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ゲイ用語の基礎知識
リプレゼンテーション
Representation=リプレゼンテーションは、造形芸術の文脈ではある事物の「再現」、演劇の文脈では作品の「上演」、政治の文脈では「代表」と訳されますが、人間が世界の経験を通じて生み出すイメージ全般(表象)のことです。ミシェル・フーコーやエドワード・サイードの議論を契機として、リプレゼンテーションが、実際の政治や文化の背後にある権力関係を分析するための概念として認知されるようになりました。(なお、日本語表記が「レプリゼンテーション」となっている記事もありますが、プレゼンテーション(presentation)に、リカバー(recover)やリユース(reuse)のreがついた言葉なので、「リプレゼンテーション」が妥当かと思います)
fuze「攻殻機動隊からセサミストリートまで、海外エンタメのキーワード「レプリゼンテーション(representation)」とは何か」で詳しく述べられていますが、押井守さんの『攻殻機動隊』のハリウッド版リメイク『ゴースト・イン・ザ・シェル』が公開された際、主人公の草薙素子を白人女性が演じたことや、マーベルの『ドクター・ストレンジ』が映画化された際、エンシェント・ワンという超重要キャラクターが白人に置き換えられたことで、アジア人が消去された!と大問題になっています。パキスタン系イギリス人俳優のリズ・アーメッドは、子どものとき、テレビにアジア人が映るたびに「アジア人だよー!」と家族を呼んでいたそうですが、それだけアジア人のリプレゼンテーションが欠如していたということを物語っています。
このように、もともとは、ハリウッド作品に白人しか描かれてこなかった、(『ハリウッド』でもありありと描かれていましたが)黒人が映画に出演するためにはメイドか執事の役で、おどけたり、「無能」に見えるような演技をしなければならない時代があり、今でも申し訳程度にチョイ役で出演することが多い、アジア人となるとさらに登場が少ない、といった人種的な表象の公正さをめぐる問題として「リプレゼンテーション」が叫ばれるようになりました。
フロントロウ「“正しく描かれる”重要さ、多くの俳優が「レプリゼンテーション」を求める【エミー賞】」によると、2020年のエミー賞では、多くの俳優が「リプレゼンテーション」を口にし、そして、マーケティングにおける包括的なリプレゼンテーションのために活動するAIMMによる「See All」プロジェクトの動画が上映されました(2019年、ゲイとして初めてエミー賞で主演男優賞に輝いたビリー・ポーターも出演)。この「See All」は、多様性を描くとしても、それがステレオタイプであっては意味がなく、様々な人物を見て彼らの言葉を聞くこと、当事者以外が考える人物像ではなく、正しく本当の姿を描くことの重要性を伝えるプロジェクトだそうです。
このように、映画やテレビなどのメディアで、人種的マイノリティや性的マイノリティなどの人々が(消されずに)公正に描かれることが「リプレゼンテーション」の意味です。
アカデミー賞が多様性に配慮した作品賞応募資格の新基準を発表というニュースは、まさにリプレゼンテーションの話です。白人・異性愛・健常者・男性に偏らず、社会を構成する人々の多様性を正しく反映させようということです。
『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』をご覧いただけると、トランスジェンダーがメディアにおいていかに異形のモンスターのような存在として扱われてきたかということがよくわかります。
同性愛者についても、『セルロイド・クローゼット』(1981年)という本で、ハリウッド作品において同性愛者がいかに巧妙に隠されてきたか(見る人が見ればわかるような表象で描かれたこと)が詳細に分析され、のちに映画化されています。この本の著者であるオープンリー・ゲイの映画評論家、ヴィット・ルッソは、メディアにおいてLGBTQが公正に扱われるためのモニタリング団体として有名なGLAADの共同創設者です。今はGLAADメディア・アワードを開催するなど、華々しいイメージがあるかもしれませんが、そもそもは、1985年、HIV陽性者のリプレゼンテーションが急務であるという危機意識から結成されたのがGLAADです(なお、ヴィット・ルッソ自身、1990年にエイズで亡くなっています。アメリカのLGBTQコミュニティにおけるレジェンドの一人です)
50人超のトランスジェンダーやゲイのキャストを起用したドラマ『POSE』はLGBTQのリプレゼンテーションにおける金字塔であり、歴史的な作品となりました。
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