COLUMN
2024年6月のHIV検査キャンペーン
6月1日〜7日はHIV検査普及週間。各地の自治体やコミュニティでHIV検査や予防啓発、陽性者支援などの取組みが展開されます。梅毒の流行も続くなか、定期的に検査を受けることの重要性も高まっています
(NLGR+2024のCBO合同ブース。東京や浜松、大阪、沖縄などでHIV予防啓発活動に携わっているみなさん)
12月1日の世界エイズデーの時期はHIVに関する様々なキャンペーンが展開されますが、6月1日〜7日もHIV検査普及週間で(東京都は6月1日〜30日が東京都HIV検査・相談月間)各地の自治体でHIV検査などの取組みが展開されています。昨今、HIV感染は減少傾向にありますが、梅毒は過去最多ペースで広がっており、定期的に検査を受けることの重要性が高まっています。この機会にHIVや梅毒などの検査を受けることで、ご自身の(そしてコミュニティの)セクシュアルヘルスを良好に保つことにつながります。6月に実施されるキャンペーンをまとめてご紹介します。
(文:後藤純一)
HIVと梅毒
今年の上半期のHIV/エイズや梅毒についてのトピックを振り返ります。
3月に昨年の新規HIV感染は960名で過去最少だった2022年より微増というニュースをお伝えしました。数を昨年と比較すると、同性間性的接触による新規HIV感染が39名増、エイズ患者が36名増となっていて、昨年から増えた分がほぼほぼ同性間性的接触によるものであるということがわかります。その理由については専門家の意見を待たなければなりませんが、(過去最少だった過去最少だった2022年がPrEPの効果だと指摘されていることに鑑みると)PrEPの普及の伸び悩みが原因ではないかと見ることもできるのではないでしょうか。
昨年12月には劇団俳優座の『閻魔の王宮』(ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞しています)が、今年2月には『インヘリタンス-継承-』という素晴らしい舞台作品が上演され、文化面でHIV/エイズへの世間の理解を後押しするような動きがありました。
2月にはギリアド・サイエンシズがツルバダの予防投与(PrEP)としての承認を厚労省に申請しました。薬事承認されると、これまでいわばアンダーグラウンドな状態に置かれていたPrEPが、晴れて公的に認められた予防法として堂々と利用できるようになります。しかし、厚労省は予防投与については公的医療保険を適用しない方針で、ツルバダが予防投与(PrEP)として承認(適応追加)されたとしても、保険適用の対象にはならず、とても高額になるのではないかと見られています。国立国際医療研究センター(東京)エイズ治療・研究開発センターの水島大輔治療開発室長は「承認されれば、医師らが予防法として情報提供しやすくなる。感染リスクが高い人が確実に服用するには、公費助成の仕組みも必要だ」と話しています。国がこの問題を理解し、海外並みにPrEPが普及するような体制を整え、2030年までのHIV流行の終結が実現するよう取り組んでいただきたいと願うものです。
一方、つい数日前にはHIV感染の受刑者が治療中断でエイズを発症、大阪弁護士会が適切な情報の引き継ぎを大阪府警に要望という残念なニュースがありました。警察や刑務所で働く人たちへのHIV/エイズに関する知識の周知・啓発も大切でしょうが、それだけでなく、国がもっとドラスティックに(決して恐怖を煽ったり「撲滅」とか言ったりしないようにしながら)人々にHIV/エイズのことを知ってもらえるような、情報をアップデートし、意識を高め、身近に感じてもらえるような施策を打ち出すことが望まれるのではないでしょうか。「2030年までのHIV流行の終結」という目標を実現するためにも。
梅毒の感染も過去最多ペースで広がっています。国立感染症研究所によると、昨年は1万4906人(速報値)が梅毒と診断され、3年連続で過去最多を更新しました。梅毒については、一昨年、aktaで素晴らしい展覧会も行なわれ、決して侮れない病気であることを実感した方もいらしたと思います。梅毒は性器どうしの接触、皮膚や粘膜の接触、ケツ舐め、(唇に傷があれば)キスやフェラでも感染しますし、一度治っても何度でも感染しますし、感染力が強く、また、「偽装の達人」と呼ばれるくらい、症状を見逃しやすい病気です。つまり、セックスをしている限り(よほどバニラじゃない限り)誰でも感染してしまう可能性があるのに、感染に気づかないことも多いという厄介な病気です。以前もお伝えした通り、梅毒に感染しているとHIVにもかかりやすくなります。みんなで定期的に検査を受けて、感染がわかったらすぐ治療する、というふうにしていくことが大切です。梅毒の基本的な情報についてはぜひaktaの特設サイト「梅毒にご用心」をご覧ください。そして、この機会にぜひ、検査を受けましょう。
エムポックス(サル痘)に関しては、昨年12月に埼玉県の30代男性が死亡というショッキングなニュースがありました。しかし、今年に入ってからは感染が報告されていないので(こちらをご覧ください)、収束を見たと言えそうです。よかったです。
aktaのYouTube番組「夏が来る、今こそ定期的に検査を受けてセックスを楽しもう!」では、基本的に年に1回、セックスの頻度が高い方やPrEPをしている方は3ヵ月に1回、HIV検査を受けるよう、呼びかけられています。
例えば東京都新宿東口検査・相談室では、6月は通常のHIV・梅毒に加え、クラミジア・淋菌の検査をやってくれたりもします。いま特に何か症状があるわけではないとしても、6月に検査を受けると何かといいことがあったりするのです。
HIV検査普及週間
6月1日〜7日は、厚労省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱するHIV検査普及週間です。HIV感染症は予防、早期発見、早期治療が大切だということで、HIV検査の浸透・普及を図ることを目的に2006年に創設されました。
東京都 東京都HIV検査・相談月間
東京都の今年1月1日から5月19日までのHIV新規感染者報告数は84件(昨年は90件)、新規エイズ患者は22件(昨年は23件)、合計106件(113件)でした(東京都エイズ通信第202号より)
東京都は6月1日〜30日を「東京都HIV検査・相談月間」と定め、HIV・梅毒検査の拡充を行なったり(保健所でのHIVや梅毒の即日検査・通常検査の実施日が追加されます)、都庁でHIV/エイズや梅毒に関する情報のパネル展示を行なったりします。今年度のテーマは「UPDATE HIV! 小さな行動 大きな未来」です。詳細はこちらのページをご覧ください。
なお、これまでずっと都民のみなさんにHIV検査についての情報をお届けしたきた「東京都HIV検査情報Web」がこの6月からリニューアルします。以下のバナーよりリニューアルされたサイトをご覧ください(※5月31日までは旧サイトで、6月1日から切り替わります)
全国各地のトピック
名古屋では5月25・26日にNLGR+2024が開催され、たくさんの方たちがアンケートに答えたり、郵送検査キットを受け取ったりして、一足先に大規模な検査キャンペーンが展開されましたが、6月には全国各地でHIV検査の拡充の取組みが実施されたりします。そうしたトピックを地域別にご紹介します。
◎札幌
レッドリボンさっぽろが昨年に続き、6月15日(土)にHIV陽性者交流会inHOKKAIDOを開催します(6月だけでなく、隔月で開催しているそうです)。この交流会は、同じ陽性者の人と会って話してみたい、地元で陽性者が集まって話ができる場を、という声を受けて昨年から実現したものです。参加者はもちろん、交流会のスタッフも全員HIV陽性者です。プライバシーを守れるよう、事前申込制で行ない、会場は参加者のみにお伝えします。
HIV陽性者交流会inHOKKAIDO
日時:6月17日(土)14:00~16:30 (開場は30分前) ※偶数月第3土曜に開催
会場:参加者にのみ開催の一週間前を目途に通知します
ご参加いただける方:HIV陽性者であれば、性別・セクシュアリティ・感染経路・居住地問わず、どなたでもご参加いただけます
定員:最小3名~最大12名 ※参加者数が定員に満たない場合は中止となります
参加料:500円(会場費・お茶菓子代として)
参加方法:こちらのフォームからお申し込みください
◎仙台
仙台のHIV予防啓発団体「やろっこ」が推していた6月の仙台市HIV検査は、申込みがとても多く、すでに満席になったそうです。キャンセルが出た場合は、その数だけ追加で予約可能になりますので、予約できなかった方は、こまめに電子申請をチェックしてみてください。
仙台市内の泌尿器科・産婦人科等で6月1日〜来年3月31日、定額(1,000円)でHIV・梅毒検査が受けられるキャンペーンを実施します。詳しくは仙台市ホームページでご確認ください。
◎東京
6月は以下のように二丁目と上野でHIV・梅毒のワンコイン検査会が実施されます(結果は即日わかります)。二丁目や上野で遊ぶついでにぜひ!
HIV・梅毒即日検査会@新宿二丁目&上野
6月8日(土)受付19:00-21:00
会場:PRIVATE STUDIO GATT(台東区上野3-14-12 UENO BLDG.401)
6月9日(日)受付19:00-21:00
会場:パートナー共済(新宿2-15-1秋場ビル601)
6月12日(水)受付18:30-20:30
会場:コミュニティセンターakta(新宿2-15-13 第2中江ビル301)
6月5日、新宿区保健所で即日HIV・梅毒検査会が実施されます。各日、ぷれいす東京のスタッフが常駐するそうです。
HIV・性感染症検査(即日検査)
日時:2024年6月5日(水)13:30-15:00
会場:新宿区保健所(新宿区西新宿7-5-8 新宿都税事務所1階)
電話で予約が必要:保健予防課(03-5273-3859)
◎横浜
神奈川県のLGBTQ支援団体「SHIP」では、毎月ゲイ・バイセクシュアル男性向けのHIV検査会を実施しています。6月は17日(月)に実施します。HIVだけでなく梅毒とB型肝炎も検査できます。
SHIP ゲイのためのHIV検査
日時:2023年6月17日(月)17:40-20:00
会場:かながわ県民センター 709
検査項目:HIV、梅毒、B型肝炎
◎名古屋
名古屋地域、豊橋地域、岐阜地域のゲイフレンドリーなクリニックで、HIVと梅毒の検査が1コインで受けられるようになります。
たわだ泌尿器科(名古屋市)
いむれ内科クリニック(豊橋市)※要電話予約
操健康クリニック(岐阜市)
日程:5月31日~8月3日
費用:500円(HIV・梅毒) ※他の感染症は全額自己負担となります
各クリニック先着50名
受付に画像提示でOK
◎大阪
大阪府は、6月1日〜7日のHIV検査普及週間に合わせて特設サイトを設け、検査・相談を受けられる場所の情報を紹介したり、啓発動画を載せたりしています。HIV・梅毒検査は保健所以外でも受けることができます。chotCAST(大阪市中央区)では土日・夜間にも検査をしているそうです(匿名・無料・要予約)
◎松山
松山市保健所では今年も6月2日(日)にゲイ・バイセクシュアル男性向けの検査会を開催するそうです。
ゲイ・バイ男性限定HIV検査会
日時:6月2日(日)16:00-17:30
会場:松山市保健所(松山市萱町6-30-5)
検査項目:HIV・梅毒・B型C型肝炎
無料、匿名、事前の予約が必要(ネット予約はこちらから)
◎福岡
コミュニティセンターhacoの公式サイトでは、HIV検査普及週間の特例検査情報(九州各地の夜間休日検査)の情報をはじめセクシュアルヘルスに関する様々な情報をお届けしています。また、コミュニティペーパー「NEW SEASON」vol.8では「HIVは検査しないと分からない!」という特集をお届けしています。
◎沖縄
沖縄県では『あなたの知識はいつのもの?正しい知識をみんなで持とう』をテーマに、6月1日〜7日に各保健所で無料・匿名によるHIV検査を拡充して実施します。HIV検査以外にも、梅毒やクラミジア等の検査も同時に実施できますので、各保健所までお問い合わせください(詳細はこちら)
検査だけでなく、石垣市では、HIV/エイズに関するパネル展を市役所で実施するそうです(5月31日16時頃~6月7日14時頃を予定)
(なお、下のイラストは、那覇市の保健所の職員さんが描いたんだそう。フレディ・マーキュリーへのオマージュ…素晴らしいですね)
INDEX
- RUSH裁判のこれまでとこれから
- 同性婚訴訟の方たちによる院内集会が大盛況、涙なしには見られない熱い会になりました
- HIV予防施策について、世界の最前線の情報や2020東京大会での可能性について話し合うトークイベントが開催されました
- 社内制度づくりのその先へ−−「work with Pride 2019」に参加して感じたこと
- 2019年9月20日、神宮前交差点に「プライドハウス東京2019」がオープンしました
- 日本におけるPrEPの現状と、今後への期待
- LGBTと企業(3) 着実に企業のLGBT施策が進んだ2018年
- 『バディ』誌、25年の輝かしい歴史に幕 〜休刊に寄せて〜
- 杉田議員問題(5)TOKYO LOVE PARADE
- トークイベント「RUSHをめぐる最前線」で浮き彫りになった厳罰主義施策の理不尽さ
- 杉田議員問題(4)『新潮45』10月号のこと
- 杉田議員問題(3)この1ヶ月余の動きを振り返って
- 杉田議員問題(2)「日本のストーンウォール」となった抗議集会
- 杉田議員問題について
- レポート:第2回レインボー国会
- レポート:シンポジウム「同性国際カップルの在留資格をめぐって」
- LGBTと企業(2) 2017年、企業のアライ化はどのように進んだか
- チェチェンでゲイが強制収容所に送り込まれ、拷問を受け、命を奪われています
- LGBTと企業(1) 企業がLGBTフレンドリー(アライ)化していく意味
- オーランドのゲイクラブ銃撃事件−−「なぜ犯人はゲイクラブを狙ったのか?」に迫る
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