REVIEW
映画『イヴ・サンローラン』
イヴ・サンローランの栄光と苦悩の日々、そして半世紀にわたるパートナーとの関係を綴った初の公式ドキュメンタリーフィルム。これは、伝説のデザイナーの生涯を描いた作品というよりも、50年もの間イヴを支え、添い遂げたピエール・ベルジェが語る「あるゲイカップルの物語」です。その年月の重み、パートナーシップの素晴らしさに胸を打たれます。
フランスの国宝とも言われるファッションデザイナー、イヴ・サンローランの栄光と苦悩の日々、そして半世紀にわたるパートナー、ピエール・ベルジェとの関係を綴った初の公式ドキュメンタリーフィルム。あの大内順子さんも大絶賛しています。
映画館に足を運ぶ人たちの多くは、「モードの帝王」の素顔(光と影)、伝説的なコレクション(スタジアムでサンローランの作品を身にまとった300人のモデルが一斉にウォーキングするセレモニーに象徴されるような)、ため息が出るような美術品や骨董品の数々を観ようと期待していることでしょう。しかし、観客はすぐに、この映画がピエールがイヴをどれだけ愛してきたかを語り続けるものだと(つまり、ゲイのパートナーシップを記録した映画だと)気づかされます。劇中、イヴのお友達の女優さんが「二人に初めて会ったとき驚いた。だって、こんなに長くつきあってるカップル、今まで見たことなかったもの」と語るシーンがあります。観客たちもきっと、同じように感じたのではないかと思います。
冒頭、サンローランが引退を発表するシーンに続き、ピエール・ベルジェが弔辞を読む映像が流れます。50年もの間、雨の日も風の日もパートナーに寄り添い、見守り、支え、最期を看取り、添い遂げた…その事実の厳粛さ、年月の重みに、胸を打たれます。そして世界的なニュースともなった(まるで国葬のように盛大な)葬儀が、あるゲイのデザイナーのものであり、そして彼のパートナーの男性が喪主をつとめ、弔辞を読んでいる、その光景にも胸を打たれました。ゲイの人権なんて認められていない時代からつきあいはじめた二人。少なからず波風が立ったことでしょう。それでも堂々と共に暮らし、仕事もして、世界に二人の関係を認めさせてきたのです。弔辞を読むピエールの姿には、「私たちの愛には一点の曇りもないし、少しも恥じたりしていない、誰にも文句など言わせない」とでも言うような、毅然とした誇りと愛の強さを感じました。
映画『イヴ・サンローラン』は、セレブうんぬんの前に「苦楽を共にし、50年も連れ添ったゲイカップルの物語」にほかなりません。そこにこそ感動があるはずです。
二人の間に、いったいどんなドラマがあったのか。その愛とパートナーシップの軌跡をぜひ、映画館でご覧になってみてください。(後藤純一)
イブ・サンローラン
2010年/フランス/監督:ピエール・トレトン/出演:ピエール・ベルジェ、イヴ・サンローランほか/配給:ファントム・フィルム/TOHOシネマズ六本木ヒルズ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜