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REVIEW

NHKハートをつなごう LGBT BOOK

2006年から性同一性障害を、2008年からはゲイやレズビアンのことも取り上げてきたNHK教育の番組『ハートをつなごう』。このたび、LGBTについての放送をまとめた本『NHKハートをつなごう LGBT BOOK』が発売されました。お友達やご家族、先生、同僚の方などにぜひ、この本をオススメしてください。

NHKハートをつなごう LGBT BOOK

 昨年5月の東京プライドフェスティバルに参加したり、その模様をニュースや記事でご覧になった方も多いと思います。そのステージで前田健さんやソニンさん、石田衣良さんらが出演した公開収録を行ったのがNHK教育『ハートをつなごう』でした。

 『ハートをつなごう』は2008年からたびたびゲイやレズビアンをテーマに据えて(性同一性障害も含めると全部で12回。この番組で取り上げられた最多テーマだそうです)、若い人たちの悩み、親へのカミングアウト、海外での「結婚」、地方で暮らすゲイの孤軍奮闘などを取り上げてきました。また、Webサイト『虹色』では全国のパレードやIDAHOなどの取組みを紹介したり、様々な連載記事を掲載してきました。なにしろ全国どの世帯でも視聴されるNHKの番組ですから、実際にゲイやレズビアンと接したことがない人たちが初めてリアルなゲイの姿を見聞きしたり、当事者が抱える悩みを知り、共感するという現象がものすごい範囲と規模で繰り広げられたはずです。世間にものすごく大きな影響を与えた『ハートをつなごう』は、2008年~2009年のゲイシーンの最重要トピックの1つとなりました。

 そんな『ハートをつなごう』は、生ものの番組ですから、録画して周りの人に見てもらうということもできるかもしれませんが、なかなかゲイに関係のある回をすべてチェックしてライブラリ保存できている人は少ないと思います。今回発売された『NHKハートをつなごう LGBT BOOK』が威力を発揮することになります。これまでゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、性同一性障害などのトランスジェンダー、性分化疾患(インターセックス)などについて取り上げてきた回の放送内容がダイジェストで紹介された一冊は、きっと、お友達やご家族、同僚の方などに読んでもらう入門書として最適なものになるでしょう。

 


NHKハートをつなごう LGBT BOOK
ソニン、ピーコ、リリー・フランキー、
平田俊明、杉山文野、石田衣良、
竹内佐千子、茂木健一郎、針間克己ほか
/監修:NHK「ハートをつなごう」制作班
/太田出版/1238円+

 以下、内容をざっとご紹介いたします。

 

 巻頭のカラーページでは、昨年5月に行われた東京プライドフェスティバルでのゲイカップルやレズビアンカップル、FTMと女性のカップルなど、たくさんの笑顔が掲載されています。それから、LGBT特集で学生がたくさん登場した回のスタジオの様子や、島根在住のゲイの方がお母さんにカミングアウトしたときの写真などが、番組中の印象的なフレーズとともに紹介されています。性同一性障害の杉山文野さん、ソニンさん、リリー・フランキーさん、ピーコさん、茂木健一郎さんといったタレントさんの写真も載っています。

 まえがきは、『ハートをつなごう』のレギュラーである石田衣良さんが書いています。
「明日のこの国が、性的な少数派にも、その他もろもろの多数派にも、生きやすい場所になりますように」
 人気作家が紡ぎ出した、素敵な言葉です。 

 巻頭では、杉山文野さんとソニンさんの「問うことで見えてくる『人』」という対談が掲載されています。 
 ソニンさんは、在日韓国人としての体験も語りながら、番組を通じて仲良くなったという杉山文野さん(FTMトランスセクシュアルの方。手術も受けています)と息の合ったトークを繰り広げています。
LGBTシリーズで会った人たち全員に共通して感じるのは、自己対話をしっかしてる人が多いなってこと」(杉山)
「そう!本当に、そこが魅力だと思う」(ソニン)
「しんどい、つらいは決して悪いことじゃない。そこを消化して乗り越えて次につなげていければ、きっと自分の糧になる」(杉山)
「私はセクシュアルマイノリティの人は好きです。男、女ってアダムとイブから始まった話でもありますが、そういう大きなものと向き合っているからこそ、尊敬できるし、魅力的だし、好きです」(ソニン)
「そこにある『事実』っていうことに尽きると思う。そこにいる自分をそのまま認めてあげたらいいんじゃないかって」(杉山)

 続いて、この本のメインコンテンツである番組の内容紹介記事「STORIES」が1から8まで続きます。

 2008年から今年にかけて放送された『ハートをつなごう』のLGBTに関する回のダイジェストでの紹介、コラム(同性婚などについて)、番組に届いたメールの紹介などです。

 島根の離島に暮らす中村さんというゲイの方がお母さんへカミングアウトしたときの放送や、札幌の「親の会」のメンバーとして毎年パレードでおにぎりを作ってくれているお母さんのお話に泣かされたことを思い出しました(忘れられない番組です)

 そんな「STORIES」の間に、茂木健一郎さんのコラム、石田衣良さんがこの本のために書き下ろした短編『カミングアウト・トゥ・マイ・マム』、竹内佐千子さんが描き下ろした漫画『ハニー&ハニー[ロンリー編]』、リリー・フランキーさんやピーコさんからのメッセージといった、素晴らしいオリジナル・コンテンツが挿入されています。
 特に、茂木さんは、「コンピュータの父」アラン・チューリングがゲイであるがゆえに受けた虐待や非業の死、また同性愛を理由に投獄されたオスカー・ワイルドの悲劇などについて語っていて、とてもいいコラムになっていました。アラン・チューリングのことはこれまであまりゲイシーンに知られていませんでしたが、茂木さんが200912月の「Think About AIDS」(TOKYO FM主催の手記リーディング・イベント)に出演した際にそのことを語ってくれたことがきっかけで、広まるようになったのでは?と思います。

 巻末では精神科医の平田俊明さん(AGP共同代表。「しらかば診療所」でカウンセリングも行っています)と針間克己さん(はりまクリニック院長。性同一性障害の方をたくさん診てきた方です)の対談『精神科医が語る「LGBTが抱えるメンタルヘルスの問題」』を読むことができます。
 ゲイにとって、うつなどのメンタルヘルスの問題は本当に深刻だと思いますが、この対談の中に、さまざまなヒントを読み取ることができると思います。
「パートナーと生涯連れ添って一緒に生きたいと思っても、制度的なものや周囲からの偏見によってそうできなければ、すごくつらいこと。社会的にちゃんと認知されていないことが、当事者のメンタルヘルスを損ねることにもつながります。パートナーが亡くなったあと、その悲しみを誰にも言えず独りで抱え込む。そういう『喪の作業』がうまくなされず、それがもとでうつになる人も」(平田)
「まず、学校の先生がいじめに加担しないこと。実際よくあるのが、いじめの中心が先生というケースなんです。『おまえはおかまか。男らしくしろ』と先生自らが言う傾向が強い」(針間)

 他にも、付録として、用語集や、LGBTサポート窓口の一覧なども紹介されています。

 全体として、決してカタいイメージではなく、ポップで手に取りやすい雰囲気になっています。誰にでもとっつきやすく、読みやすい一冊です。

 最後にもう1つ、この本がいいなあと思う理由を、お伝えしたいと思います。
 この本では、番組に寄せられたメールもたくさん紹介されていますが、その中に、こういうものがありました。
「誰しも悩む時期もあると思いますが、ある程度の年齢になれば、自分のセクシュアリティを認め覚悟を持ち当たり前の生活を送ることが、セクマイへの偏見を断ち切ることにつながると思います。いつまでもグズグズと『周りにわかってもらえない』というネガティブな意見ばかりマスコミが取り上げていると、マジョリティの人たちの偏見はますます悪いものになると思います。もっと普通に前向きに生きているセクマイにも目を向けています。外見も内面も魅力的な方はたくさんいます。悩みが服を来て歩いてるようなセクマイはもうたくさんです」
 ある意味、『ハートをつなごう』への批判とも受け止められるものだと思いますが、こうした自らへの批判もきちんと載せているところに、度量の大きさを感じました。

 『ハートをつなごう』は、福祉番組としての性質上、どうしても当事者の「大変さ」「しんどさ」に光を当てて、視聴者の理解や共感を促す、というものになりがちでした(それでも、パレードの様子や、若い人たちの活躍など、他のテーマに比べ、かなり前向きでハッピーな印象も伝えてきたと思います)
 民放に多数登場しているような素敵なゲイのタレント(最近、ゲイコミュニティの人気者が本当にたくさん出るようになりましたね!)の活躍とともに、『ハートをつなごう』のような番組が、虹色の車の両輪のようにいっしょにTVで観られるといいですよね。
 これからも『ハートをつなごう』に期待したいと思います。

(後藤純一)

 

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