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【米大統領選】ピート・ブーティジェッジが正式に米大統領選への出馬を表明しました

 「史上初のオープンリー・ゲイのアメリカ大統領になるかもしれない人物が現れました」というニュースでもお伝えしていたピート・ブーティジェッジ市長が4月14日、2020年米大統領選の選挙運動を正式にスタートし、混戦状態の民主党候補指名争いに加わりました。 
 
 37歳のピート・ブーティジェッジは14日、自らが市長を務めるインディアナ州サウスベンド市の、かつて組立工場で現在はハイテク産業の拠点になっている場所で、集まった支持者らを前に「私の名前はピート・ブーティジェッジです。『ピート市長』と呼ばれています。インディアナ州サウスベンドの誇りある息子として、米国大統領選挙に出馬します」と表明しました。
 ピートは「私がここにいる理由は、『Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)』とは違う物語を語るためです」とトランプ氏の大統領選でのスローガンに言及、「今回は選挙に勝つことだけが大事なのではありません。時代に勝つことが大事なのです」と述べました。そして「古い政治と決別するときです」「(アメリカは)40年のよりよい生活に向けて今から準備すべきです」と述べて、若手指導者の必要性を訴えました。
 演説後には結婚したパートナーのチェイスン・グリーズマンが壇上に現れて抱き合い、二人で支持者と握手をして回りました。
 
 ピート・ブーティジェッジ候補への注目は急速に高まっています。4月7日に発表されたエマーソンの世論調査において、大統領候補の指名争いが始まる中西部アイオワ州での支持率で一気に3位に躍り出たからです。全米で知名度が高く本命視されているカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)やロックスター的な扱いをされているベト・オルーク前下院議員(前回の中間選挙のテキサス州上院議員選でテッド・クルーズに肉薄し、全米の民主党員を興奮させました)らを上回る11%となり、ベテランのエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)の14%に迫る支持率を得て、人々を驚かせたのです。
 なぜ急速に、これほどまでの人気を博すようになったのでしょうか? 「注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブーティジェッジ」(ニューズウィーク日本版)という記事が、よく伝えてくれています。
 
 人口が約10万人のインディアナ州サウスベンド市の市長でしかないブーティジェッジがなぜこれほどの人気を集めているのか知るために2月12日に発売されたブーティジェッジの回想録『Shortest Way Home(故郷への近道)』を読んでみた。
「東部標準時間帯最西端のこの地では夜明けは遅れてやってくる。海岸から遠く離れているために、元旦の日の出は8時を過ぎてようやく訪れる」という故郷のサウスベンド市を紹介する最初の1行を読み始めてすぐに胸踊る興奮を覚えた。風景が目の前に浮かんでくるような素晴らしい文章なのだ。政治家が書いた回想録でこれほどの文章力はめったにない。

 ブーティジェッジはハーバード大学で歴史と文学を専攻し、ハーバード大学ケネディ行政大学院の機関のひとつであるインスティチュート・オブ・ポリティクスの学生諮問委員会の委員長を務め、最優秀の成績で卒業した。そして、ローズ奨学生としてオックスフォード大学に留学して哲学と政治・経済学を学び、試験で1位の成績を取って卒業した。この学歴を知ると、ブーティジェッジの知的な文章が納得できる。まるで「神童」のようだが、卒業後に国際的に有名なコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職した時点までは、頭脳明晰な歴代の民主党の大統領や候補らとあまり変わらないとも言える。

 ブーティジェッジのユニークさは、眩しいほどの輝く学歴を持ちながら、高収入の仕事を捨てて故郷のインディアナ州に戻り、公のために尽くせる仕事に就こうとしたところだ。
 彼の選択がどれほど特殊なことかを知るためには、アメリカにおけるインディアナ州の立ち位置を知る必要がある。アメリカ中西部の「ラストベルト」(Rust=錆びという意味)の一部であり、かつて工業地帯として栄えたが、その後はアメリカの繁栄に取り残された地域だ。

 ブーティジェッジの生まれ故郷で名門ノートルダム大学があるサウスベンド市でも、放置された建物の廃墟が幼いピート少年の原風景になっていた。宗教保守のカトリック教徒が多く、マイク・ペンス副大統領がインディアナ州知事だったときに、信教の自由の名の下に公然とLGBTQへの差別を認める「宗教の自由回復法」に署名して全米から批判を浴びた保守的な地域でもある。2008年はオバマ大統領が過半数を獲得したが、それ以外の大統領選では1968年以降ずっと共和党の候補が勝ち続けている共和党が強い州なのだ。

 ブーティジェッジは、わざわざそんなインディアナ州に戻り、民主党の候補として勝ち目がない州財務官の選挙に27歳の若さで出馬したのである。たとえ当選しても、収入はこれまでの何十分の一になるというのに。この選挙には落選したが、彼は周囲の勧めでサウスベンド市の市長選に挑み、74%の得票率で当選した。このとき彼はまだ29歳だった。

 これだけでもブーティジェッジは十分ユニークなのだが、彼は国民としての義務を感じて海軍予備軍にも入隊したのだ。そして、2014年に市長の仕事を休職してアフガニスタンに従軍した。戦地で7ヵ月を過ごし、同僚の死も間近に体験した彼は、帰国後にある決意をした。それは、ゲイであることを公表することだった。

 保守的なカトリック教徒が多いインディアナ州でのカミングアウト。サウスベンド市にはまだLGBTQの人権を守る条例があるが、州全体にはない。これまで彼を支持していた人々も彼がゲイだと知ったら背を向けるかもしれない。それでも彼は、地元の新聞でゲイであることをを公にし、その5ヵ月後に前回より多い80%の得票率で市長に再選されたのである。

 ラストベルトの人々が毛嫌いするハーバード大出のエリートで、移民2世で(父親がマルタ共和国出身)、しかもゲイであるという、これほどマイナスの要素が揃ったの人もいないだろうという人物なのに8割の市民の支持を得て再選されたのは驚異的。ブーティジェッジが党派を超えて本当に市民から愛されていることがわかる。

 テレビ出演もブーティジェッジ人気に拍車をかけている。通常の報道番組だけでなく、有名なトーク番組の数々、そして、トランプ大統領への強い支持を明らかにしているフォックス・ニュースの番組にも出演している。これまでの政治家は都合の悪い質問をされると、それに答えるふりをして自分の言いたいことだけを語る癖があり、聴衆もそれに慣れていた。ところが、ブーティジェッジはどんな質問をされても即座に真正面から実直に答えるのである。視聴者は「彼は、ちゃんと質問に答えている!」と驚いた。「ブーティジェッジは現時点で2020年の大統領選で最もホットな候補である」という見出しのCNNの記事も、これまで彼の存在を知らなかった有権者に「なるほど、現在最もホットな候補なのか」と名前を教えるきっかけになった。

 それらの影響を受けたのだろう。ブーティジェッジの回想録はベストセラーになった。出版社もそんなに売れるとは思っておらず、3月後半にはアマゾンでハードカバーが売り切れになり、4月9日現在も在庫切れのままだ。そして、全米最大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルのマサチューセッツ州最大の店舗でも4月5日に訪問した時点で残り1冊で入荷の予定が不明だという品薄状態だった。

 出馬を正式に表明した14日の演説会では、夫のチェイスン・グリーズマンを壇上に上げ、キスするシーンもあったようですが、そんなチェイスンは公にカムアウトしてから「恋活」をして出会った相手だということも、ピートのユニークさを物語るエピソードと言えるでしょう。
 回想録にも率直に書かれているそうですが、彼は、市長になるまでほとんど「恋活」をしたことがなく、どうやって相手を見つけたらいいのかわからずに悩んだそうです。「それまで頼みもしないのに娘や親戚の若い女性などを紹介してきた母親の世代の知人は息子や甥を紹介してはくれない。大学の友人たちが紹介してくれるのはニューヨークなど遠距離の者だけだ」。一方、インディアナ州の北のはずれにある人口10万人のサウスベンド市では、ゲイがパートナーを簡単に見つけられるような街ではないし(とはいえ、毎年プライドパレードも行われていますし、LGBTセンターもできたそうです)、市長としては地元のゲイバーで相手を探すのも難しいものがあります。結局、「マッチ・ドットコム」などの出会い系アプリを使い、シカゴで教師をしていたチェイスンと出会い(シカゴはインディアナ州に隣接していて、サウスベンドからも近いのです)、2017年に公の場で婚約を発表し、2018年に結婚しました。
 実はインターネットでのピート人気の秘密は夫のチェイスンのTwitterにあるそうです。温かい人間性とユーモアのセンスが感じられる彼のTwitterアカウントには約23万人ものフォロワーがいて、二人がシェルターから引き取った愛犬のトルーマンとバディにもファン(4万6000人ものフォロワー)がいます。このTwitterの投稿を通じて二人+愛犬は、アメリカの保守的な地域の人々にも、ゲイカップルの暮らしが男女のファミリーとなんら変わらないということを暗黙のうちに伝えています。
 
 聞けば聞くほど素敵で、人々を魅了するピート・ブーティジェッジというゲイのヒーロー。インディアナ州のお隣りのイリノイ州からオバマ大統領が誕生したように、もしかしたら2020年、トランプ候補を破り、史上初のゲイの大統領となる人物かもしれません。これから来年11月の米大統領選に向けて長い選挙戦が始まりますが、随時、ピートに関する情報をお伝えしていきます。ピートとともに夢を追い求めていきましょう。
 




注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブーティジェッジ(ニューズウィーク日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2019/04/post-57.php

同性愛公表の若き市長ブーティジェッジ氏、米大統領選の選挙運動開始(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3220776?pid=21172287

ブーティジェッジ氏が出馬表明 米大統領選 LGBTと公言(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43726490V10C19A4EAF000/

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