、世間も支援的に。

村木さん:でも企業に限って言えば、2011年の段階では、まだ外資系企業しかなかった。

——リーマンブラザーズとかも早くからLGBT支援をやっていたけど、無くなってしまったし…

村木さん:日本IBMとヒューマンライツウォッチ、グッドエイジングエールスで、2012年に「ワーク・ウィズ・プライド」というダイバーシティ推進のための企業担当者を集めたイベントを始めました。いろんな企業が参加してくれて、そこにソニーの方がいらしていた。ソニーは海外拠点も多く、関心が高かったんですね。そこで研修をやらせてもらえて、さらにソニー様からのつながりで他の企業でお話しさせてもらえて。わらしべ長者のようでした。

淀川区役所玄関前に掲示されたレイン
ボーフラッグ。掲示スペースの半分が
LGBTで占められています。

——とはいえ、もともとある組織とかのバックアップがあったわけではなく、単独で。心細いだろうし、勇気も要るし、いろいろ大変だったのでは?

村木さん:私よりも、パートナーが大変。固定収入もなくなるし。パートナーはその前に4年間、専門学校に行って資格を取ったんですが、それを私が会社勤めで支えたので、今度は交代ね、って感じでしたが。今も収入面では厳しいし、仕事は忙しいけど、とにかく毎日ワクワクしている。 

——短期間でずいぶん実績を挙げてますよね。企業とかの講演だけでも相当やってるし(詳細はこちら

村木さん:ここまで広がりが急速に生まれるとは…想像以上です。各地方でがんばってた人やグループ、いろんな所で起こっていたことが、うまく結びついたのかな。今40代の、90年代のゲイブームの時に若者だった世代が、企業で力を持ちはじめたっていうこともあると思う。カミングアウトしてもクビにならない時代。それで人事が動くこともある。外圧も大きいですね。オバマ大統領とか、EU議会とか、オリンピックとか。

——ロシアのようにはならんといてくれ、と。

村木さん:うちが事務所をシェアしているダイバーシティ研究所や多文化共生センター大阪は外国にルーツのある方の支援をしていて、オリンピックとも関係があるんです。オリンピックって外国人を連れてきて強制労働とか、人権侵害が起きやすいんです。LGBTともいっしょにやれることがたくさんある。

区役所の中に、職員さんがLGBT研修を
受けた感想が貼り出されていました。
1つ1つ読んでいくとジーンときます…
機会があればぜひ、ご覧ください。

——虹色としては2012年くらいから?

村木さん:団体としては2年ですね。NPOとしては1年。

——NPOって実績がないと認定されないのでは?

村木さん:実は書類が整っていれば、なれるんです。NPOって10人以上の会員の住所と名前が必要で、今まではLGBTではそれがネックだったみたいですが、最近は大丈夫になってきた。

——なるほど。やはりNPO法人という看板があると、企業ともコンタクトしやすいのでしょうか。

村木さん:そうですね。お金の振込みにしても、法人格が要るなと思いました。

——そうやって、企業の中で研修をやったり、職場環境改善アンケートをやったり、さまざま取り組んでこられましたが、最大のヒットは、やはり淀川区じゃないでしょうか。

村木さん:たまたま榊さんは民間出身の区長で、ゲイである前・米国総領事のリネハンさんと出会って、やろう!と意気投合したそうです。その時に、「最近、淀川区にNPOできたよね」ということでお声がかかった。

——意外にも、区の方から声をかけてくれたんですね?

村木さん:そうなんです。で、「何かできることがないか」と相談されたので、「お金もかからないし、支援宣言はどうですか?」とアイディアを出したら、本当にやってくれた。アライの人の強さですね。 

コミュニティスペースは、虹色
ダイバーシティの事務所の下の
階にあります。LGBT関連の
書籍も置かれています。

——昨年9月にLGBT支援宣言をして、10月に関西レインボーパレードで区長さんが挨拶して。

村木さん:11月までには区の職員全員280人全員を対象に、研修をやったんです。ここで淀川区担当のスタッフを紹介します。

スタッフ:私は4月から虹色ダイバーシティで働きはじめました。すぐに淀川区の公募があったので、企画書を出したら、無事に通り、淀川区LGBT支援事務局担当になりました。公募は突然のことだったので、大慌てで書類などの準備をしました。

——公募でってことですね?

村木さん:はい、プロポーザル方式で。もう1つ、他の団体も応募をしていたそうです。プロポーザル方式というのは、予算があって、大体のやることが指定されているが、詳細はこちらでアイディアを出す、というやり方なんです。で、6月に無事に通ったんですが、7月から実施しないといけなくて、立ち上げが大変でした。しかも次の予算策定が9月なので、2ヵ月で一定の成果を出してくれ、と言われて…。

スタッフ:現在は事業の打ち合わせや職員の方とのやり取りのため、多くて週3くらい、区役所に通ってます。近くてよかったです。

——コミュニティスペースとか、電話相談とか、宣言だけじゃなく、支援事業も実現。ここまでやってくれるんだ、という感慨がありました。

村木さん:本当に。たまたま、事務所の下にコミュニティスペースがあって、これ使えるやん!と。コミュニティスペースは初回から人があふれましたよ。

スタッフ:30人以上も来てくれて…感激しました。

村木さん:コミュニティに触れるのが初めてっていう人がいっぱい来てくれました。

——堂山に行くのはちょっと勇気が…という方の潜在的なニーズもあったんでしょうね。

村木さん:中に、スマホを持ってない障がい者の方がいて。区役所で場所を聞いたんだけど、それでもわからなくて2時間くらい迷ってらっしゃったみたいで…やっぱりWebだけではダメだ、チラシも刷らないと、となりました。

スタッフ:LGBT担当の職員さんが3人いらっしゃるんですが、うち2人は4月から淀川区に来たばかりなんです。いきなりLGBT支援事業。他の区にいて、LGBT支援事業って何なんやろう?と思ってたような方たち。私も4月から淀川区に来たので、最初のうちは、遠巻きに淀川区のLGBT支援事業を見ている一般の方と一緒でした…本当にLGBTのことをわかってちゃんとしてるの?って。そういう中で、4つの事業を企画してプレゼンして、通って。淀川区がどんどん変わっていってる様を目の当たりにしている。本気でやってるんだってことをまざまざと感じて、それをすごく伝えたい気持ちが大きくなっていきました。

——担当職員さんと同じ地点からスタートして、一緒に走ってきたんですね。

スタッフ:この前、若い職員さんと、遠藤まめたさん(トランスジェンダーの若手活動家の方)と、トークイベントを開催したのですが、アンケートにも「職員さんの声が聞けてよかった」と書いてもらえて、とてもうれしかったです。

村木さん:職員さんの肉声がニュースレターになってるのがイイ。

スタッフ:毎月いろんな職員の方にメッセージを書いていただきたいと思っています。

——ふつうの市の職員さんが、もしかしたら偏見とか持ってたかもしれないけど、やってて楽しいと言ってくれるまでに、どういう変化が?

スタッフ:時間だと思います。普段講演などに行って感じるのは、1回行って話しただけでは「そういう人いるよね」って感じるだけだと思うんです。その後時間が経つにつれて、なんとなくLGBTのニュースを覚えてたり、「そういえば昔対応した人が、トランスジェンダーやったかもしれん」って気づいたり。

——だんだん見えてきたんですね。

スタッフ:LGBTのことを知ってから、ストンと腑に落ちる感じです。「あのときの人は、そうやったんや」って、振り返っている方もいました。あの人もそうだ、この人もそうだって。時間がたつにつれて、だんだん身近になっていくんだと思います。ある職員の方は、「最初はよくわからなかったけど、今は息子がもしLGBTだったら、抱きしめてあげたい」っておっしゃっていました。

村木さん:この1年間で、普段の業務で接してる人たちがそうだって気づくようになってくれた。

スタッフ:職員の方たちは、私たちが何か言う前に自発的にポスターとかパンフレットとか、区役所のいろんな所に貼ってくださってます。場所とか考えずに、ベタベタと。淀川区役所にまめたさんが来たときに、あらゆる場所に虹色が見えるので、良い意味で「ありえへん…」って驚愕してました。

村木さん:当事者のゲストを呼んで2時間くらい「意見交換会」っていうのをやってるのも、納得につながってるのかな。

——コミュニティスペースも開いてるんですよね。

村木さん:実はコミュニティスペースと電話相談は、QWRCが再委託でやってくれてるんです。うちではそこまでできない。

——QWRCは「LGBTと医療・福祉」っていう冊子や、緊急連絡先カードを作ったりしてきた団体ですね。

村木さん:関パレの同日・翌日に行われた「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」もQWRCが中心になってやってる。QWRCがあったから、支援事業を受けることができたんです。

スタッフ:「意見交換会」では、毎回いろんな立場の当事者のゲストを呼んで話をしてもらってるんですが、4月から来た職員さん2人は、毎月、そうやっていろんな当事者に会って、話を聞いて、ものすごく詳しくなっています。2人にとっては淀川区LGBT支援事業が初めてのLGBTとの接点なので、仕事として当たり前のこととして、毎回熱心に取り組んでくださっています。ある職員の方は「毎回参加する度に、本当に見た目ではわからないことや見過ごしてきてしまったんだろうということを痛感してます」とおっしゃっていました。

村木さん:淀川区は、もうアライがアライを育ててるんです。その職員さんたちが持ってるLGBTのファイルが、ものすご~く分厚い。

——(笑)。ポスターとか、区内の全ての学校に配布したって聞きました。

村木さん:まめたさんの講演会のチラシですね。区内の小中学校の全校生徒に配れたのはスゴい。

——他の地域の小学校だと、保護者からクレームが来そう…。

スタッフ:行政の事業だとこんなこともできるんですね…!「区から委託されて持ってきました」と伝えて渡しました。 

村木さん:しかも、我々は頼んでない。区が手配してくれたんです。

——スゴい。奇跡ですね!

村木さん:大阪は人権教育の下地があるので、すっと入ったのかもしれない。いつまで続くか、なんですけども、職員さんがいる限りは、根付いてほしい。300万でここまでできるんだから、他の自治体でもマネしてほしい。300万で人の命が救えるなら、決して高いものではないと思います。

——本当にそうですね。

村木さん:最初に宣言したときは、榊区長のリーダーシップで動いていたと思うけど、もう周りの職員さんもLGBTの課題をわかってくれていると思う。しかし、都構想が実現したら淀川区という単位はなくなるかもしれないし、市長が変わったらまた変わるかもしれない。 

——今だからこそ、できた。いろいろ偶然が重なったんですね。

村木さん:しかし淀川区の事業は、私たちに利益はほぼ出ないんですよ。スタッフがかかりっきりなので、もう赤字ですね。

——そうでしたか…。以前、アンケート調査の方も、お金が足りないとお話していたかと…。

村木さん:厳しいです。虹色ダイバーシティのクライアントはお金持ちだけど、私たちは違います。

——そういった辺りが、今後の課題でしょうか?

村木さん:スタッフと自分が何とか生活できるくらいの収入は、確保しないと。初年度はLUSHの助成金をいただけて、とてもありがたかった。今は、企業の講演にたくさん行って、何とかなってる。行政関係だけではちょっと無理ですね。

——では、関連するかもしれませんが、今まで虹色ダイバーシティをやってきて、やめたいと思うくらい、つらかったことはありますか?

村木さん:(1分くらい考えて)あまりないかな。始めたばかりですし。お金がないということに尽きます。

——逆に、やってきてよかったと思えたことは何ですか?

スタッフ:あるブライダル企業の担当の方のような人に出会ったときです。

村木さん:熱いアライです。

スタッフ:研修の最後におっしゃっていたのですが、「私たちはプロとしてお客様が喜んでくれるサービスを提供する事は当たり前のこと」「すでに関わっているお客様や来場者の中にもLGBTの方がいる。全ての方に満足して帰っていただきたい。」という言葉には本当に感動しました。

村木さん:LGBTのことに触れて、人生が変わったという人もいる。もっとがんばろうとしてくれる人もいる。熱いアライに出会うと、こっちも励まされますね。

スタッフ:それと、ここの事務所でよかった。そのままの自分で働けることのありがたさを実感しています。

村木さん:多文化共生系の活動をされている方たちは、多様性への受容度の高い方たちばかりなので。実は、このスタッフも、前の会社で、アウティングされて辞めたんです。

スタッフ:今は耳鳴りもしなくなった。ふつうに働けるって幸せです。

——大変だったんですね…。では最後に、今後の夢や目標を教えてください。

村木さん:講演活動はもう手一杯。企業って何千何万もあって、一人二人では回れないので、もうちょっと組織を大きくしたいですね。

スタッフ;健康第一です。

村木さん:これで食っていけて、健康にやっていけたら、それで十分です。
 
——わかりました。ありがとうございました!

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