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REVIEW

映画『ボヘミアン・ラプソディ』

ライブ・エイドのシーンでは感動を禁じえないだろう、圧倒的なミュージック・エンターテイメントです。フレディ・マーキュリーのセクシュアリティについても正面から描かれています。 assets/images/review/CINEMA2/BohemianRhapsody/br_top.jpg

ライブ・エイドのシーンでは感動を禁じえないだろう、圧倒的なミュージック・エンターテイメント、『ボヘミアン・ラプソディ』 。たとえクイーンのファンでなくても(実際、若い方が多数、観てました)、曲をそんなに知らなくても、楽しめる映画だと思います。フレディ・マーキュリーのセクシュアリティの部分もしっかり、正面から描かれています。映画のレビューと併せ、後半、フレディ・マーキュリーやその周囲のゲイたちの真実についても補足的にお伝えします。(後藤純一)

 


映画『ボヘミアン・ラプソディ』 


 もしかしたら、平成生まれの方などは、クイーンの音楽はCMなどで聞いたことがあるかもしれないけどクイーンがどんなバンドなのか、フレディ・マーキュリーって何者なのか、よく知らないという方もいらっしゃるかもしれません(ここ数年、クイーンのブライアン・メイとロジャー・テイラーがアダム・ランバートと一緒にツアーをやっているのは、ご存じだったりするかもしれませんね)
 クイーンという唯一無二のバンドのフロントマンとしてその天才的な音楽の才能を数々の名曲に昇華させ、全身タイツみたいな衣装で、あるいは、ロコツにハードゲイないでたちでステージを走り回り、拳を振り上げたり、独特の足をピーンと伸ばしたポーズをとったり、というパフォーマンスで世界を熱狂させたフレディ・マーキュリーを、ある人は「フレディ・マーキュリーはゲイ・アイコンの一人なのではない、彼こそがゲイ・アイコンなのだ」と評しています。
 人種的にも宗教的にもセクシュアリティ的にもマイノリティであったフレディの人生にフォーカスしながら、クイーンという不世出のバンドが生んだ音楽の素晴らしさを圧倒的な迫力で伝えるミュージック・エンターテイメント映画が、この『ボヘミアン・ラプソディ』です。
(なお、フレディの人生の真実に迫ったドキュメンタリー『フレディ・マーキュリー 人生と歌を愛した男』が、2006年に公開されています)
 
 11月9日、日本でも『ボヘミアン・ラプソディ』が公開され、見事にオープニング興収第1位を記録しました。12日時点で世界35ヵ国でランキング1位を独走中だそうで、評判もとても良いです。
 この映画、当初フレディを演じる予定だったサシャ・バロン・コーエンが降板し、いったんはベン・ウィショー(本人もゲイだから?)の名前が挙がりましたが、最終的に「Mr. Robot」のラミ・マレックという世界的な知名度はイマイチな俳優になった(結果的にはサシャ・バロン・コーエンよりも全然よかったと思います)、それだけでなく、監督もなかなか決まらず、最終的にブライアン・シンガー(『X-MEN』シリーズ。ブライアンもゲイです)が撮りはじめましたが、セクハラで訴えられたことも関係あるのかわかりませんが、突然撮影を中断し、解雇され、デクスター・フレッチャーが引き継ぎ、奇跡的に完成させた作品なのです(詳しくはこちら)。これだけいろんな問題が起こりながらも、完成にこぎつけたのは、製作陣(プロデューサーたち)の熱意があったからこそ、でしょうが、やはり、フレディのマイノリティとしての生き様を軸として、クイーンの音楽の素晴らしさを余すところなく伝え、ウェンブリーでのライブ・エイドの感動を最後に持ってきて、という企画の良さ、これはきっとヒットするという確信があったからでしょう。
 そして実際、多くのファンが劇場に詰めかけ、固唾を吞んで、夢中になって映画を楽しみ、最後には涙を流し、拍手すら起こり…大成功を収めています。
 
 多くの人が書いている通りなので、あまりくどくどと述べませんが、『ボヘミアン・ラプソディ』は、圧倒的なミュージック・エンターテイメントです。「パキ」と罵られ、ゲイであるがゆえに苦悩し、あまつさえHIVに感染し…そんなフレディの生き様、孤独な闘いが『ボヘミアン・ラプソディ』や『伝説のチャンピオン』の歌詞にシンクロしたライブ・エイドのシーンは、誰もが感動を禁じえないだろうと思います。この映画こそ、IMAXとかDolby-ATOMOSとかの特別な音響設備で体験する価値があると思います(特別料金ですが、この映画なら納得できるのではないかと思います)

ボヘミアン・ラプソディ』Bohemian Rhapsody
2018年/アメリカ/監督:ブライアン・シンガー/出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ、マイク・マイヤーズ、アーロン・マカスカー他


 


 

ゲイとしての真実


 ここからは、映画をすでにご覧になり、フレディや周囲のゲイの人たちの描かれ方にモヤモヤしたり、一抹の違和感を覚えた方のためにお贈りします。 
 
 お子様も観る映画(PG12)として製作された『ボヘミアン・ラプソディ』は、フレディがゲイクラブかクルージングバーのような所に入ってドギマギしているような(でも幻想的に演出されている)シーンが最も「過激」で、キホン男どうしのセックスのシーンはないですし、フレディはメアリーにセクシュアリティのことを指摘されて「ボク、本当はメアリーに生涯の愛を誓いたいんだ、けど、けど…バイセクシュアルなんだ」みたいな迷える子羊のようなウルウルした目でメアリーに許しを請い、「フレディ、あなたはゲイよ。ずっとわかってた。でも、あなたは全然悪くない」と言われ、晴れて別居することになりました。でも、オトコはいなくて、ガランとした豪邸に独りで住むのは寂しくて、自宅で派手な誕生日パーティを開いたりするものの、パーティの後片付けをしていたジム・ハットンに惚れて、彼のことを何年も探し続け、ようやく見つけ、実家の家族にも紹介し、ライブエイドのステージでジムもメアリーと一緒に、目をキラキラ輝かせながらフレディを見守る、という、ものすごく美化された描かれ方をしています。
 一方、フレディがゲイに目覚めたのは、「ボヘミアン・ラプソディ」のレコーディングの際に面倒を見ていたマネージャーのポールが、フレディにキスしたからだ(ポールがゲイの世界に引きずりこんだ)的な描かれ方もされています。ポールはそれだけでなく、いかがわしい場所にも連れて行くし、(まるで悪い連中だと言わんばかりに)レザーを身にまとったゲイたちを家に連れて来るし、フレディがソロ活動のためにバンドを休む(裏切る)きっかけを作り、ライブ・エイドの話をフレディに伏せ、そのことを問い詰められると嘘の言い訳をしてしまい、フレディが怒ってクビにすると、逆恨みしてテレビであることないことしゃべってしまった、という「悪役」として描かれているのです。

 『ボヘミアン・ラプソディ』、クイーンのファンはもちろん、若い方などが観ても楽しめるエンタメ作品ですし、(多かれ少なかれホモフォビアを持っているような)ノンケの方も、フレディがゲイで、エイズで亡くなったという点に嫌悪感を持たずに、受け入れられるような作品になっていると思います。
 なのですが、本当は、ジム・ハットンが、フレディが亡くなるまで献身的に介護し、家族として尽くしたのに、そのパートナーシップの素晴らしさがすっぽり抜け落ちています。そして、ポールをゲイの悪い奴として描き、バンドメンバーとメアリーというノンケ達は見事にいい人に描かれているのは、あまり公平ではないだろうと感じてしまいます。
 
 『ボヘミアン・ラプソディ』をゲイの映画として観た時、こういう不満を覚える、モヤモヤする方がきっといらっしゃると思います。本当はどうだったんだろう?と思うのではないでしょうか。そこで、フレディのセクシュアリティの真実、ジム・ハットンとの関係、そして、ポール・プレンターという人物について、本当はどうだったのか、お伝えしてみます。
 
 まず、フレディのセクシュアリティ(LOVE&SEX)について、です。最初はメアリーとつきあっていましたが、次第に自分の中の本当の欲望に気づき、70年代半ばまでに、レコード会社のエグゼクティブな男性と関係を持ち、1975年〜77年の間に、リバーサイドのバーでポール・プレンターと知り合い、パートナーとなりました(メアリーに告白するのは、76年12月です)。後でまた詳しく述べますが、ポールはマネージャーとして10年近くフレディを支えた、公私にわたるパートナーでした。ロンドンのゲイバーでも、よく二人が飲んでいる姿が目撃されていました。
 一方、例えばフレディと肉体関係を持ったたくさんの人々が登場していろいろ暴露している「Freddie's Loves」というBBCの番組で明らかにされているように、フレディは次々に男と出会い、恋をして、それを歌にして、しばらくすると彼氏と別れてまた違う男と出会い(要は取っ替え引っ替えして)、ツアーに行った先でも(日本でも)ナンパに精を出し…という性豪ぶりでした。愛と性は別、と語り、自宅で乱交パーティも開いていたそうです。
  
 フレディは(多くのゲイの偉人がそうであるように)性豪で、いわゆる遊び人であったわけですが、1983年、運命の人と出会います。ロンドンのとあるゲイバーで、口髭をたくわえたガッチリ系のいい男を見かけたフレディは、彼に「一杯どう?」と声をかけます(「ねえ、君のアソコってデカイ?」という最悪なセリフだったという説もあります)。その男は、フレディのことを知らず、また、つきあっている人がいたため、ナンパを断ったそうです。しかし、3ヵ月後、二人は別のゲイバーで再会し、今度はめでたく一緒にお酒を飲むことが叶い、おつきあいが始まります。フレディがひとめぼれした男の名は、ジム・ハットンでした。
 ジムはフレディの家に、庭師として住み込むようになり、愛の生活がスタートします。ジム・ハットンは、見た目こそ野郎くさい感じでしたが、もともとアイルランドのカーロウという街でヘアドレッサーをしていた人で、フレディとはウマが合ったようです(フレディは話ができる人を交際相手に選んでいました)。たくさんの、幸せそうな二人の姿を捉えた写真が残っています。二人は、もちろん公式には結婚できませんでしたが、お揃いの指輪をつけていました。
 1987年、フレディはHIVに感染していると診断されました。フレディはジムに「ぼくらの関係が終わっても仕方がない、出て行ってもとがめないよ」と言いましたが、ジムは「君を愛してるよ、フレディ、僕はどこにもいかないよ」と言いました。そして、マスコミを完全にシャットアウトし、残された日々を二人で過ごすことに決めました。ジムはフレディのそばに寄り添い、甲斐甲斐しく世話をしました。ジムは1990年、自身もHIVに感染していることを知りましたが、フレディが亡くなるまで、そのことは黙っていたそうです。
 フレディが1991年11月24日、息を引き取るその瞬間まで(自身も感染していながら)看護をし、常に気遣い、愛し続けた、素晴らしいパートナー、ジム・ハットン。彼は、1994年、「Mercury and Me」という本を出版し、ベールに包まれていたフレディの晩年の様子や、二人の仲睦まじい写真を公表しました。自分もいつエイズを発症してこの世を去ることになるかもしれない、この稀代のスーパースターの本当の笑顔を、世界に伝えておきたい、と思ったのでしょう。
 幸い、ジムはエイズとの闘いに打ち勝ち、2010年まで生き延びました。
 なお、フレディはジムに約7000万円の遺産とアイルランドに建てた二人のための家を遺しましたが、フレディの莫大な遺産のほとんどは(あの派手なパーティを開いた大豪邸も)メアリーが相続した、ということを付け加えておきます。さらに言うと、メアリーはジムのことを嫌っていたそうです(こんなに素晴らしい人なのに…) 


 最後に、ポール・プレンターがどんな人物だったか、について、お伝えします。
 ポールは北アイルランドのベルファスト出身で、もともとラジオDJをしていました。1975年にフレディとバーで知り合い、セクフレのような彼氏のような関係になり、77年にマネージャーになっています。仕事上の関係は、最初の5年間は、とても良好でした。しかし、クイーンの他のメンバーとは合わず、1982年のアルバム『Hot Space』のリリースの時に、ブライアンとロジャーがアルバムの音の悪さをポールのせいにし、クイーンからは離れます。ただ、そこからも数年は、フレディとの仕事をしていました。
 フレディがポールを解雇したのは、ライブ・エイドの後、1987年でした。テレビでフレディがゲイだとアウティングしたというのも事実ではありません。真実は、フレディに罵倒され、解雇された悔しさから『ザ・サン』というタブロイド紙に対して、フレディがジム・ハットンとの交際関係を暴露したのです。
 映画では、いくつかの事実がミックスされていますが、言えるのは、実際よりも悪く描かれているということです。
 不運なことに、この不当な扱いに対して、ポールは異議申し立てを行うことができません。なぜなら、彼も1991年にエイズで亡くなっているからです。
 What Happened To Paul Prenter? The ‘Bohemian Rhapsody’ Villain Had A More Complex Relationship With The Band IRL(BUSTLE)という記事では、「すべての映画は、悪役を必要としている。『ボヘミアン・ラプソディ』では、ポールにその役が集約されてしまった。しかし彼は、10年もの間ーークイーンというバンドにとって最も重要な時期にーー公私にわたってフレディを支えていた」と述べられています。
 
 不世出のスーパースター、フレディ・マーキュリー。彼がバイセクシュアルだったこと、エイズで亡くなったことは、1991年当時としては、たいへんセンセーショナルでした。しかし、今の時代、映画を観た若い世代の多くは、何の嫌悪感も抱かず、素直に受けとめ、あまつさえ、残り少ない命を燃やすヒーローとして感情移入できたことと思います。映画としては、それでいいのかな、とも思います。大切なことはちゃんと伝えた、よくやったよ、と。
 ただ、天国にいる彼らへの供養の気持ちも込めて、蛇足かもしれませんが、ゲイとしての真実、史実をみなさんにお伝えしておこうと思った次第です。これを読んで、胸がすく気持ちがしたり、腑に落ちたり、という方が一人でもいらっしゃれば、幸いです。


参考記事:
11 fascinating facts about Queen legend Freddie Mercury(SmoothRadio)
https://www.smoothradio.com/features/freddie-mercury-facts-death-teeth-songs-parents/
Five facts about Freddie Mercury’s former partner Jim Hutton(Irish Central)
https://www.irishcentral.com/culture/entertainment/freddie-mercury-irish-boyfriend-jim-hutton



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