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ゲイ用語の基礎知識

プログレス・プライド・フラッグ

 LGBTQのインターセクショナルな多様性のシンボルとして世界的に用いられるようになっているのが、この「プログレス・プライド・フラッグ」です。6色のレインボーカラーに加え、シェブロン(「山形袖章」)の部分に白、ピンク、水色のトランスジェンダーカラーと、茶色と黒の人種的マイノリティを表すカラーがあしらわれています。右に向いたシェブロンは、進歩と運動の前進を表現するものです。それから黒にはHIV/エイズで亡くなった人の追悼の意味(やHIV陽性者、HIV/エイズへの偏見)も込められています。

 欧米では近年、レインボーフラッグを進化させた「プログレス・プライド・フラッグ」がよく使われるようになってきています。
 レインボーフラッグ自体も1978年に(前年にハーヴェイ・ミルクが市議に当選したことを受けて)サンフランシスコのゲイコミュニティでデザインされたもので(それまでは、ナチスの同性愛者虐殺を忘れるまじという追悼の意味合いが強いピンクトライアングルなどが使われていました)、最初は8色だったのですが、技術的な理由なので2色削られて6色になって定着し、広く用いられるようになりました。それが今、また少し進化を遂げたのです。
 
 2017年6月8日、ペンシルベニア州フィラデルフィアで、プライド月間キックオフイベントが行われ、市庁舎にレインボーフラッグが掲げられました。しかし、このレインボーフラッグは、世界中で用いられている6色のレインボーフラッグとは少し異なっており、黒と茶色が加えられていました。この黒と茶色が加えられたレインボーフラッグは、市が主宰する"More Color, More Pride”というキャンペーンの一環で、LGBTQコミュニティの中でも有色人種の人々が周縁化され、無視され、意図的に排除されたりしているという事実を訴えるものとして考案されました。「この重要な議論を起こすため、フラッグに黒と茶色を追加することにしました。これは小さな一歩です。でも本当にインクルーシブ(包摂的)なコミュニティになるために、みんなで大きな一歩を踏み出せると信じています」(”More Color, More Pride”キャンペーン公式サイトより)
 フィラデルフィアのゲイサイト「G philly」によると、この新しいフラッグは、ゲイコミュニティにおける長年にわたるレイシズム(人種差別)への抗議として、「Black & Brown Workers Collective」など地元の団体の要請によって作成されました。「G philly」は昨年、白人のゲイバーのオーナーが黒人を侮辱する「Nワード」を何度も使う様子を動画に撮ってリーク、そこからレイシズムへの批判が高まり、市の人権委員会が差別的なビジネスを処罰できるようにする条例が制定されました。
 ところが、この新しいフラッグは全米のLGBTコミュニティにおいて物議を醸します。「レインボーフラッグは性の多様性を表しているのであり、人種ではない」「レインボーフラッグはすでに、すべての人々を含んでいる」「コンセプトとして意味を成さない」「(レインボーフラッグをデザインした)ギルバート・ベイカーへの冒涜だ」といった声が上がりました。
 LGBTQ Nationの「Philadelphia shouldn’t have added black & brown stripes to the rainbow」という記事では「誰もが異議を唱えるような決定によって、一体どんな真にインクルーシブ(包摂的)な運動が機能するというのか。レインボーフラッグは多様性の象徴だ。その鮮やかなストライプは意味を持っているが、それは人種について何かをいうものでは全くない」と批判されました。
 アメリカを代表するLGBTQメディア『Advocate』は、このように反論し、新しいフラッグを支持しました。「80年代のことを知らない人もいるだろう。エイズパニックが頂点だった頃、多くのレインボーフラッグが、亡くなった人への弔意を示して黒い色を持っていたことを。それだけでなく、多くのバリエーションがあった」「トランスジェンダーフラッグやバイセクシュアルフラッグ、ベアープライド、レザープライドもあるし、たぶんユダヤ人で左利きのベアー系の人のためのフラッグだってありえる。もし有色人種の人々が自身のプライドフラッグを欲したら、それを認めなければ。もし、有色人種がよりマイナーなシンボルを欲しているという事実に我慢ならないとしたら、それはあなた自身の問題だ」「注意を引きつけるためにこういったことをせずにいられない人々がいるとしたら、それはある意味、私たちが失敗しているということを示している。何かを見落としている、声に耳を貸してこなかった、サポートしてこなかった…これでは本当のレインボーにはなりえない」

 2018年、ダニエル・クエイサーというデザイナーが、コミュニティ内でのインクルージョンと前進への注目を促すため、フィラデルフィアの人種的多様性を加味したレインボーフラッグにトランス・プライド・フラッグを加え、「プログレス・プライド・フラッグ」をデザインしました。これが口コミで次第に広がり、2020年、Black Trans Lives Matterの盛り上がりとともに急速に欧米のLGBTQコミュニティに浸透したのでした。

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