g-lad xx

FEATURES

レポート:ソウル・ピンクドット+第20回ソウル・クィア・パレード

2000年にスタートしたソウルのパレードが今年でめでたく第20回開催を迎えました。7万人が市内を派手に行進したパレードの盛り上がりと、第20回記念で初開催されたピンクドットの様子をレポートします。一言で言うと「とても楽しかった!」です。

レポート:ソウル・ピンクドット+第20回ソウル・クィア・パレード

 あまり知られてこなかったかもしれませんが、韓国のソウルでは2000年に初めてのパレードが開催され(最初に歩いたのは50人くらいだったそうです。東京や台北と似ていますね)、そこから毎年、途切れることなく、地道にパレードが開催されてきました。途中、2014年にはアンチ派(キリスト教原理主義の団体など)が道路に寝そべってパレードを妨害して著しくパレードが遅れたり、2015年には警察が許可を出さず開催が危ぶまれたり(最終的に過去最大規模で開催されました)、様々な困難に直面してきましたが、2017年には参加者が8万5千人に上り、東アジアのパレードとしては台北に次ぐ規模に成長しました。
 以前はコリアン・クィア・カルチャー・フェスティバル(KQCF)という名称で、現在はソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル(SQCF)となっていますが(ソウル以外でも釜山や大邱などでも開催されるようになったため?)、パレードだけでなく、クラブパーティ、映画祭、シンポジウムなどの総合的なプライドイベントとして、数週間にわたって開催されています。
 今年、めでたく第20回を迎えるにあたり、SQCFは「The 20th Leap for Equality(20回目の跳躍、平等への挑戦!)」をテーマに掲げ、パレード前夜に「ピンクドット」を初開催することにしました。
 そうして2019年5月31日(金)夜に、パレード会場と同じソウル市庁前広場で「ピンクドット」が行われ、約8000人がピンクのライトを照らしてイベントを楽しみました。
 そして、プライド月間がスタートした6月1日(土)、第20回ソウル・クィア・パレードが盛大に開催され、8万人が会場に集まり、7万人が市内を派手に行進し、クィア(セクシュアルマイノリティ、LGBTQ+)のパワーを世間にアピールしたのです。
 この華やかな2daysのレポートをお届けします。(後藤純一)


初開催のソウル・ピンクドット

 2019年5月31日(金)、ソウル市庁前広場で「ソウル・ピンクドット」が開催されました。「ピンクドット」の開催は韓国で初めてです。

 改めてお伝えすると、パレードが禁止されているシンガポールで始まった「ピンクドット」は、LGBTやその家族・友人たちがピンクの服を着て広場に集まり、ピクニックを楽しみながら、LGBTが少しでも生きやすくなるようにと願い、社会にアピールするイベントです。日本でも「ピンクドット沖縄」が那覇市で行われています(今年は9月1日(日)です)。韓国では今回が初めてです。(なお、ピンクドットという名称は、シンガポールのシンボル「レッド・ドット」(地図上の赤い点であるところから)をもじってつけられたものです。イベントでは、上空から広場を撮影し、ピンク色の集合写真をアップするのが恒例になっています)
 
 というわけで、レポートをお届けしていきます。
 5月31日(金)、晴れ。18:00過ぎにソウル市庁前広場に着きました。
 周囲が柵で覆われていて、南西の角の一角だけが出入り口になっていたのですが、それは、アンチ派の人たちが妨害目的で乱入するようなことを避けるためでした(出入り口に係の人が立っていて、アンチだと思われる人に質問して、中に入れないようにしていました)。中に入れないとわかっていても、広場横の路上には、トラックを乗りつけて、太鼓を叩いたり、呪いのような変な歌を歌ったりする人たちがいて、ずっと音を立てていました(あまり気にならなかったですけど)
 広場の中は、いたって平和で、団体やサークルのブースに人々が立ち寄ってグッズを買ったりしていました。芝生になっているのがいいなあと思いました。疲れたら座って足をのばしたり、寝そべることもできます。
 巨大なモニターや大量のスピーカーが設置された本格的なステージでは、19:00から催しが始まりました。
 トップバッターは「虹音楽隊」という小さなオーケストラ。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」などを演奏してくれました。
 司会のガン・ミョンジンさん&ハン・チェユンさんがご挨拶し、クィアのシンガーソングライターが歌いました。それから、ソウルで活躍するHurricane Kimchiさん、Azangmanさん、Lynx Ladyさん、Hoso Hailey Sodomiteさんのは4人のドラァグ・アーティストによる素敵なパフォーマンスが繰り広げられました(李香蘭の「夜来香」にのって踊るショウは、懐かしいというか、二丁目と同じノリだなぁと思いました)
 ノンバイナリー(Xジェンダー)のアーティスト・ユニット、Pinakaによるアバンギャルドなショウも素敵でした。
 アメリカ、カナダ、メキシコ(今回初だそう)、オーストラリア、ニュージーランド、欧州の全部で11ヵ国の大使が登壇し、「多様性と平等を祝福します」などとスピーチしました(6月3日には、英国・米国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・欧州連合(EU)代表部の大使6人が共同でSQCFを支持する声明を発表しています。詳しくはこちら
 包括的差別禁止法を求めてLGBT団体・女性団体・労働者団体・障害者団体の人が共同でスピーチする場面もありました(言葉はわからないですが、その演出のためだけに、ステージ前に小さな4つのお立ち台が設置されていて、力が入っているなぁと感じました)
 最後には、みんなでピンクのペンライトを点灯して上空から記念撮影したあと、出演者みんなで「Born this way」でパフォーマンスしたり、参加者もステージ前に集まってクラブのような感じで盛り上がり、金色の紙吹雪が噴射され、華やかなフィナーレとなりました。










 
★ソウル・ピンクドットのフォトアルバムはこちら
 


7万人が盛大にパレード!

 6月1日(土)、第20回の記念すべきソウル・クィア・パレードが、ソウル市庁前広場で盛大に開催されました。
 前夜よりもさらに、アンチの人たちが増えていましたが、広場に入るとさほど気になりませんでした。



 
 11:00に広場がオープンし、ステージイベントが14:00に始まりました。
 LetzRatzというクィアなエレクトロ・ポップ・ユニットの演奏で幕を開け、アナと白雪姫のコスプレの司会の方が登場し、いろんな団体の方のご挨拶があり、20年のヒストリーを映像とともに振り返るコーナーがあり、『グレイテスト・ショーマン』をフィーチャーした感動的なショータイムがあり、広場の中央に大きなレインボーフラッグを広げるセレモニーがあり、ドラァグクイーンやいろんな方の「クイーン・トリビュート」なショータイムがあり、バンドの演奏があり…という感じの、2時間くらいのステージでした。





 気づけば16:00を過ぎていて、公園にはいつの間にかものすごくたくさんの人々が詰めかけていました。
 パレードの出発は、フェンスで囲まれた広場の唯一の出入口である南西のゲートではなく、フロートが広場の東側で待機していて、時間になったら南東の一角が開放され、フロートと歩く人が一緒に出発するということでした(何万人もが密集する中を掻き分けてそこまで向かうのが大変でした)
 出発地点付近でアンチの人たちが盛んに叫んだり変な歌を歌ったりしていたのですが、その人たちを背に、真っ白な衣装のドラァグクイーンが翼のように手を広げるポーズで佇んだり(孤高の美しさ…素敵でした)、パレードを歩く人たちもアンチ派が「同性愛は罪だ」と叫ぶのを「同性愛は愛だ(たぶん)」みたいに言い換えて叫んだり、少しもめげずに明るく力強い姿勢を見せていたのが、印象的でした。
 警官の方たちがたくさんいて(味方です。守ってくれています)、フロートと人の流れをコントロールしていたのですが、たぶん手違いで、最初に4つくらいフロート(トラック)が行ってしまってから、ようやく参加者たちのGOサインが出て堰を切ったように走り出す…という感じになっていましたが(たぶん先頭の方のフロートは一緒に歩く人がいない状態)、そこからの人の「圧」がスゴくて、次から次に、広場から大通りへと押し出されていって、圧倒されました。
 主催者発表の7万人〜8万人という数字は全く大げさではなく(盛ってないと思います)、台北とそんなに変わらないのでは?と思うくらい、人、人、人…圧倒的な人数でした。





 
 東京と違うなあと思ったのは、自前のプラカードを掲げて歩く人がほとんどおらず、代わりに、大学のサークル名などを書いた旗を高く掲げている方たちがいたり、小さなレインボーフラッグや、会場でもらったうちわを掲げたり、という感じでした。まずは、会場の周囲で太鼓を叩きながら「同性愛は罪だ」と呪いの言葉を叫んでいるアンチ勢力に負けず、大勢で歩き、パワーを見せつけることがメインという印象です。
 4車線5車線ある大通りを完全に占拠して、その道幅いっぱいに(歩道とかにも乗り上げて)、要は横に15〜20人くらい×200〜300mくらい(数千人?)で人々が塊で歩いていて、しかもワーっと盛り上がっているので、熱気というか、うねりのような一体感がスゴかったです。
 大多数の方は、K-POPや洋楽(みんなが知ってるゲイアンセム)に合わせてドラァグクイーンや男の子たちがダンス・ショウを披露するフロート(半分くらいはそういうフロートでした)でいっしょに歌ったり踊ったりしながら、アイドルのライブかゲイナイトかみたいなノリで激しく盛り上がっていました。特に「NEON MILK」というドラァグクイーン集団のフロートが、お揃いのK-POPアイドル(KARAとか)風味な衣装で、次々にK-POPの曲(気になったのでSHAZAMってみたのですが、例えばKARA「マンマミーア!」、Momoland「Bboom Bboom」、GFRIEND「Me Gustas Tu」、HyunA「Red」って感じの流れでした)に合わせてショーを見せてく感じで、みんなノリノリで一緒に歌ったりしてスゴい盛り上がってて、K-POP好きならマストだし、よく知らなくてもドラァグクイーン好きなら絶対楽しめるし、マジ最高なので来年ぜひ体験してください!と思いました。
 ドラァグクイーンだけでなく、「チングサイ」というゲイ団体の男の子たちが頑張って盛り上げようとしてる姿とか、ほかにも大きなフラッグを一生懸命振ってる男の子とかもいて、胸キュンでした。








 
 パレードのコースは、たぶん市の中心部だと思うのですが、ソウル市庁前広場を(南山タワーを遠くに望みながら)南東に進み、新世界百貨店明洞本店前で左折し、南大門路を北上、ロッテ百貨店本店(めっちゃデカい、ゴージャスな建物)を左手に眺めながら、乙支路入口駅交差点を通過し、鍾閣駅で左折、そして光化門広場へと右折し、世宗大王銅像の横を通り、光化門の目の前をぐるりと回って、韓国最大のコンサートホール「世宗文化会館」の前を通って、再び鍾閣駅、乙支路入口駅で曲がってソウル市庁前広場へと帰ってくる約4.5kmのコースでした。
 600年超の歴史を誇り、韓国にとって重要な意味を持つ、たいへんモニュメンタルな光化門の前を初めて通ったことに感慨を覚えた方は多かったようです(個人的には、そんな由緒ある、重々しい雰囲気の光化門エリアを、K-POPでイェイイェイ盛り上がるドラァグクイーン・フロートが通っていく様が、本当に素晴らしいと思いました)










 広場に帰ってきた皆さんは、芝生の上でくつろいだり、ステージ上での伝統的な舞踊やラップのグループの演奏を楽しんだりしていましたが、熱気も冷めやらぬなか、19:00前には散会となりました。
 
★第20回ソウル・クィア・パレードのフォトアルバムはこちら

 

 


韓国のLGBTを取り巻く状況

 今回パレード会場周辺でデモをやっていたようなキリスト教系のアンチの人たちをはじめ、韓国では同性愛を嫌悪する様々な状況があるそうです。
 以前韓国に留学した経験を持ち、ソウルのパレードにも何度も参加している日本人の方に聞いた話ですと、たとえば神学校で同性愛サークルというのがあって、それはいわゆるゲイサークルではなく、同性愛の罪がどれだけ重いか、いかにして同性愛者を治療したりして「救済」するかといったことを学ぶのだそうです。
 今回のイベントでも、会場の入り口付近に立っていたものすごく人のよさそうな若い学生さんが「同性愛の人たちよ、目覚めましょう」的な意味のプラカードを持っていたり(虫も殺さないような若者が、善意でそのようなことをするのが、かえって恐ろしい…)、宗教に基づくホモフォビアの根深さを感じさせました。
 
 軍隊では、たとえ非番で家に帰っている時であっても、同性間の性行為に及ぶと罰せられます。ゲイアプリでおとり捜査も行われ、まるで魔女狩りのようにゲイをあぶりだし、逮捕するという非人道的なことが行われていて、国際社会から非難を浴びています(ソウルでも結構ナイモンやってる方、多いですが、顔をぐるぐる巻きにして隠したり、画像が真っ黒だったりという方もいて、バレないように気をつけてるんだな、と思いました…)
 
 パレードを見ていると、とにかく若い女性(に見える方)が本当に多くて元気があります。20代〜30代前半くらいの男の子はまあまあいるのですが、30代後半以上の方の姿は全くと言っていいほど、見かけませんでした。若い方はオープンになっているけど、この世代の方はカムアウトに抵抗がある、どこで誰が見ているかわからないパレードには参加しづらいのだろうと、韓国事情に詳しい方がおっしゃっていました(ゲイタウンの鍾路(チョンノ)には、そうした年代のイカニモな方もたくさんいました)
 
 iShapというHIV予防啓発のセンターがチョンノにあるのですが(クラブが多いイテウォンにはMtFトランスジェンダー向けのセンターもあるそうです)、韓国では自殺者も多いため、地方で検査イベントをやるときに、自殺予防プログラムも同時にやっているというお話も聞きました。
 日本よりもいろいろ厳しい状況があるんだな…と感じました。

 一方で、HIV予防に関しては、すでにゲイ向けにPrEPの提供を始めている(予防方法として国の認可がすでに降りているが、薬が高くてみんな買えないので、人数や期間は限定になるものの、無償提供している)という話を聞いて、日本より進んでいるなぁと思いました(なお、数日前、PrEPの薬が保険適用になったとのニュースがありました。これで完全に韓国のほうが先を行きました。感染率などは日本よりちょっと高いくらいだそうですが、おそらく今後、日本より少なくなるのではないでしょうか)

 また、『鍾路の奇跡』や『WEEKENDS』という映画をご覧になった方、4月にアジア中のLGBTの合唱団が東京に集まって開催された「Hand in Hand」というコンサートに足を運んだ方などはご存じだと思いますが、「GVoice」というゲイの合唱団(「Hand in Hand」では最高に素晴らしい、笑えて泣ける演奏を披露してくれました)、彼らの活動に象徴されるようなゲイコミュニティのあたたかさ−−僕らがもはや忘れかけているような−−が、一つの希望になっている気がします。
 
 なお、これまで、SQCFに協賛するなど韓国でLGBT支援を表明してきた企業はGoogleやLUSHなどの外資系企業だけでしたが、今年初めて、韓国を代表するビール「CASS」で知られるOBビール社が、CASSをレインボーカラーにデザインしたビジュアルとともに「今年で20回、堂々として自信に満ちたあなたのカラーを応援します!」とのメッセージを発表したことが、話題になっていました。

INDEX

SCHEDULE