REVIEW
映画「恋につきもの」
漫画家ふみふみこさんの3本のコミックを映画化したオムニバス作品ですが、VJ CORTAROさんがプロデューサーとして関わっていることもあり、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなどセクシャルマイノリティの人物がメインキャラクターとして描かれた作品になっています。
4月6日(日)にAiSOTOPE LOUNGEで行われた映画「恋につきもの」の特別試写会におじゃましました(二丁目で試写会をやるところが素敵!)。上映後、アロムさんが司会をつとめたトークショーも行われ、いい感じに盛り上がっていました。
映画「恋につきもの」は、「ぼくらのへんたい」などで注目を集める漫画家ふみふみこさんのコミックを、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻の学生たちが実写映画化したオムニバス作品です。身体からトゲが出る特異体質の女子高生の葛藤を描く「いばらのばら」、ある秘密を抱える夫婦の奇妙な日常をつづった「豆腐の家」、恋人への未練をひきずる幽霊が巻き起こす騒動を描いた表題作「恋につきもの」の3作品で構成。「恋につきもの」では、原作者ふみふみこと制作スタッフが原案を共同開発し、それぞれコミック化・映画化するという試みがなされました。
以上は一般的な映画情報サイトの紹介文です。
上映館であるシネマート新宿の公式サイトには、もっと掘り下げたかたちで、こう書かれています。
「世の中には、人種、性別、年齢、宗教、職業、様々にカテゴライズ可能な人々が暮らしていて争いも絶えない。個人だって、自分の世界を守るために必死だ。みんな何かしら生きにくさを抱えながら、生きている。だけどそれでもみんな平等に恋をする。愛し愛され生きていきたい。
ふみふみこの作品に描かれるのは友人、恋人、夫婦といった様々な愛の形。一般的な男女の恋愛というよりは、セクシャルマイノリティの人物をメインキャラクターに物語を紡いで行く中で、彼らは「どんな形だって愛は愛」と、軽々とすべてを超越してみせる。未体験な感動がじわじわと広がるふみふみこの世界を初映像化。」
そうなのです。あまり予備知識なしに観たのでちょっとビックリしたのですが、この作品で描かれているのは、まぎれもなくセクシャルマイノリティの人物たちなのです。ゲイとかレズビアンとかトランスジェンダーという言葉(アイデンティティ)は出てきませんが、男性に惹かれてしまう自分を抑えきれない男性の葛藤、女の子どうしの恋模様、性自認の揺れ、そういうことが「動き」(行動とか、動揺とか)として描かれていて、現実ってこういうものだよなあ、と、ものすごくリアルに感じました。
特に「性自認の揺れ」をテーマに据えた作品では、性別を変えたいと望む人に対する周囲の人からの差別・暴力のことにまで言及し、なおかつ、非常に幻想的な(漫画的というよりも芸術的な)描かれ方になっていて、とても奥深く、印象的でした(もう一回観てみたいと思いました)。ただ痛々しいだけでなく、親身に寄り添ってくれそうな人が現れるところがいいな、救いがあると思いました。
漫画が原作ということもあり、体からトゲが生える特異体質(「X-MEN」や「アナと雪の女王」を彷彿させます)とか、豆腐みたいな家に住んでるとか、幽霊が出てくる(「ゴースト/ニューヨークの幻」?)とかは、ある意味、より楽しく観てもらうための「スパイス」というか「ギミック」みたいなもので、コアにあるのはセクシャルマイノリティへの共感、エールのようなキモチなんだと思いました。
何番目の作品のどのキャラクターがどう、ということは詳しくお伝えしませんので、ぜひ、映画館でご覧になって確かめてみてください。
それから、3本目の表題作「恋につきもの」では、「原作者ふみふみこと制作スタッフが原案を共同開発し、それぞれコミック化・映画化するという試みがなされた」のですが、これを手がけたのが、VJ CORTAROさんです(アシスタントプロデューサーとしてクレジットされています)。TGNなど、数多くのパーティにVJとして出演してきた、そして故・中村直さんとも親交が篤かった方です。
出演するキャストは、趣里さん(水谷豊さんと伊藤蘭さんの娘)や堀部圭亮さん(元「K2」)をのぞけば、それほど有名な方たちではないと思いますが、製作に携わっているのが映画界で活躍する人材を次々に輩出している東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻の方たちということもあり、映像等のクオリティは間違いナシで、ヘタなメジャー作品よりもずっと見応えのある映画になっていると思います。
4月12日(土)の公開初日は舞台挨拶があるほか、13日〜15日にもトークショーが予定されています。上映期間中、「ALAMAS CAFE」では、映画の半券をお会計の際にご提示していただくとドリンクメニュー(グラス)をワンコイン(500円)でご提供!というサービスを受けられるそうなので、新宿三丁目のシネマートで映画を観てから二丁目のALAMASに行くっていうのがゴールデンコースかも?
また、横浜や大阪、京都、神戸などでも上映が決定しているそうです。詳しくは公式FacebookやTwitterでチェックしてみてください。
『恋につきもの』
2013年/日本/監督:桝井大地、五十嵐耕平、一見正隆/出演:趣里、高橋洋、栁俊太郎、谷口蘭、石田法嗣、松本花奈、伊藤沙莉、葉山奨之ほか/配給:東京藝術大学大学院映像研究科/シネマート新宿ほかで公開中
『豆腐の家』(c)ふみふみこ/徳間書店 (c)2013『恋につきもの』製作委員会
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.18SWITCH -16th Anniversary-
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜