REVIEW
歌川たいじ『花まみれの淑女たち』
歌川たいじさんが2作目の小説『花まみれの淑女たち』を発表。高齢な女性たちによるたくましくも美しい、驚天動地のミラクル大活劇。息もつかせぬ展開に心躍り、癒されます。ちゃんとクィアなキャラクターも登場します。
2018年8月30日、『やせる石鹸』に続き、歌川たいじさんの2作目の小説単行本となる『花まみれの淑女たち』が発売されました。高齢な「女性」たちによるたくましくも美しい、驚天動地のミラクル大活劇。血湧き肉躍る、息もつかせぬ展開で、しっかりロマンスや感動も盛り込まれ、癒されること間違いなしの作品です。いまの日本に最も必要な一冊かもしれません。ちゃんとクィアなキャラクターも登場します。レビューをお届けします。(後藤純一)
前作の『やせる石鹸』は太っていることをコンプレックスに感じている主人公が変わっていく様、心の成長を描いていましたが、今作は、さらにスケールが大きくなり、本格的なエンタメ傑作小説になった感があります。世間でバカにされがちなおばあちゃんたちが、まるで『チャーリーズ・エンジェル』のように社会の巨悪を相手に立ち回るアクション活劇の痛快さ、そして、主人公の心の成長、ロマンス、四季の移ろいと花々の彩り…息もつかせぬ展開と意外性の連続に心躍ること間違いなしで、とっても爽やかな読後感です。本当によくできた、傑作と言うほかない作品でした。
<あらすじ>
30代にして職を失い、無為な日々をすごす由佳が出会ったのは、北新宿「花まみれビル」に集まって暮らす淑女たち。見た目はほのぼのとしたお年寄りグループ、その実態は…日本中にネットワークを持つ植物学の元教授に、虹色の声をもつカリスマ歌手、ハイテク機器を駆使して活動するおばあさんメンバーだけで構成された探偵チームなど、いずれも型やぶりのマダムたちだった。――私も、あのおばあさんたちみたいになりたい。目立たず、しぶとくて、幸せで、美しい。誰からも注目されなくても毎年、花をつける草木のように…。
歌川さんのblog「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」によると、「2年間、脳みそが筋肉疲労でびろんびろんになるぐらい集中して」書いたそう。『デンデラ』という姥捨山に捨てられたおばあさんたちの映画がありましたが、「自分たちの特技を活かして経済的にも精神的にも自立、崖っぷちに追いやられた高齢者の方を次々と助け出し、それによってますます事業を拡大したおばあさん達の話を描こうと思いました」とのことです。「おばあさんらしからぬ行動をとったり、逆におばあさんであることを武器にする彼女たちは、社会の巨悪と対決します。弱者にだって尊厳があることを軽視し、若者に「頑張ってもどうせダメなんだ」と思わせることも平気な魑魅魍魎たちと、おばあさん戦士たちが戦います。そんな姿が主人公(30代前半)に希望を与え、彼女が抱える問題に突進する勇気を注入する…」
主人公が冴えない女性ってところがイイですね。世の多くの女性が共感し、夢を見れる作品だと思います。大活躍するのもご高齢の女性たち(おばあちゃん)で、『花まみれの淑女たち』というタイトルどおりの、女性礼賛小説になっています。一方、ちゃんとクィアなキャラクターも登場します。高貴で、美しくて、優しくて…たとえて言うなら、『ガラスの仮面』に出てくる春の王女・アルディスのような「女性」です。本当に素敵なキャラクターです。
本当に面白いので、世間の方たちにもたくさん読んでいただいて、ベストセラーになってほしいし、直木賞とかも取ってほしいし、映画化もされたらいいなと、思います(映画化といえば、歌川さんの『母さんがどんなに僕を嫌いでも』が映画化されます。今秋全国公開です)
『花まみれの淑女たち』
著者:歌川たいじ/KADOKAWA/定価:1,728円(本体1,600円+税)
INDEX
- 若い時にエイズ禍の時代を過ごしたゲイの心の傷を癒しながら魂の救済としての愛を描いた名作映画『異人たち』
- アート展レポート:能村個展「禁の薔薇」
- ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
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- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
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- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
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- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
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