g-lad xx

REVIEW

映画『イヴ・サンローラン』

イヴ・サンローランの栄光と苦悩の日々、そして半世紀にわたるパートナーとの関係を綴った初の公式ドキュメンタリーフィルム。これは、伝説のデザイナーの生涯を描いた作品というよりも、50年もの間イヴを支え、添い遂げたピエール・ベルジェが語る「あるゲイカップルの物語」です。その年月の重み、パートナーシップの素晴らしさに胸を打たれます。

映画『イヴ・サンローラン』

 フランスの国宝とも言われるファッションデザイナー、イヴ・サンローランの栄光と苦悩の日々、そして半世紀にわたるパートナー、ピエール・ベルジェとの関係を綴った初の公式ドキュメンタリーフィルム。あの大内順子さんも大絶賛しています。






 1957年、21歳の若さでクリスチャン・ディオールの後継者に抜擢され、2002年に世界中のファンから惜しまれながら引退を決意するまで、創造に愛と人生を捧げてきたイヴ・サンローラン。彼は、 女性がズボンをはくことが受け入れられなかった時代にスモーキング・スーツ(女性用のタキシード)を生み出したほか、パンタロン、シースルー、モンドリア ン・ルック、サファリ・ルック、エスニック・ルック、ロシアン・ルックなど、数々の伝説的な作品群を世に問い、新しい女性像を作り出しました。初めて黒人 のモデルを起用したデザイナーでもあります。時代の先駆者として、独創的かつエレガントなスタイルで世界中を驚かせ、魅了した「モードの帝王」は、その栄光の陰で、常にプレッシャーと戦い、苦悩していました。そんな貴重な姿が劇中では赤裸々に映し出されます。2008年にイヴが亡くなるまで、光と影の半世紀をともに歩み続けたパートナーのピエール・ベルジェが、イヴとの思い出を膨大な資料と共に紐解いていきます。コレクションの映像やイヴが所蔵していた夥しい数の美術品、そして二人が過ごしたパリのアパルトマン、マラケシュの別荘、ノルマンディの城…。
 映画館に足を運ぶ人たちの多くは、「モードの帝王」の素顔(光と影)、伝説的なコレクション(スタジアムでサンローランの作品を身にまとった300人のモデルが一斉にウォーキングするセレモニーに象徴されるような)、ため息が出るような美術品や骨董品の数々を観ようと期待していることでしょう。しかし、観客はすぐに、この映画がピエールがイヴをどれだけ愛してきたかを語り続けるものだと(つまり、ゲイのパートナーシップを記録した映画だと)気づかされます。劇中、イヴのお友達の女優さんが「二人に初めて会ったとき驚いた。だって、こんなに長くつきあってるカップル、今まで見たことなかったもの」と語るシーンがあります。観客たちもきっと、同じように感じたのではないかと思います。

 冒頭、サンローランが引退を発表するシーンに続き、ピエール・ベルジェが弔辞を読む映像が流れます。50年もの間、雨の日も風の日もパートナーに寄り添い、見守り、支え、最期を看取り、添い遂げた…その事実の厳粛さ、年月の重みに、胸を打たれます。そして世界的なニュースともなった(まるで国葬のように盛大な)葬儀が、あるゲイのデザイナーのものであり、そして彼のパートナーの男性が喪主をつとめ、弔辞を読んでいる、その光景にも胸を打たれました。ゲイの人権なんて認められていない時代からつきあいはじめた二人。少なからず波風が立ったことでしょう。それでも堂々と共に暮らし、仕事もして、世界に二人の関係を認めさせてきたのです。弔辞を読むピエールの姿には、「私たちの愛には一点の曇りもないし、少しも恥じたりしていない、誰にも文句など言わせない」とでも言うような、毅然とした誇りと愛の強さを感じました。
 映画『イヴ・サンローラン』は、セレブうんぬんの前に「苦楽を共にし、50年も連れ添ったゲイカップルの物語」にほかなりません。そこにこそ感動があるはずです。
 二人の間に、いったいどんなドラマがあったのか。その愛とパートナーシップの軌跡をぜひ、映画館でご覧になってみてください。(後藤純一)


イブ・サンローラン
2010年/フランス/監督:ピエール・トレトン/出演:ピエール・ベルジェ、イヴ・サンローランほか/配給:ファントム・フィルム/TOHOシネマズ六本木ヒルズ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中

INDEX

SCHEDULE