REVIEW

その他の記事

劇団フライングステージ第40回公演 朗読劇『8』

11月2日(月)、フライングステージの第40回公演が朗読劇『8』の上演で千秋楽を迎えました。上演後には、今度同性パートナーシップについての本を出すというエスムラルダさんをゲストに迎えてのポストパフォーマンストークも行われました。 

劇団フライングステージ第40回公演 朗読劇『8』

2015年11月2日(月)、フライングステージの第40回公演が朗読劇『8(エイト)』の上演で千秋楽を迎えました。上演後には、今度同性パートナーシップについての本を出すというエスムラルダさんをゲストに迎えてのポストパフォーマンストークも行われました。レポートをお届けします。(後藤純一)

 

 ハロウィンのお祭り騒ぎもすっかり落ち着いた11月2日月曜日の夜、ほとんど満席となった下北沢のOFF OFFシアターはあたたかな熱気に包まれていました。
 朗読劇『8』は、アメリカの司法制度や裁判に詳しい人じゃないと「?」となるような判例や専門用語がいろいろ出てくるお芝居です。そこで、観客にはあらかじめ、そういう難しい言葉を解説するペーパーが配られました(とても親切な対応だと思いました)
 カリフォルニア州の同性婚は、2008年5月にいったん認められたのですが、同年11月、大統領選と同時に実施された提案8号(カリフォルニア州法で同性婚を禁じるもの)という住民投票で僅差で覆され、この『8』は、州法で同性婚を禁じることがアメリカの憲法に違反しているとして、子どもを育てているレズビアンカップルとゲイカップルが原告となり、州を相手どって裁判を起こした、その裁判の様子(原告側・被告側の弁論や証人の陳述、判事のコメントなど)を再現するとともに、レズビアンカップルと息子たちの愛情あふれるやりとりが盛り込まれた朗読劇になっています。
 法廷の外では「伝統的な家族を守れ」と主張する人たちがいたりしますし、同性婚禁止派の弁護士は「結婚が認められる条件は責任ある生殖の観念だ」などと述べ、同性婚禁止の正当性を訴えます。しかし、国を代表する2人の名弁護士が原告の味方につき、敵の弁護士や証人に鋭く迫ります。結局、ほとんどの証人は怖じ気づき(法廷で同性愛者を結婚から排除する妥当な理由を述べることができず)、唯一の証人となるちょっとコミュ障な結婚研究家も、最終的には「同性カップルは、結婚が認められることでより幸福になれる」と認めました。もはや、どちらに理があるかは明白なのでした。
 LAでの初演時には、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピット、ケヴィン・ベーコンら豪華俳優陣が出演し、また、理解のない親によって同性愛の治療施設に送り込まれ、自殺まで考えたというゲイの青年の役を、『glee』のクリス・コルファーが演じていたそうです(観てみたかったですよね。幸いなことにこちらで視聴できます)。フライングステージ版は、関根さんと石関さんが味方の弁護士を演じ、『Friend, Friends』で不憫なゲイの役を演じた阪上さんが敵の弁護士を演じていました。同性婚に反対してキーキー叫ぶマギー・ギャレガーという女性の役をモイラさんのが女装で演じていましたが、今回唯一の女装ということもあり、ひときわ輝いていました。また、終盤で同性婚を認めることになる重要な証人のブランケンホーンを、『Friend, Friends』でパパ役を演じた若林さんが演じ、貫禄を感じさせました。それから、今年の東京レインボープライドのステージで歌っていたTomoneさんが原告のレズビアンマザー役で出演していて、新鮮さを感じさせました。そして、何と言っても、無名塾の岡本舞さんが判事役を演じてくれたこと(本家と同様、有名な役者さんが参加してくれたこと)が素晴らしいと思いました。
 昨年の映画祭の関連イベントとして上演された『8』は、けっこう演劇的な、演出上の工夫(周囲から発せられるノイズとか)が施され、見た目にも楽しめるものになっていましたが、フライングステージ版は、原作に忠実に、シンプルな朗読劇として上演され、脚本の言わんとするところがダイレクトに伝わってくるものになっていました。結果、アメリカの話ではありますが、そもそも国民の中に結婚できる人とできない人がいるということ自体が差別である(以前は禁じられていた異人種間の結婚がOKになったように、同性愛者の結婚を認めることも当然、基本的人権である)ということが、ものすごい説得力で伝わってくる、ストンと腑に落ちるものになっていました。反対派の人たちにこそ観てほしい舞台だと思いました。
 それから、『8』が上演されたのはカリフォルニア州の同性婚がまだどうなるかわからない時代のことなので、最後に、めでたく最高裁判決で同性婚が認められるようになったということを注釈としてアナウンスするか、それがわかるようなセリフを付け加えてほしい、という注文があったそうです。そこで、フライングステージ版では、今年6月の、全米で同性婚を認めた最高裁の判決文(素晴らしいと話題になったもの)が朗読されました。
「人と人のさまざまな結びつきのなかで、結婚以上に深い結びつきがあろうか。なぜなら結婚とは、最も崇高な愛、忠誠、献身、自分を犠牲にしてでも守りたい気持ちを含んでおり、家族を抱くことだ。婚姻関係を結ぶことで、二人の個人は、いままでの自分をはるかに超えて深みのある人間になる。今回の訴訟の申立人たちは、たとえ死が二人を分かつとしても、なお途切れない愛情が、結婚にはあると証明している。ゆえに、申立人たちが結婚という営みを軽視しているとするのは、大きな誤解である。彼らの申し立ては、結婚という営みの意味を尊重しているがためであり、だからこそ、自らもそれを成し得んとしているのである。申立人たちが望むのは、非難され、孤独のうちに生涯を終えることのないこと。また、古い体制や思想のために社会から排除されることなく、生を全うできることである。法の下に、平等なる尊厳を求めているのである。憲法は、彼らにもその権利を付与している。よって当法廷は、第六巡回区控訴裁の判断を破棄する。上記のとおり命令する」
 

 上演後、ごく短い休憩をはさんで、ポストパフォーマンストークが行われました(これも『8』の上演に関する条件の一つなんだそうです)
 司会は座長の関根さん。ゲストは、土曜日の1回目の上演の時が弁護士の永野さん(先日の中野のシンポジウムにも出演)、2回目が世田谷区議の上川あやさん、今回がエスムラルダさんでした。
 女性弁護士をイメージしたというスーツ姿で登場したエスムラルダさん。このたび、ポット出版より、渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ承認についての本を出すことになったそうで(社長の沢辺さんの「その方が面白いんじゃない?」という意向で、エスムラルダという名前で出るそうです)、渋谷区と世田谷区の違いとか、そういう話から始まりました。世間では同性婚と言われたりするが、そうではなく、区としてLGBTを支援していけるきっかけのようなものだ、とか、世田谷では、なにしろ区民からLGBTに関する相談や意見が寄せられたことがないので、当事者を集めるところから始まった、とか、上川さんは本当にスゴい政治家だよね、といった話が展開されました。
『8』の原告のカップルは、非の打ち所がない完璧なカップルが選ばれているそうですが、エスムラルダさんは「私は無理…。そもそもパートナーがいないし。でもまだ希望は捨ててません(笑)」とコメント。「そのうち男でも女でもいいから結婚しなさいと言われる時代が来るかもね」とも。
 対する関根さんは、アセクシュアルの方や、一人で生きたい人もいる(以前行われたLGBTの老後について考えるイベントで「孤独死くらいさせてよ」という声があったそうです)ということを挙げて、「”人は特定のパートナーがいてこそ幸せ”っていうのは、固定観念(生き方の押しつけ)かもしれないね」ということを語っていて、印象的でした。
 30分のあっという間のトークでしたが、たくさん笑わせていただき、楽しく、明るい気持ちで劇場を後にすることができました。とても有意義な時間でした。今後、世間的にも同性パートナーシップのことがどんどん注目されていくでしょうから、またどこかで『8』や『Friend, Friends』が上演されたらいいなと思います。