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レポート:「Living Together / STAND ALONE」

11月5日、芝浦の「SHIBAURA HOUSE」で、HIV陽性者のリーディングなども盛り込んだマダム ボンジュール・ジャンジさんのパフォーマンス・イベントが開催されました。とてもエモーショナルな、それでいてあたたかく、素晴らしい夜でした。

レポート:「Living Together / STAND ALONE」

2017年11月5日(日)、芝浦の「SHIBAURA HOUSE」で、マダム ボンジュール・ジャンジさんのパフォーマンス・イベント、SHIBAURA HOUSE 2017年度フレンドシップ・プログラム nl/minato_LGBT/ジェンダー/メディア「Living Together / STAND ALONE」が開催されました。ショーに挟まれるかたちでHIV陽性者のリーディングも行われたほか、第二部ではHIV/エイズについてのトークショーも行われました。魂を揺さぶるようなパフォーマンスに触れ、それでいてあたたかく、素晴らしい夜でした。レポートをお届けします。(後藤純一)











 僕は子どもの頃から演劇やミュージカルやダンスやパフォーマンスを観るのが大好きで(それを生き甲斐にしていたと言っても過言ではありません)、何百もの舞台を観てきました。ドラァグクィーンのショーも含めれば、何千となるでしょう。その中には、腹を抱えて笑ってしまうような最高に面白いドラァグクィーンのショーや、舌を巻くような超絶技巧のダンスや歌、激しく感情を揺さぶる芝居、気が狂うんじゃないかと思うくらい凄まじい演技、僕の人生を変えた「S/N」など、本当にいろんな舞台がありました。でも、ジャンジさんほど僕を何度も号泣させてきたパフォーマーは、ほかにはいません。
 ジャンジさんのパフォーマンスを初めて観たのは、今はなき「Delight」での『CAMP』というドラァグクィーンがたくさん出演するクラブイベントでした。1997年か98年だったと思います。マルガリータさんと一緒にレトロでオシャレなダンスをやっていて、わー素敵!と思ってました。次に観たのがたぶん、AIDSケア・プロジェクトが主催する『GRATIA』というクラブイベントで、たぶん2000年頃だったと思います。そこでジャンジさんが見せたショーは、僕らの度肝を抜くものでした。世の中、本当に世知辛くて、理不尽で、みんなつらい思いをしながら、ギリギリで生きている。時には裏切られたり、打ちひしがれたり、倒れてしまったりすることもある。それでも、歯を食いしばって、なんとか立ち上がり、一歩一歩、よろめきながら、また転びそうになりながら、前に向かって歩いていく、そういう、挫折を経験したことのあるすべての人、男でも女でも、ゲイでもノンケでも、HIVを持っていてもいなくても、あらゆる人々の共感を呼ぶだろう感情を、これでもかと、魂の叫びとして、そして限りない未来への信頼として表現したそのショーは、僕だけでなく、袖で見ていたGOGOのMASAさん(伝説の野郎系ゲイバー「BACKDRAFT」のマスター)をも号泣させていました。
 
 ジャンジさんはその後、一緒に「ジューシィー!」という素晴らしいパーティをやっていたメロディアスさんに誘われて、二丁目のコミュニティセンター「akta」のお手伝いをするようになり、いつの間にか「akta」の代表にもなりました。ドラァグクイーンでもあり(あとから知ったのですが、ジャンジさん自身もセクシュアルマイノリティで)、コミュニティの一員として、また、人間的にとても優れた人物として、二丁目のお店にコンドームを配るだけでなく、「Living Together Lounge」や「Living Together のど自慢」などのイベント開催、研究者やお役人や企業の方や陽性者の方やいろんな方々との話し合いなど、複雑で多岐にわたる「akta」の活動を続けてきました。10年以上もの間、誰よりも熱心に、真摯に、辛抱強く、ゲイの性の健康のためにすべてを捧げてきたのです。
 2010年9月、「Living Together Lounge」において、ジャンジさんは、コンテンポラリーダンスだったり、僕らがやるようなドラァグクィーンのリップシンクだったり、様々なショーの合間に、2人のHIV陽性者のリーディングを挟み、そして最後に「世情」をやるという、HIV/エイズのリアリティを伝えながらエモーショナルに陽性者(とその支援者)を勇気づけるような、素晴らしいパフォーマンスを見せました(こちらにレポートを掲載しています)。このパフォーマンスがあまりにも素晴らしかったので、東京都写真美術館で開催されていた「ラヴズ・ボディ―生と性を巡る表現」展で再演され、再び感動を呼びました。

 前置きが長くなりましたが、このパフォーマンス「Living Together/STAND ALONE」が、7年ぶりに、芝浦の「SHIBAURA HOUSE」という場所で再演されました(オランダ大使館のサポートのもと「SHIBAURA HOUSE」が実施する2017年度フレンドシップ・プログラムの一環として開催されたものだそうです)
 実は、2010年にリーディングを行なった陽性者の一人である藤原良次さん(血液製剤でHIVに感染しながら、約20年にわたり被害者を支えていたNPO法人りょうちゃんずの代表の方)が亡くなってしまい、今回は武田飛呂城さん(NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会事務局長)が、長谷川博史さんとともにリーディングをしてくださいました。血友病だった武田さんは、1993年、高校1年の時にお母様からHIV感染を告知されました(まだ「死に至る病」だった時代です)。叔父(伯父?)にあたる方も同様に血液製剤でHIVに感染していたのですが、亡くなってしまい、武田さん自身も入退院を繰り返し、死を覚悟していたところで、奇跡的によく効く新薬にめぐりあい、命を救われた、そこから生と死について考えるようになった、という経験を語ってくれました。
 長谷川さんは、映画『私はワタシ ~over the rainbow~』などでも披露していた詩をリーディング。7年前は普通にステージに立って読んでいたのに、いまは、車椅子で登場し、片脚を使って立ち上がり、義足を手で持って、頑張ってステージに腰掛け…という状態での朗読でした。
 そしてもちろん、ジャンジさんのショーやパフォーマンスも素晴らしかったです。実に多彩な…まさに「七変化」という趣でした。いろんな不満を飲み込みながら歯を食いしばって働いている男たちのやるせなさ、むせび泣きを歌った昭和の名曲(きっとみなさんもご存じだと思います)を男装して生歌で歌ったり(その歌は、個人的な話で恐縮なのですが、学生時代につきあっていた人が、本当に真面目な人で、カミングアウトこそしていないものの、ゲイだからってバカにされたくないという気概で、仕事を人一倍頑張ってると言っていて、営業マンだったのですが、いろんなイヤな思いをしながらもグッと飲み込みながら得意先に頭を下げたりしていて、そんな彼がある時、みゆきの中ではこれがいちばん好きなんよ、と言っていた歌で……ジャンジさんがこれを歌った時点で、泣きそうでした)、もともとトランスジェンダーだったジャンジさんが、某懐かしのアイドルのポップチューンに乗せて、女体に生まれたけど男の心を持つ人が女を演じているとでもいうような、とても複雑で過剰なものを、ある意味コミカルに表現したショー、こちらで門戸さんが絶賛していたコンテンポラリーダンスなどが次々に繰り広げられ、そして、あの名作のイントロが流れた瞬間、再び僕は(もはや条件反射的に)号泣モードに突入していました…。最後はキラキラで未来的なエンディングで締めくくられ、第一部が終了しました。
 
 第二部は、東京大学名誉教授で国立研究開発法人日本医療研究開発機構戦略推進部長の岩本愛吉さん(毎年、HIV新規感染者数の報告のニュースにコメントしている、日本のHIV予防の世界のいちばん偉い方。でも、全然偉そうじゃなくて、上野浅草辺りでものすごくモテそうな、キュートな方です)、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんを迎えたトークショーでした。司会はぷれいす東京の生島さんでした。どんなお話だったか、抜粋してお伝えすると、岩本さんはまず、ゲイコミュニティとのかかわりについて、2005年に神戸で開催されたアジア・太平洋地域エイズ国際会議のクラブパーティでドラァグのパフォーマンスが素晴らしいと思い、日本エイズ学会でジャンジさんにお願いしてドラァグクイーンを呼んだとか、国際エイズ学会があるとゲイの方だらけになるので、二丁目に案内している、といったお話をしてくれました(なんてやわらかい方なんでしょう)。それから、松中さんは、自身のHIV/エイズとのかかわりについて語り、2010年、友人に連れられて行ったTOKYO FM × LIVING TOGETHER ポエトリーリーディング「Think About AIDS」で衝撃を受け、もともとLGBTの活動がHIV予防啓発活動をベースにしていることなどを学んだりしているうちに、友達が陽性であることをカミングアウトしてくれたということ、「OUT IN JAPAN」写真展の企画で、何人かの陽性者の方に別でメッセージを書いてもらったことなどを語りました。しかし、企業向けのLGBTセミナーなどには現状、HIVのことは入っていない、LGBTへの理解が進んだあとのフェーズで何ができるのか考えていきたいと付け加えました。岩本さんは、日本では性教育で触れられず、メディアも取り上げない、きちんと治療すれば予防になるということをセクシャリティの場面に入れたいとおっしゃっていました。同時に、日本では陽性者の99%がウィルス量検出値以下になっているので、世界的に見ても優秀である、とも。松中さんは、2020東京大会でプライドハウスを設置しようと活動していますが、組織委員会はHIVの話は全くしていないそうで(五輪では選手村にコンドームが大量に置かれるのが普通)、少しずつ戦略的にやっていきたいと語りました。
 
 第一部のジャンジさんのパフォーマンス(ならびにリーディング)は、11月23日(祝)にAiSOTOPE LOUNGEで開催される「ジューシィー!20th Anniversary -Living Together / STAND ALONE-」で再演されます。ぜひ、ご覧ください。

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