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ドラマ『トモちゃんとマサさん』

大塚隆史さんと青山吉良さんというアラコキ(古希=70歳)なお二人が、その年代のゲイライフを、リアルに、でも決して悲観的ではない、楽しくパーティライクなテイストで表現したドラマ『トモちゃんとマサさん』がYoutubeにアップされました。

ドラマ『トモちゃんとマサさん』

 大塚隆史さん(70歳)と青山吉良さん(68歳)というアラコキ(古希=70歳)のお二人が、その年代のゲイライフを、リアルに、でも決して悲観的ではない、楽しくパーティライクなテイストで表現したドラマ『トモちゃんとマサさん』がYoutubeにアップされました。
 
 これは、2003年に二丁目の劇場「タイニイアリス」でお二人が、「Dangerous Old Gays(D.O.G.)」旗揚げ公演として上演した『違う太鼓』(これもyoutubeでご覧いただけます)というお芝居のキャラクターであるトモちゃんとマサさんのその後を描いたドラマです。
 『違う太鼓』は劇場でしっかり上演された演劇だったのですが(某有名演出家の方なども観に来られていました)、続編の『トモちゃんとマサさん』は舞台ではなく、Youtube上のドラマ…いわゆるドラマともちょっと違って、静止画にアフレコの声を吹き込んでいる(要はセリフを読んでいる)、以前あった「ボラギノールのCM」みたいなスタイルのドラマです(セリフをきちんと憶えて演技をするのが難しく、このようなスタイルになったそうです)。でも、慣れればそれほど違和感もありません。ストレスなくご覧いただけると思います。
 
 全部で5話から成っていて、それぞれ、違うゲストが出演していて、テーマや方向性も異なっています。オムニバス的な感じです。ゲイならではのネタ(オスカー・ワイルドとか)もちょいちょい出てきますが、特に難しい話もしていませんし、どなたでも気軽に観て楽しめると思います。
 
 例えば、第1話『ヒプノスの傾斜』のあらすじは、こんな感じです。
 
お葬式から帰ってきたトモちゃんとマサさん。マサさんは部屋の鍵を無くしてしまい、トモちゃんの部屋に泊まらせてもらうことにしたのですが、玄関で、お清めの塩をめぐって喧嘩が始まります。夜になると、亡くなったお友達のシゲ坊さんが枕元に立ち、というか、生首…ではなくセラフィム(顔から羽が生えてるような天使)のような状態で現れ、何かを必死に伝えようと口をパクパクさせるのですが、なんと言おうとしているのかよくわからず…
 
 第2話『エロスの傾斜』では、エロスと謳っているだけあって、ホスト(ウリ専)の人が登場します。個人的には、この第2話がとても好きでした。ボーイさんがイカニモなジャニ系では全くない、若くもないし、イケメンでもない、でも、とても人好きのする、魅力的なキャラクターなのです。たぶん誰しも、ドラマや映画や演劇を観ていて、演じている役者さん(のキャラクター)があまりに素敵すぎて恋してしまうことってあると思うんですが、彼がまさに、そういう人だと思います(個人の感想です)。そして、初めてボーイさんを迎えるトモちゃんの、乙女のようなリアクションも、いじらしくて、素敵でした。本当に心温まる、泣けちゃうような、いい話でした。ハスラー・アキラさんの『売男日記』を彷彿させるものがあります。ゲストで(しかもウリ専役ではない役で)ハスラー・アキラさんが出演していたのは偶然ではなく、きっとオマージュというかリスペクトなんだと思います。 
 第3話『タナトスの傾斜』は、散骨がモチーフですが、決して暗い感じではなく、「生」を寿ぐ、感動的な前向きさがありました。
(ちなみにここまでのタイトルの、ヒプノス、エロス、タナトスは、皆ギリシア神話の神の名前で、それぞれ眠り、愛、死を司っています)
 第4話は『タコスの傾斜』で、タイトルももはやギリシア神話から離れてギャグになっていますし、ホームパーティの大騒ぎが描かれています。福島光生さんらがゲスト出演しています。
 第5話『蜘蛛女のキスの傾斜』では、関根信一さんが『蜘蛛女のキス』的な感じで出演していて、最終話にふさわしいゴージャス感を醸し出しています。

 トモちゃんとマサさんは、いわゆるカップルではないのですが、よく一緒に過ごし、何でも言い合える気のおけない関係で、お互いに部屋の合鍵も持っていて、実質的にパートナーみたいな、漫才の「アイカタ」みたいな、そういう関係です。老後のゲイライフってほとんどの方は未体験ゾーンで、生活していけるのかな、とか、孤独死はいやだな、とか、漠然とした不安、みたいな感じだと思うのですが、トモちゃんとマサさんのドタバタで楽しそうな日常を観ていると(その中にはたくさんの「死」が描かれているのですが、全くと言っていいほど悲壮感がないです)、希望が持てると思います。たぶん(老後に限らず、ですが)人生においていちばん大切なのは、こういう「アイカタ」みたいな人なんじゃないかな、と思わせます。
 
 オープニング映像が凝ってます。エンディングは喪服を着た中年のゲイの方たちが楽しそうにマイムマイムを踊っている映像なのですが(皆さんきっと『タックスノット』のお客さんだと思います)、これはこのドラマの通奏低音といいますか、作品を貫くコアの部分(テーマ)を象徴しているような映像です。素晴らしいです。
 数分に1回、箸休め的に、ドラマとは全く関係のない映像が挿入されるのも面白いです。

 ハフィントンポストの「死を思いながら、マイムマイムを踊ろう」70歳のゲイが提案する老後の生き方という記事で、大塚隆史さんがこのドラマに込めた思いが、いい感じにうまくまとめられています。
「自分のマイノリティ性と関係があるかもしれないけど、何かメインストリームじゃないものに共感することが多いんです。それに加えて世の中に『ゲイ的に表現されたもの』が少なすぎると思うと自分で作りたくなってしまいます」
「世の中のメインストリームには迎合はしないぞと。それでこそ我らの文化があるという意識がアートにも表れていると思います」
「もともと僕も"あたりまえ"とされる世界に近づきたいというか、そのための平等な権利が欲しいと思っていました。でも、そのためにこっちの文化を捨てちゃうの?と。現在の(LGBTをめぐる社会の)状況に、実はアンビバレントな気持ちもあるんです」
といった言葉には、激しく同意、でした。
 70年代からカミングアウトしてゲイのこと(ゲイカルチャーや権利について)を世の中に発信し、90年代には「ゲイの贈り物」「ゲイのおもちゃ箱」「ゲイの学園天国」という別冊宝島のゲイ三部作を(『バディ』創刊以前に)世の中に発信し、何度となく個展を開催したり、様々な形で表現活動を続けてきた大塚隆史さん。それだけでも十分、レジェンド的な存在ですし、LGBTの世界に勲章があったら真っ先に授与される方だと思いますが、齢70になって、まだ現役で、このようにパワフルで素晴らしい作品を世に送り出したということにも、驚きと敬意の念を禁じえません。心から拍手を贈ります。
 
 それでは、ドラマ『トモちゃんとマサさん』をご覧ください。



















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