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大塚隆史 レトロスペクティブ

ゲイのクリエイター・大塚隆史(タック)さんの個展が現在、カラフルステーションで開催中です。思わず「素敵!」と言ってしまいそうになるイロイロな作品に囲まれながら、できればタックさんともお話しながら、ぜひ至福の時間を過ごしてください。

大塚隆史 レトロスペクティブ

今年オープンした「カラフルステーション」で開催中の大塚隆史(タック)さんの個展『大塚隆史レトロスペクティブ』のレビューをお送りします。(後藤純一)


大塚隆史さんって?


二人で生きる技術
幸せになるための
パートナーシップ

大塚隆史:著/ポット出版
2200円+税
 大塚隆史さん(愛称:タックさん)は、1970年代に一世を風靡した『スネークマンショー』に参加し、ゲイのポジティブな生き方をリスナーに向けて発信し(これに影響を受けたゲイは数知れず)、その後も造形作家として活躍しながら、1982年にバー『Tac's Knot(タックスノット)』をオープン。1990年代には別冊宝島のゲイ三部作『ゲイの贈り物』『ゲイのおもちゃ箱』『ゲイの学園天国』のを責任編集をつとめ、『2丁目からウロコ』(翔泳社・刊)、『二人で生きる技術--幸せになるためのパートナーシップ』(ポット出版・刊)といった著書も発表、また、『バディ』誌で「やっぱり♥ふたり」などの連載も行っていました。
 ひとことで言うと、ゲイシーンでも最も古くから(なんたって70年代!)活動してきた方であり、一貫してゲイのポジティブな生き方(ゲイの「幸せ」)を追求し、世間に、コミュニティに広めてきた方です。本当に好きな人とずっといっしょに暮らしていくこと(80年代以前は「おとぎ話」でした)、堂々とオープンに、誇りをもって生きていくということ(昔は「日陰者」とか「隠花植物」と言われていました)、そういう生き方について語り合ったりゲイカルチャーを楽しんだりできる場所、そういったことはすべて、元をたどっていくとタックさんへとつながるのです(足を向けて寝られないというか…感謝と尊敬の念を禁じえません)
 同時に、タックさんは、ゲイであることをオープンにしたたぶん初のアーティストであり、1981年からたびたび個展を開催し、その作品が別冊宝島ゲイ三部作の表紙を飾り(90年代ゲイブームを象徴するアーティストとなり)、どんどん新しい作風にチャレンジしながら、今も精力的に作品を制作しています。造形作家という肩書きにも表れているように、タックさんの作品は「箱」の形をしたものや立体的なオブジェが多数を占めています(今回の回顧展では、絵画などもご覧いただけます)。また、『タックスノット』でお店のお客さんによる月替わりのギャラリー展示を行い、ゲイ・アートとかゲイの表現活動をサポートしてきた方でもあります。

大塚隆史さんのプロフィール
http://www.asahi-net.or.jp/~km5t-ootk/taqo/profile.html

バー『タックスノット』
http://www.asahi-net.or.jp/~km5t-ootk/tacsknot.html
 


カラフルステーションって?


レインボーフラッグが
目印です!
 会場の「カラフルステーション」は、神宮前2丁目にあるLGBTフレンドリーなコミュニティセンターのような場所です。「クリエイティブでありながら、昔ながらの商店も残る神宮前2丁目に、老若男女LGBT問わず、誰もが気軽に立ち寄れていろんな個性に出会い、楽しい化学反応を起こすことのできる場」として今年の5月にオープンしたばかりです。
 築約50年の棟続きの2つの一軒家をつなぎリノベーションした建物で、ココロとカラダにおいしいアジアン食堂「irodori」(1階)、みんなにやさしい社会を応援するコミュニティ・シェアオフィス「FLAT」(2階)、多様性を発信するアートギャラリー「MoCA東京(THE MUSEUM OF COLORFUL ART, TOKYO)」(1階&2階)という3つのスペースを備えた複合施設です。今回のタックさんの個展は1階&2階の「MoCA東京」で開催されています。
 この「カラフルステーション」を運営するのは、「誰もがフラットにコミュニケーションをとることができて、いろんな個性が輝くことのできる新しい場所づくりを目指す」株式会社ニューキャンバスと、「『LGBTと、いろんな人と、いっしょに。』を掛け声に、みんなが素敵に歳を重ねられる社会を応援する」特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ。「新宿2丁目」と並ぶ、オープンで心地よい「2丁目」を東京につくろう!というプロジェクトの発信地となります。
 ちなみに、神宮前2丁目って原宿から行くイメージがあると思うのですが、個人的にはJR千駄ヶ谷駅(または大江戸線「国立競技場」)から歩いていくルートが気に入っています。緑が多く、人ごみのない閑静な住宅街を、あまり信号にもぶつからずほぼ直線で(ストレスなく)歩いて行けるし、途中で鳩森八幡神社(または明治公園)で休憩することもできます。東京体育館に通っている方などはぜひ♪


大塚隆史さんの回顧展を観て

 『ゲイの贈り物』の表紙になっていた水兵さんどうしがキスをしている超ラブリーな作品、1997年の個展で展示されていた「聖遺物筺」シリーズ(○○君の陰毛とか、ドラァグクイーンの方のハイヒールなどが「聖遺物筺」という瀟酒な箱の中に収められた作品)、2004の個展で展示されていたガラス絵シリーズや立体作品「ヒプノスの劇場」(舞台『違う太鼓』で使用された作品。会場で『違う太鼓』の映像もご覧いただけます)など、懐かしい作品もいっぱいで、個人的にはそれだけでも大満足!だったのですが、ほかにも、たとえば大型の「箱シリーズ」や、最初期の頃の絵画、最近の鬼シリーズ(「泣いた赤鬼」の赤鬼と青鬼がおうちでラブラブに過ごしていたり、ハワイアンを踊っていたり。とてもイイです)、今回のフライヤーに用いられていた「くるみ割り人形」のゲイ版的なドローイングなど、実にいろんなスタイルの作品を楽しむことができます。30年以上にわたるタックさんのアート活動を概観することができる、充実の回顧展でした。

 そうしたいろんなスタイルの作品は、美術的な視点でもかなり面白いと思うのですが、いわゆる「説明されないと何だかよくわからない」コンテンポラリーアートとは対照的に、それぞれが物語性を持っていて、饒舌に語りかけてくれます。そして、それぞれの作品群は、形こそ違えど、一本筋の通った何か——タックさんらしさでもあり、にじみ出るゲイテイストとも言うべきもの——によって結ばれている、タックさんの世界観を表しているのです。

 作品展だけでも充分に楽しめますが、物語性にあふれる作品を観ていると、これはきっとこういう作品なんだろうな…と想像がふくらみ、ついつい誰かと語り合いたくなると思います。会場にいらっしゃる方にお声かけしてみるのもいいと思いますが、タックさんがいらっしゃる日に足を運んでみると、その作品の背景についてタックさんから直にお話を聞くことができ、もう一度作品を観たくなったりして、とても楽しく、幸せな時間を過ごせると思います。
 タックさんは火・木・日曜日に会場にいらっしゃるそうです。(月曜が定休日)

 9月からは作品が一部入れ替わり、90年代の傑作「ドラァグ・トランプ」なども展示されるそう(みなさんご存じのクイーンの方たちのいにしえの姿も収められています)

 ちなみに、レインボーフラッグが掲げられた「カラフルステーション」のドアを開けると、アジアン食堂「irodori」となっていて(お腹がすいた方などはぜひ、召し上がっていただければと思います)、ギャラリーを想像していた方は少し面食らうかもしれませんが、「個展を観に来ました」と言って展示作品を観て(入ってすぐの左手に色鮮やかな「箱シリーズ」が展示されています)、引き続き階段から2階に上がって作品をご覧になる、という感じで大丈夫です。

『大塚隆史レトロスペクティブ』
会場:カラフルステーション内「MoCA東京」(渋谷区神宮前2-14−17)
日時:8月5日(火)〜9月14日(日)13時〜19時
定休:月曜


大塚隆史さんへのインタビュー

 個展を観に来られた方への応対も忙しいなか、お時間をいただいて、簡単にタックさんにお話をお聞きしました。15分くらいの短い時間だったのですが、とても濃厚なお話を聞くことができました(さすがです!)
 
——今回の回顧展は、どのような経緯でやることになったのですか?

ここは最近できた場所だけど、オープニングでJONATHANと林克彦くんの展覧会をやっていて、観に来たときに、声をかけていただいた。ここだったら広いし、新作だけだと余るけど、箱のシリーズを観てほしいというのもあって。箱は全部で6個あって、畳めるとはいえ、かさばるので、自分の家にはキープできず、ずっと、とあるお友達の家に預けていたんだけど、そちらのお宅でももう置いておけないということになって、去年亡くなったおばの家に運ぶことにして…。

——それで去年、「タックスノット」で「火の箱」が展示されたんですね?

そうそう、戻ったときに公開した。

——じゃあ、今回は、あの「箱シリーズ」がメインな感じ?

いちばん観てほしいというか、これを観られる機会はそうないですよ、と。

——ある意味、秘仏の御開帳みたいな(笑)

それ以外も観てほしいという気持ちがあって。バラバラな印象だけど、ぐるっと回してみると、ビーズの糸をつないだように見えてくるものがあるんじゃないかなと、こういう回顧展のような形で見せたいと前から思っていた。

——だいぶ前に手描きで描いた作品のように見えて実は、CGの最近の作品だったり。本当にいろんな作品があるけど、どれもタックさんの作品だなあと思いました。

40年前に描いた、女の子がとかげを持ってる絵にも、ちゃんと裸の男の子が描かれてるし。けっこう通ってるなあと。フラフラいろんなことをやってるけど、ある意味、通ってる。ある人がブログで今回の回顧展を観て「ゲイの人は欲望の対象を描くことが多いけど、関係性を描こうとしている」と書いてくれていて、うれしかった。エロチカとしての表現というよりは、関係を描いてるんだなあと。


大塚隆史(タック)さん
——そうですよね。鬼とかもそうだし、「聖遺物筺」とかも。

ぼくにとって作品は、飾るということ。何かがあって、それを大切だと思う気持ちで飾る。仏教の言葉で、仏様の周囲にお花を飾ったり天蓋を飾ったりするのを「荘厳(しょうごん)する」と言う。荘厳することで感謝の気持ちや敬愛の気持ちを表す。ぼくの作品って、男どうしの関係とかを大事だよって表現したくて、荘厳している。毛を荘厳する。面白いと思った鬼のカップルを荘厳する。中年のゲイのカップルの話を荘厳する。

——大切なものをただ大事にするんじゃなくて飾ることで愛でるっていうのが素敵ですね。

大切なものが、ぼくが好きな関係だったり、面白いストーリーだったり。自由に想像の翼をはばたかせるとか。「くるみ割り人形」を男どうしの話に変えて、くるみ割り人形とネズミの王がデキるという。

——とってもラブリーな作品でした。あれが今年の作品で、古いものだと…40年くらい前でしょうか?

縄の作品があるでしょ。あれ、ノッティングという技法で作ってるんだけど、ちょうどあの頃、『タックスノット』をオープンした。33年〜34年前かな。

——作品とお店が関連してたんですね〜知りませんでした。

お店も作品。大切な人たちがいて、それを荘厳している。その言葉を見つけたときに、そうなんだなあと思った。オネエさんの趣味としては、いいこと。

——ゲイテイストの基本かもしれませんね。

今はあまりゲイテイストという言葉も使いにくいけど(笑)。ぼくの中では大切な自己表現のひとつだと思う。

——『タックスノット』ではお客さんによる月替わりの展示があって、そういうこともご自身の作品に関連したりということもありますか?

『タックスノット』で作品をっていうことで言うと、セクシュアリティを隠さないで表現するっていうものを観たかったので、それを宿題にしていた。あの宿題を自分にも課してみようと思って最初にやったのが「聖遺物筺」。裸も素敵なんだけど、そこに特化しすぎてるなと思って、ぼくが表現するとしたら、フェティシズムかなあと。

——なるほど、そういう背景があったんですね。もしかしたら、的外れかもしれませんが、ゲイを取り巻く環境とか日本の状況ってここ数年、すごく変わってきたと思いますが、その辺りとタックさんの表現活動って何かリンクしていますか?

あまりそこをリンクさせようという意識はない。いろんなかたちでコミュニティの状況とか、同性婚とか、かかわってきたけど、だんだん実現してきているし、逆に自分はもっと自由になれたと思って。全体を見てどうこうじゃなく「私は」と言える。

——義務感とか使命感みたいなものを感じずに。

しょってるところはあった。今は、ゲイとか気負わなくても、自然に出てるから。そうなった自分から何が出てくるかなあみたいな。ここ数年は、よけいに感じる。

——これからもっと自由に。

自分のために。自分が面白いと思うこと。どう変わっていくかわからないけど。

——最後に、ゲイの表現活動をやってる人とか、みなさんに、何かひとこと。

やりたいことやりましょ。それに尽きるよね。やれる時代なんだもん。