g-lad xx

REVIEW

映画『パレードへようこそ』

ゲラゲラ笑えてオイオイ泣けるエンタメ作品で、これが実話なの?とビックリするくらい、いろんな意味で素晴らしい大傑作。ぜひ大勢の方に観ていただきたい映画です。

映画『パレードへようこそ』

『パレードへようこそ』はゲラゲラ笑えてオイオイ泣けるエンタメ作品。舞台は1980年代のイギリス(まだゲイが「ヘンタイ」と罵られるような時代です)。ロンドンの都会っ子ゲイ&レズビアンと、ホモフォビアまるだしな荒くれ炭鉱夫たちとの間にまさかの「友情」が成立!という、奇跡のような、これが実話なの?とビックリするような物語。そして、セクシュアリティのこと、カミングアウトのこと、HIVのことなど、ゲイにとって大切なあらゆることが盛り込まれている、名作中の名作でした。ぜひ大勢の方に観ていただきたい映画です。(後藤純一)


 『イミテーション・ゲーム』に続き、2015年上半期、最も評判を呼びそうなゲイ映画として注目を集めている(また、昨年の『チョコレートドーナツ』と同様、シネスイッチ銀座での単館上映からスタートし、ロングランヒットになるのではないかと期待されている)『パレードへようこそ』が4月4日、公開されました。実際に観てみたら、予想以上に多様で、深くて、濃い物語。とても素晴らしい作品でした。ちょっと気が早いですが、今年度のg-lad xxイチオシ映画に認定したいと思います。
 












 僕自身もそうですが、まだまだ男尊女卑な(ホモフォビックな)田舎に生まれ育ったゲイの人は、とてもじゃないけど、ここでカミングアウトして生きていくことなどできない、と思う方も多いことでしょう。本当の自分を押し殺し、周囲の目を欺くために女性と結婚して生きていくか、都会に出て生きるか、どちらかだと。『パレードへようこそ』に登場する、ゲイタウンで本屋を営むゲシンもそうでした。彼は北ウェールズの田舎に住む母親に勘当され、もう16年も連絡をとっていない状態なのでした。

 たとえ都会に生まれ育った人であっても、由緒正しい家柄だったり、世間体をすごく気にする親だったりすると、ゲイだとバレて咎められたり、絶対にそのことを外部に漏らすなと厳しく言われたり、時には勘当されたり、ということもあるかと思います。『パレードへようこそ』に登場する若者・ジョーもそう。「保守的」を絵に描いたような家族には、決してゲイは受け容れられないのでした。
 
 この映画に登場する個性豊かなゲイやレズビアンたちは、みんなそれぞれに事情を抱えており、それぞれの物語が少しずつ描かれていきます(きっとその中に「あれは僕だ」と思える人もいることでしょう)。そして、LGSM(炭坑夫やその家族を支援するレズビアンとゲイの会)の活動を通じて、いろんな「小さな奇跡」が起きていくのです。そのいちいちが身にしみて…本当に泣けます(ていうか、最初の方からほぼ泣き通しだった気がします)
 
 『パレードへようこそ』は、文字通りパレードのシーンから始まります。学校の実習だとウソをついて家を出たジョーは、電車に乗ってロンドンへ行き、おっかなびっくり、パレードの列に加わります。そこでマイク(ザ・活動家という風体のゲイの人)に「(隠れているよりけばけばしい方がいいと書かれた)旗を持ってくれ」と言われて、なんとなくそのグループについていくのですが、パレードが終わった夜、ゲシンの本屋で、マイクの仲間である熱い青年・マーク(ちょっとムチムチしたイカニモ系)が立ち上がり、「今、この国の炭鉱夫たちは危機に瀕している。サッチャーにいじめられ、苦しんでいる彼らの境遇は僕らと同じじゃないか」と、炭鉱組合を支援することを提案し、LGSMが結成されるのです。
 最初はゲイコミュニティでも募金がなかなか集まらず、また、どの炭鉱組合に電話をしても「レズビアン&ゲイ…」と言った瞬間に電話を切られてしまい(あからさますぎてウケます)、先が思いやられるのですが、ようやくウェールズの炭鉱の村・ディライスが受け取ると言ってくれて、組合の代表であるダイが来ることに。彼はLGSMの意味を知らず、LがロンドンのLだと思っていたのですが(笑)、話を聞いて快くメンバーと握手し、その夜、いっしょにゲイバーに行き、募金に協力してくれた人たちに感謝のスピーチをするのです(そこで「コミー!(共産主義者)」というヤジが飛ぶあたりがリアルでした)。ノンケであるダイは「私たちが受け取ったのはお金だけではありません。友情です」と語り、ゲイたちから喝采を浴びます(まずそのシーンで涙腺が崩壊…)。この言葉に、映画のテーマが凝縮されています。
 LGSMのメンバーは、みんなでディライスの村に行くことになるのですが(村の側は困惑しますが、ある聡明な女性のおかげでOKになります)、村の荒くれ炭鉱夫たちは(寄付金をもらっているにもかかわらず)ロコツな侮蔑語を吐き捨て、集会所から出て行き、あからさまに拒絶します。差別には慣れているとはいえ、さすがにメンバーもへこみます。しかし、LGSMメンバーのある素敵な行動がきっかけとなり、村の男たちの態度が変わっていき…。
 このように、ちょっと進んでは壁にぶつかり、の繰り返しなのですが、LGSMのメンバーたちは、励ましあいながら、ゲイらしいセンスと知恵と熱意によって苦難を克服し、少しずつ前に進んでいく(奇跡を起こしていく)のです。
 
 1980年代の名作『トーチソング・トリロジー』は、周囲の無理解や迫害に負けず、強く気高く、愛に生きようとするゲイの姿を描き、涙を誘いました。限りなく深く優しい「愛」の物語でした。
 1990年代の名作『ロングタイム・コンパニオン』は(あるいは『RENT』は)、過酷なエイズ禍のなかで、ゲイどうしが絆を強め、希望を失わずに生きていこうとする、悲しくも崇高な作品、「友愛」の物語でした。
 そして21世紀に誕生した名作『パレードへようこそ』は、ゲイ(やレズビアン)とストレートとの「友情」の物語です。
 人は誰かのために生きるとき、本当に強くなれる、美しく輝ける、ということをこれ以上雄弁に物語る作品はなかなかありません。ゲイの登場人物たちは理不尽な苦難に直面しながらも、決して希望を失いません。それは、愛する人がいるから、苦労を共にし、支え合う友人たちがいるからです。愛は(友情は)死の恐怖をも乗り越えるもの。生きる意味そのものなのです。
 
 もう1つ、これらの作品に共通していることがあります。
 どんなに苦しい状況でも決して自分を卑下せず(ゲイであることを否定せず=PRIDEを失わず)、前向きに生きていこうとする姿勢です。これは、『トーチソング・トリロジー』以降のゲイ映画にとって揺るがぬポリシーであり、屋台骨みたいなものだと思います(その最たるものが『ミルク』です)
 『パレードへようこそ』も当然、そういう映画だろうと思って観ていました。途中まではそうでした。が、なんと、まさかの大どんでん返し的な「後ろ向き」が描かれ、心底驚きました。ちゃぶ台(ゲイ映画の前提条件)がひっくり返されたのです。そこには相応の理由があり、あとでちゃんと納得がいく展開にはなるのですが、その「後ろ向き」なシーンにこそ人間の「実存」のリアリティが表現されていたと思いますし、そこを隠さずに描いたこと、懐の深さに感動を覚えました。そのシーンがあったからこそ、PRIDEということの輝き(そして、せつなさ)が増したように感じました。
 『パレードへようこそ』の原題は「PRIDE」と言います。この作品に描かれた「PRIDE」は、気高さ(ちょっとツンケンしたイメージ)とかではなく、人と人が腹を割ってぶつかりあって、これが自分の生き様だ!って見せつけあうようなものであり、熱せられ、叩かれては冷まされ、を繰り返して強くなっていく鉄のようなものであり…なんだか「PRIDE」ということの意味が「鍛え直された」ような気がします。
 
 愛すべき村人たちの姿にもぜひ、注目してください。彼らは決してただの田舎者ではありません。炭鉱夫(マイナー)である村の男たちはキホン、乱暴でバカだったりしますが、友情には篤いのです。ひとたび仲間だと認識すれば、決して裏切りません(男気と言いますか。惚れ惚れしちゃいます)。その妻である女たち、そして子どもたちはゲイ&レズビアンのよき味方です(ただ一人を除いては…)。予告編にも出てきますが、そんな村の元気なオバチャンたちがロンドンのゲイバー(しかもSMとかやっちゃうようなハッテン系のお店)に押し入るシーンは爆笑モノ。「田舎の人たちはホモフォビック」という「偏見」を痛快に笑い飛ばしてくれます(案外、日本だってそうかもしれないな、と思わせてくれます)
 
 これ以上書くとネタバレになるので控えますが、ほかにも、セクシュアリティの目覚めのことやカミングアウトのこと、差別を逆手にとるということ(CAMPの精神)、HIVのことなど、ゲイにとって大切なあらゆることが、ここには描かれています。そして、ゲイとかノンケとか関係なく、登場人物の一人一人にその人らしい生き様があり、網目のように入り組んだ人間関係のなかで思いもしなかったドラマが紡ぎだされます。どんな人生にも価値があるし、世界はこんなにも面白さに満ちている(神様、ありがとう)と思える、そんな作品だと思います(正直、もう一度じっくり観たいです)

 これまで炭鉱モノ(サッチャー政権下のイギリスで、炭鉱閉鎖政策に対抗して炭鉱夫たちがストを展開している時代を描いた映画)といえば、『リトル・ダンサー』『フル・モンティ』『ブラス!』と相場が決まっていて、なかでも『リトル・ダンサー』(そしてミュージカル『ビリー・エリオット』)は、死にたくなった時に観ようと思う心の映画ベスト3に入るくらいのお気に入り作品だったのですが、ここにきて炭鉱モノNo.1を塗り替えなければならなくなりました。それくらい、『パレードへようこそ』は名作です。
 
 劇中で使われている音楽も素晴らしいです。80年代イギリスというゲイゲイしい時代の名曲がふんだんに盛り込まれています。冒頭のパレードの後、ゲシンの本屋にみんなが集まってワイワイしているシーンでさっそく、ザ・スミスの「What Difference Does It Make?」が流れていて、ジーンときました。その後もカルチャークラブ「Karma Chameleon」、デッド・オア・アライブ「You Spin Me Round」、ブロンスキ・ビート「Tell Me why」、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド「Two Tribes」、ピート・シェリー「Homosapien」、コミュナーズ「For A Friend」など、ゲイ(またはバイセクシュアル)のアーティストの歌がテンションを上げてくれたり、心癒してくれたりします。

 ともあれ、気軽に笑いながら楽しめる映画ですので、彼氏やお友達、あるいは家族や同僚の方などを誘って、ぜひ映画館に足を運んでみてください。GWのパレードの前に観るとピッタリかも!


パレードへようこそPRIDE
2014年/イギリス/監督:マシュー・ウォーカス/出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ、ジョセフ・ギルガン、アンドリュー・スコット、ベン・シュネッツァーほか/配給:セテラ・インターナショナル/4月4日(土) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
 

INDEX

SCHEDULE