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レポート:装いの力ー異性装の日本史

渋谷区立松濤美術館で開催される『装いの力ー異性装の日本史』展。ヤマトタケルの伝説から歌舞伎や漫画、現代のドラァグクイーンまで、いかに日本人が異性装に特別な力を見出し、崇めてきたかということが本当によくわかる、素晴らしい展覧会です。『DIAMONDS ARE FOREVER』のお部屋やフォトブースにはCAMPな演出が満載で、とても楽しいです。ぜひご覧ください。

レポート:装いの力ー異性装の日本史

 9月2日(金)午後、小糠雨そぼ降るなか、渋谷区松濤の高級住宅街のなかにある渋谷区立松濤美術館に、約30年ぶりに出かけました(デートで一度だけ行ったことが。英国のタペストリーか何かの展示だったと記憶しています。社会人1年目で貧乏だった私にとって、そこはあまりにも瀟洒で高尚で格調高い場所でした)。そんな松濤美術館で「装いの力ー異性装の日本史」という異性装をテーマにした、ドラァグクイーン関連の展示があるような展覧会が開催されるということは、私にとって「事件」でした。
 「装いの力ー異性装の日本史」は9月3日(土)から開幕するのですが、その前日、招待客だけの内覧会が開催され、(おそらく)美術関係の方や、ゲイやトランスジェンダーの方などが大勢詰めかけていました。入り口では『DIAMONDS ARE FOREVER』のシモーヌ深雪さん、D.K.ウラヂさん、フランソワ・アルデンテさん、アフリーダさんらがドラァグクイーン姿でお出迎えし、お客さんと一緒に写真を撮ったりなどのおもてなしをしていました。


 展示会場は大きく2つに分かれていて、地下1階が古代から近世までの展示です。
 三橋順子先生の『女装と日本人』という本を読んでいて、ヤマトタケルが女装して宴会に忍び込み、敵であるクマソを討ったという古事記の有名な伝説から、古代の神官は異性装をしていたという話、稚児や白拍子、喝食、陰間など女装した美少年、歌舞伎の女形、そして現代のオネエタレントやドラァグクイーンに至るまで、日本には連綿と続く女装の伝統があったということが綴られていて、女装については結構知ってるつもりだったのですが、今回の展覧会で、実は男装した女性もたくさんいたということや(あの出雲阿国も男装していて、三太郎が女装し、人気を博したんだそう…歌舞伎の原点には異性装があったんですね)、江戸時代には身分の高い人たちの異性装には寛容だったけどそうではない人(女性など)には厳しかったということなど、知らないこともいろいろあって、興味深かったですし、とても勉強になりました。実際に稚児が着ていた振袖なども展示されていましたし、浮世絵や絵巻物などもたくさんありました。
 
 2階が近代以降の展示です。
 エレベーターで2階に上がると、目の前にシモーヌさん、ウラヂさん、ブブさんのパネルがバーンとあって、素敵なフォトブースになっていました(なお、ここ以外は全館撮影禁止です)。ふつうに撮ると美しいドラァグクイーンとの記念写真になるのですが、フラッシュを焚いて撮ると、全く違う表情が浮かび上がるという遊び心あふれる(CAMPな)仕掛けになっていて、素晴らしかったです(私はiPhoneのフラッシュの焚き方がわからず断念…ダサすぎ…)
 展示会場は、地下1階とは異なり、映像が流れたり、漫画が展示されたり、『DIAMONDS ARE FOREVER』のお部屋があったりする、とてもポップで現代的な雰囲気でした。明治時代の初期の、異性装者を描いた錦絵の解説で、当時、異性装を罰する法令があって、お花見で女装してた人が逮捕されたという記録が残っていることを知り、ちょっと衝撃を受けました(日本にも「女装罪」があったなんて! それでも女装をやめなかった先人の勇気に敬意を表します)。それから、手塚先生の『リボンの騎士』、『ベルサイユのばら』、『ストップ!! ひばりくん!』の原画(いずれも本当に価値が高いと思われます。漫画ファンの方は必見です)、大野一雄さんの写真や、森村泰昌さんの写真、そして同じフロアに『風俗奇譚』や「クイーン』や『ひまわり』の女装写真も展示されていたりして、本当に素敵でした。
 さらに、奥まったところの『DIAMONDS ARE FOREVER』のお部屋は、予告されていたロイヤルウィッグが中央に鎮座ましまし、ドラァグクイーンの写真やヒールやウィッグや衣装やパーティのフライヤーなどが華やかにポップに展示されたひときわ異彩を放つ空間になっていました。『S/N』の記録映像や『ダイヤモンド・アワー』が流れていたのも素晴らしく、また、古橋悌二(ミス・グローリアス)さんが最後に使っていたつけまつげなども展示されていたのも胸熱でした(しかし、その隣に、悌二さんがコンタクトをつけたら角膜が剥がれたという時のコンタクトとか、ウラヂさんの直腸から出てきたチークブラシ…といった「作品」なども並んでいて、どこまで本当なのだろうかと、虚構と現実の間を楽しむドラァグクイーンらしいCAMPな表現なのかな、と思ったり)。この部屋に流れるオリジナルテーマ曲は『DIAMONDS ARE FOREVER』のDJ LALAさんとkorさんが書き下ろしで作ったそうです(QRコードからダウンロードできます。試聴は無料です)
 ちなみに1階のロビーでは『DIAMONDS ARE FOREVER』という写真集も販売されていました(ナジャさんやダイアナさんの写真も載ってます)

 決して広くはない会場なのに、こんなにじっくり、しげしげと見入ってしまう展覧会も珍しく(映像も含めたら一日中観てられます)、また、私たちの世界と地続きなドラァグクイーンのカルチャーがこのような瀟洒な美術館に現出していたことも感慨深く、本当に素晴らしい体験でした。展示替えがあるそうなので、また改めて観に行こうと思います。女装(や男装)ってこんなに奥が深かったのか!と思うこと必至です。日本人のDNAに刻まれた「異性装の力」を味わいに、ぜひお出かけください。
 
 会期中、講演会やトークセッション、メイク講座のワークショップなど様々なリアルイベントも展開されます。
 9月17日(土)にはダムタイプ『S/N』記録映像の特別上映が(たいへん貴重です)、10月9日(日)17時〜にはシモーヌ深雪氏×ブブ・ド・ラ・マドレーヌ氏×三橋順子氏によるスペシャル・トークセッション「Drag Queen in Japan ~異性を装うとは何か?  ジェンダーとセクシュアリティの見地から~」が行なわれます。公式サイトからご確認ください。
 
 松濤ってBunkamuraの裏だから渋谷駅から歩けばいいやと思われるかもしれませんが、実は京王井の頭線神泉駅が至近です(北口改札を出て左に行き、目の前の階段を降りずに左手に進むのが吉です)。または、渋谷駅からバスで行くのもよいでしょう(「松濤美術館入口」または「東大前」のバス停です)
 
 

装いの力ー異性装の日本史
会期:2022年9月3日(土)〜10月30日(日) ※会期中、一部展示替えあり
会場:渋谷区立松濤美術館
料金:一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)
※リピーター割引:観覧日翌日以降の本展期間中、有料の入館券の半券と引き換えに、通常料金から2割引きで入館できます
※()内は渋谷区民の入館料
※土・日・祝は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者及び付添の方1名は無料
休館日:月曜日(ただし、9/19及び10/10は開館)、9/20(火)、10/11(火)
開館時間:10:00-18:00(毎週金曜日は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで

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