REVIEW
舞台『カムアウト 2016←→1989』
1989年、まだ世間では同性愛者が変態だとか異常だと認識されていた、カムアウトという言葉も知られていなかった時代に、真正面からレズビアンを取り上げた熱い芝居が上演されました…あれから27年の時を経て、伝説の作品『カムアウト』が再演されることになりました。驚きと衝撃と、感動の舞台を、歴史的な瞬間を、ぜひ、目撃してください。
「本作は、共同生活を送るレズビアンたちの小さなコミュニティを舞台に、時には社会や家族との関わりの中で様々な壁に直面し抑圧を受けながらも、自身の性や生き方と向き合い、またお互いの違いを認め受け入れ合いながら、しなやかにたくましく生きる彼女たちの姿を描いた作品です。
渋谷区や世田谷区による同性パートナーシップ証明が始まった昨今、多くのメディアでLGBTという言葉を目にする機会が増えました。ジェンダーやセクシャリティに関する話題は多くの人々の関心を集め、急速な広がりを見せ、理解も深まりつつあるように感じられます。しかしその一方で、当事者以外にとっては身近な問題としてイメージしにくく、無意識の偏見も多くあり、差別的意識が根強く存在することも否定できません。この問題が、「人間とは何か」というより普遍的なテーマを内包しているからです。
1989年に『カムアウト』で描かれた彼女たちが生きた世界は、いまの私たちの目にどのように映るのでしょうか。27年前に描かれた彼女たちのコミュニティを、2016年に生きる私たちが再構築し、いまだからこそ描ける“現代のカムアウト”をお見せいたします」
(「燐光群」作・演出 坂手洋二氏のコメントより)
1989年といえば、90年代ゲイブーム以前、カムアウトという言葉も知られていない時代です。世間のほとんどの人たちが同性愛者を変態だとか異常者だと思っていた時代(広辞苑にも同性愛は「異常性欲」と書かれていました)に、共同生活を送るレズビアンたちのコミュニティを描いた作品が上演されていたことに驚き、知らなかったことを恥ずかしいと思うと同時に、これは観ておかなければいけないという使命感に燃えて、初日のプレビュー公演を観てきました。
<あらすじ>
舞台は、東京の、とある町(下町?)にある一軒家。サヨは、母が家を出たきり帰って来ず、父も亡くなり、残された家にレズビアンの友人たちを招き入れ、共同生活を始めていた。ある日、タウン情報誌に「女性を愛する女性たちが共同生活を送るコミューンがある」と紹介されたことをきっかけに、切実な思いを抱えたさまざまな人たちがこの家にやって来て、騒動を繰り広げる…
27年前当時の脚本から少しも変えていないそうなので、言葉遣いなどが古かったりする部分はありますが、それでも、問うていることの核心は、少しも古びていません。
そればかりか、ここには、同性愛にまつわるほとんどすべてのこと——性の目覚めや揺らぎ、恋愛とパートナーシップ、異性と結婚する同性愛者のこと、カミングアウト、アイデンティティ、コミュニティ、世間の無理解や暴力、家族との関係、エイズ、そしてなんと、FTMレズビアンのことまで描かれているのです(トランスジェンダーという言葉も知られていなかった時代に)
レズビアンの「コミューン」には、ときどき、「お前たちは何なんだ!」「許せん!」と、鼻息を荒くした男たちが闖入してきます(その混乱や困惑、取り乱した様は、まるで『キャロル』のハージやリチャードのようです)。女性であるとともに同性愛者でもある彼女たちの「コミューン」は、男たちにも、世間にも、国家にも守ってもらえない、気高くも孤立無援な存在です。
笑いもあり、ちょっとビックリするくらい激しい場面もあり、息をもつかせぬ展開で、2時間半(超大作でした)があっという間でした。
劇団員のほかにオーディションで選ばれたという役者さんたちも、素晴らしい方ばかりでした。
この舞台には、レインボーフラッグは出てきません。しかし、実にさりげなく、1箇所だけ、レインボーカラーを配した演出があります(それもまた、涙を誘います)
何よりも感動させられたのは、27年も前に、こんなにもレズビアン/クィアに寄り添い、何も間違っていないという確固とした信念に基づいた熱い芝居を作り上げ、上演していた方たちがいたということです。アライという言い方では足りない…何と言えばよいのか…感謝というか、畏敬の念というか、深く頭が下がる思いがしました。
坂手洋二氏によると、この芝居をつくるきっかけになったのは、原一男・小林佐智子夫妻に誘われて『The Times of Harvey Milk』を観たことだそう。その後、坂手氏は当時のレズビアンコミュニティに取材し、この芝居を書き下ろし、女性の同性愛を正面から取り上げた日本初の作品として、注目を集めたそうです。
日本の同性愛演劇史に燦然と輝く金字塔。ぜひ、その伝説の舞台を目撃してください。
ちなみに、ゲイの劇団フライングステージの「gaku-GAY-kai」でおなじみの(ハデな衣装で第二部の司会をつとめている)宇原智茂さんも出演しています。
フライングステージといえば、座長の関根信一さんが21日(月祝)14時の部のアフタートークに出演します。こちらの回にお出かけされると2倍楽しめるかもしれないですね。(アフタートークのゲストとしては、ほかに「やっぱ愛ダホ!idaho-net.」呼びかけ人代表の遠藤まめたさん、世田谷区議の上川あやさん、世田谷区長の保坂展人さん、それからTokyo SuperStar Awards 2012で特別賞を受賞した渡辺えりさんらも出演します)
燐光群『カムアウト 2016←→1989』
日程:3月19日(土)〜31日(木)
会場:下北沢ザ・スズナリ
料金:前売 一般3800円 ペア7000円 U-25(25歳以下)/大学・専門学校生3000円 高校生以下2000円、当日 4200円、ベンチシート3500円(前売・当日共。U-25、学生割引あり) ※U-25、学生券は前日までにご予約の上、当日受付にて要証明書提示
★アフタートークあり
20日(日)19:00の部 渡辺えり (劇作家・演出家・俳優)
21日(月)14:00の部 関根信一 (劇作家・演出家・俳優・劇団フライングステージ代表)
24日(木)19:00の部 遠藤まめた (「やっぱ愛ダホ!idaho-net.」呼びかけ人代表)
25日(金)19:00の部 中津留章仁 (劇団トラッシュマスターズ主宰・劇作家・演出家)
26日(土)19:00の部 上川あや (東京都世田谷区議会議員)
27日(日)19:00の部 保坂展人 (東京都世田谷区長)
28日(月)19:00の部 西田シャトナー (演出家・折り紙作家・脚本家・俳優)
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜