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映画『最終目的地』

80年代ゲイ映画の金字塔『モーリス』を撮ったジェームズ・アイヴォリー監督の最新作『最終目的地』は、アンソニー・ホプキンスと真田広之がゲイカップルを演じているということで話題になっている作品です。

映画『最終目的地』

 『最終目的地』は、コロンビア大学の大学院生であるオマーが、一冊だけ小説を書いて自殺した作家ユルス・グントの伝記を書こうとするものの、その公認を拒否する手紙を親族から受け取り、彼女のディアドラに焚き付けられて、ウルグアイの故ユルスの邸宅「オチョ・リオス」を訪ねるところから始まります。「オチョ・リオス」の住人であるグント家の人々は、ユルスの兄・アダム(アンソニー・ホプキンス)とそのパートナー、ピート(真田広之)、ユルスの妻だった未亡人・キャロライン、ユルスの愛人だったアーデン(シャルロット・ゲンズブール)とその娘・ポーシャ。楽天的な南米の地にありながら、彼らは「自分は一生このままなのだろうか…」という閉塞感を覚えていました。しかし、オマーの訪問をきっかけとして、行動を起こし、少しずつその後の人生を変え、未来を見る(希望を抱く)ことができるようになっていきます。「最終目的地」とは、どこを終の住み家とするか(誰を人生の伴侶とするか)ということなのでした。



 アンソニー・ホプキンスというと、ハンニバル・レクターを思い出す方も多いかもしれませんが、『ハワーズ・エンド』『日の名残り』などのアイヴォリー作品の常連で、英国調の品格と力強さを兼ね備えた柱のような役割を果たしてきたと思います。今回は、「自分にはもう先がない」と感じている、どこかアイヴォリー監督(84歳)の分身のような、年老いたゲイを演じています。
 原作では、アダムのパートナーはバンコク生まれのタイ人なんだそうですが、監督が真田さんを選び(真田さんはアイヴォリーの『上海の伯爵夫人』に出演しています)、徳之島生まれの日本人ということになりました。
 真田さん演じるピートは、そうだと言われなければ誰もゲイだと思わないだろう、男らしい雰囲気です(出演するにあたり、真田さんがいろいろゲイの仕草などを「研究」したそうですが、監督に『ふつうでいいよ』と言われたそうです)。でも、お茶をいれたり、ずぶ濡れになったオマーを優しくタオルで拭いてあげたり、学校から帰って来たポーシャを迎えたり、随所でゲイらしい優しさを見せています。(ついでに、唯一のセクシー・ショットも見せています)
 アダムは「年老いた自分なんかといつまでも一緒にいてはいけない」と、お金の工面を画策するのですが、それを知ったピートは、「ここが自分の最終目的地だ」と真っ直ぐに言い、アダムにキスをします。さらりとしてますが、とてもいいシーンです。
 また、ウルグアイという決して先進国ではない国の田舎町(というか村)でありながら、村人も二人の関係を認めていて(「ピートはね、アダムの大切な人なのよ』)、ごく自然に村にとけこんでいる様子も素敵でした。

 ひとつもセリフにムダがなく、優雅で繊細で、美しい映像を堪能できる(ウルグアイに行ってみたくなります)、アイヴォリー監督らしい極上の映画でした。文芸作品ではありますが、重さや堅苦しさは感じさせず、アートとエンタメがバランスよく融合し(笑えるシーンもあります)、本当に心地よい時間を過ごすことができました。


最終目的地THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION 
2009/アメリカ/監督:ジェームズ・アイヴォリー/出演:アンソニー・ホプキンス、ローラ・リニー、シャルロット・ゲンズブール    、ノルマ・アレアンドロ、アレクサンドラ・マリア・ララ、オマー・メトワリー、真田広之/シネマート新宿他で公開中

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