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【追悼】ドナ・サマーよ永遠に

2012年05月19日

 5月17日(現地時間)、「クイーン・オブ・ディスコ」として一世を風靡したドナ・サマーが、フロリダ州でがんによって死去したことが明らかになりました。享年63歳でした。
 1974年、ミュージカル『ヘアー』に出演するために渡ったドイツでデビュー・アルバム『Lady of the Night』を発表したドナ・サマーは、その翌年、母国アメリカで「Love to Love You Baby」(SEXを連想させるあえぎ声を「サンプリング」した革命的なダンス・チューン)を大ヒットさせ、70年代に「Last Dance」や「Hot Stuff」、「I Feel Love」などの大ヒット曲でフロアを盛り上げました。生涯で5つのグラミー賞を受賞し、全世界で1億3000万枚以上のレコードやCDを売り上げました。うつ病に苦しんでいた時期もありましたが、2009年にはオバマ大統領のノーベル平和賞受賞を祝うコンサートで歌うなど、晩年も勢力的に音楽活動を続けていました。

 ドナ・サマーの訃報を受けて、多くのセレブたちが追悼の意を表しています。
 オバマ大統領は17日、「彼女はまさしく『ディスコの女王』だった。彼女の声は忘れがたかった。音楽界は偉大な人物をあまりにも早く失った」との声明を発表しました。
 1979年に「No More Tears(Enough Is Enough)」でデュエットしたバーブラ・ストライザンドは「ドナのことは、本当にショックよ。数ヶ月前に彼女に会ったときは、本当に元気そうだった。ドナとのデュエットは本当に楽しかった。彼女は素晴らしい声をもっていて、才能があった。本当に惜しい人を亡くしたわ…」と語りました。
 その他、プロデューサーだったクインシー・ジョーンズ、ナイル・ロジャース、メアリー・J.ブライジ、シーラ・E、ボーイズIIメン、デュラン・デュラン、カイリー・ミノーグ、グロリア・エステファン、ティンバランド、リアーナ、アダム・ランバートなど、多くのアーティストがその偉大さを讃え、死を悼むコメントをTweetしています。

「I Feel Love」「On The Radio」「No More Tears(Enough Is Enough)」「Love's About To Change My Heart」「Last Dance」…ドナ・サマーが残したゲイにとっての心の名曲(ゲイアンセム)の数々は、未だに輝きを失っていません(詳しくはこちら)。彼女こそは、70年代を代表するゲイ・アイコンと言えるでしょう(ニューヨークの伝説のクラブ「54」では連日ドナ・サマーの曲がヘビープレイされ、彼女のマネをするゲイたちであふれかえっていたと言われています)

 しかし、70年代「ディスコ・クイーン」とゲイたちの蜜月は、80年代に入って終焉を迎えます。1983年のツアーの最中にドナ・サマーが聴衆に向かって「あなたたちの中から邪悪な同性愛が出て来るのを見たわ。エイズはあなたたちの罪よ。誤解しないで、神はあなたたちを愛しています。今のあなたではないあなたを」と発言した、と報じられたのです。このニュースは瞬く間に大きな波紋を呼び、ゲイコミュニティから総スカンを食らい、以後、ゲイクラブでドナ・サマーの曲がかかることはなくなり、チャートのトップに上ることもなくなりました。
 もちろんドナ・サマーは、この報道の直後、否定のコメントを発表しました。
「こんなひどい誤解は信じられない。私はゲイコミュニティから多大なサポートを受けてきたのに。私はクリスチャンとして、すべての人々を愛することしかしてこなかったし、誰かをジャッジするなんてできない。エイズはすべての人々にとっての悲劇よ。一刻も早く治療法が見つかることを祈るわ」
 1989年の『Advocate』誌のインタビューでは、こう語っています。
「私はあんなことは言っていません。あの頃、私はエイズはヘルペスか何かだと思っていました。本当はどんなものか知っていたら、誰もエイズになってほしくないと心底思うでしょう。エイズは最も恐ろしい病気の一つです。私はゲイがそれに値することをしているなどとは思いません。私は多くの友達をエイズで失いました。他の人たちと同様に亡くなった人たちの重さにうちひしがれています。去年は私のファーストアルバムを出してくれた親友たちが亡くなりました。とても素晴らしい人たちでした」 
  1991年の『Gay Times』誌には、問題の発言をしたとされるツアー公演での出来事が検証されています。ドナは、「コンサートが終わったあと、会場に残った500人くらいの観客とお話していたら、ゲイと思われる男性が何人か質問してきて、答えたら、1人が怒り出して、言葉の応酬になったんです。うまく説明できないけど、『エイズは天罰』と言ったのは彼の方なんです。私が言ったんじゃありません」と述べています。Jというゲイの観客はこう証言しています。「エイズにかかった男性がドナ・サマーに祈ってほしいとお願いして、彼女は喜んで応じたんだ。すると、生意気な奴が『そんなのは偽善だ』と言い出して、ドナはどういう意味か問いただして、彼と何度か言葉が交わし、「神はこの世界をとても愛しているから独り子を遣わした」と言ったんだ。そしたら彼が怒り出して…それは彼が原理主義クリスチャンだったからなのか、クリスチャン嫌いなゲイだったからなのかはわからないけど。しばらく言い合いをしているうちにドナもだんだんフラストレーションがたまってきた感じで、手に負えないと思った観客たちは帰り始めた。そんな中で、ドナが「エイズがゲイの間で広まっているのは、無謀な性生活が原因じゃない」と言う場面があり、彼は逆上したんだ。それが真相さ」。Jはこうも語っています。「ドナは間違っていない。今ではHIV感染の原因がSEXだと誰もが知っている。それは『エイズは天罰』ということとは全然違うし、彼女は一度もゲイを非難していないどころか、感染者に祈りを捧げようとしていたんだ」
 
 ドナ・サマーが誤解を受けた背景には、彼女が79年に「ボーンアゲイン・クリスチャン」になったことがあると言われています(born-again Christianとは、何らかの体験によって「生まれ変わり」、新たにキリスト教の信仰に目覚めた人たちのことで、ほぼ原理主義者と同じとみなされます。福音派などのキリスト教原理主義は個人の回心=「born-again体験」を何よりも重視するからです)。「回心」以後、彼女は「Love to Love You Baby」は(破廉恥だから)もう歌わないと宣言し、キリスト教のテレビ番組にもよく出るようになり、そうした姿を見て、彼女が(ゲイの敵である)保守派に転向したという印象が広まっていったのです。

 ドナ・サマーは不幸な天罰発言の誤解を解くためにLGBTプライドイベントに出演してパフォーマンスを披露したり、7つのHIVチャリティにも参加してきました。が、それでも疑いは晴れず、「本当にあんなこと言ったの?」という噂がずっとつきまとってきました(未だに日本でも「ドナ・サマーはゲイ嫌いなんでしょ?」と言われるほどです)
 2008年に『Advocate』誌上でドナ・サマーは「『Love to Love You Baby』はゲイクラブから火がついたの。彼らはあの曲の新しさを本当に賞賛してくれた。クレジットしたいくらいよ」と語っています。彼女にインタビューしたクレイ・ケインというライターは、このように書いています。 
「私が子どもの頃、最初に熱中した音楽がドナ・サマーでした。2008年、彼女にインタビューできたことは本当にうれしかった! そして、きっと耳にタコができるくらい聞かれてきただろう、あの問題発言の真偽の代わりに、彼女がLGBTの権利についてどう考えているかを聞こうと思いました。結果、同性婚についてのコメントは甚だ曖昧なもので、がっかりさせられたけど、その語り口は穏やかで、少しもゲイに対して攻撃的ではありませんでした。私は彼女と話しているうちに、こう気づきました。ドナ・サマーの歌…数々のゲイアンセムは、これまでのホモフォビアの噂やなんかを超えるほど素晴らしいと。彼女は別にLGBTの人権についてのスポークスパーソンではないのです。もちろん、彼女がマドンナやジャネットやバーブラのようにLGBTを勇気づけることを語ってくれたらどんなに素敵だろうと思うけど。でも、ポップスターにそれを強要することはできないのです」


「ドナ・サマーの声、忘れがたい」オバマ大統領声明(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news2/20120518-OYT8T00562.htm

“クイーン・オブ・ディスコ” ドナ・サマーが死去(MTV JAPAN)
http://www.mtvjapan.com/news/music/21094

ドナ・サマーへ、Twitterに載ったセレブたちからの追悼の辞(BARKS)
http://www.barks.jp/news/?id=1000079756

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