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中国政府の「聞くな言うな」政策とゲイコミュニティの拡大

2010年08月04日

 ニューズウィーク日本版の「外交エディター24時」というコラムで、中国政府の「聞くな言うな」政策のことが書かれていました。

 アメリカで約20年にわたってゲイを抑圧してきた軍隊の「Don't ask, Don't Tell(聞くな、言うな)」政策。米軍は同性愛者の勤務を禁じており、カミングアウトした瞬間、除隊処分となるのです。現在、この政策がオバマ大統領のお墨付きを得て、ようやく廃止に向けて動き出しています。

 これと似たような政策が中国にもあるというのです。
 それは「3つのノー」と呼ばれる政策で、不支持・不禁止・不促進のことを指します。法律で罰することはないが公に支援することもない(推奨もしない)、というわけです。アメリカの「聞くな言うな」と異なり、「3つのノー」政策は、軍隊に限らず、同性愛者の生活のほぼすべての範囲にわたって適用される指針となっているそうです。

 禁止はしないと言いながら、今年6月、国連経済社会理事会でIGLHRC(アメリカの同性愛団体)に国連で開かれる会議へ出席・発言できる協議資格を認めるかどうかの採決が行われたとき、中国は、中東やアフリカの国と並んで積極的に反対票を投じました。「3つのノー」を掲げている中国がなぜ棄権せずに反対に回ったのかと疑問の声が上がったそうです(トルコを含む5カ国が棄権しています)。(詳しくはこちら

 今年1月には、北京でのミスターゲイコンテスト開催が当局によって中止に追い込まれたというニュースもありました。(詳しくはこちら

 今年の映画祭では、中国のゲイを題材にした『スプリング・フィーバー』が上映されましたが、映画を観た限りでは、まだまだ社会が寛容になったとは言いがたい、という印象を受けました(上映後のトークセッションで主演男優の方たちもそう語っていました)

 US-China Todayの「Homosexuality in China」という記事によると、中国では1997年に同性間の性行為が合法化され(香港では1991年)、2001年に中国精神医学会が同性愛を精神病とみなすことをやめました。その時から、ゲイコミュニティは急速に広がりを見せ、何十ものゲイバーやたまり場が国中にでき、何百ものゲイサイトが立ち上がり、多くのLGBTの団体が設立され、ゲイの権利やHIV予防のキャンペーン、映画祭、パレードなどが組織されてきました(香港を含む話です)
 2009年、中国で初のゲイプライド・フェスティバルが上海で開催されました。演劇、映画上映、シンポジウム、パーティなどが1週間にわたって開催され、数千人を集めました。かつて北京で同様のイベントが計画されましたが、当局の圧力で中止に追い込まれました。上海で人気サイトを運営しているシンガポール人のケネス・タン氏は「そんなことができるなんて誰も思っていなかった」と語ります。「小さなスタートだったが、とてもよかった。このプライドイベントが、カミングアウトすることの意味を教えてくれた」「政府のお膝元から離れた上海だからこそ、実現できた」
 50歳や60歳の男性が、10代の若者が、誰もがカミングアウトしている」と、タン氏は語ります。「ゲイたちは生まれて初めての経験に興奮し、とても活気にあふれている。現代中国史上初めてカミングアウトしているのだから」
 1983年からジェンダーやセクシュアリティ研究を行ってきた南カリフォルニア大学のウォルター・ウィリアムズ教授は「中国は今、60年代の米国とよく似た状況になっている。しかし、このスピードで成長していけば、中国がゲイリベレーションの最前線になるかもしれない」と語っています。
 ウィリアムズ教授は、中国の人口抑制策である一人っ子政策がこの国の急速な寛容化を説明すると言います。「ゲイ&レズビアンは中国にとてもフィットする。子どもを作ろうとしない人たちをなぜ罰するのか、人口政策に則ったモデル的な市民ではないか、というわけだ」
 また、中国は宗教に支配される社会ではなく、世俗的な国家であることも大きい、とウィリアムズ教授は分析します。「いつの時代も大きな文化的な変化があった。同性愛を嫌悪する宗教的背景がないだけに、考え方の進化が許容されやすい」

 中国政府の態度は未だに抑圧的であるものの、ゲイコミュニティは急速に拡大し、社会も寛容になってきている、そんな中国の状況が垣間見えたように思います。(後藤純一)

 

中国ゲイ政策の「聞くな言うな」(ニューズウィーク日本版)
http://www.newsweekjapan.jp/foreignpolicy/2010/07/post-151.php

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