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LGBT電話相談に寄せられたアウティング被害件数は110件超 その深刻さが浮き彫りに

2019年04月05日

 セクシュアルマイノリティであることを本人の了解なく暴露され(アウティングを受け)たとして電話相談に寄せられた被害相談の件数が、6年間に110件以上に上っていたことが4月3日、明らかになりました。
 
 一般社団法人社会的包摂サポートセンターは2012年3月、年中無休で無料電話相談を24時間受け付ける「よりそいホットライン」を開設し、セクシュアルマイノリティ向けの専門回線を設け、多くの当事者からの相談に応じてきました。センターによると、アウティング被害の相談は2012年度に31件、15年度は42件、16年度は19件、17年度は18件あったそうです(13、14年度はアウティングの項目で分類しておらず、データがないそうです)。回線数に限度があるため、電話の件数は実際につながった件数の6~24倍になるといい、センターの担当者は「アウティング被害の相談はカウントできている数よりかなり多いと考えられる」と述べているそうです。
 「信頼できる人にカミングアウトしたら勝手に周囲にばらされた」「同性愛者であることを学校の友人に告白したら、『好意を寄せられて気持ち悪い』という話を広められた」などの内容が目立つそうです。信頼する人に告白した結果、周囲に広められ、職場に行けなくなったという深刻なケースもあったそうです。
 
 世の中にはLGBTの相談窓口や電話相談はたくさんありますが、この団体の電話相談に限ってもこれだけの数に上っているわけですから、全部を合わせたら、この何倍もの数になることでしょう。
 これまで、アウティング被害に関する統計データはあまりなく、実態が把握しきれていない実状がありました。しかし今回、具体的な相談件数が明らかになったことで、学校や職場などでも、アウティング被害に悩む当事者の苦境を早急に把握し、対応することが求められる、と言えるようになったのではないでしょうか。
 
 アウティングということが世間で認知されるようになったのは、2015年に起きた一橋大法科大学院のゲイの学生の自殺を受けて翌年、遺族が裁判を起こしてからです。
 明治大学の鈴木賢教授は、この事件に関して「彼が亡くなったのは、彼が同性愛者だからではない。同性愛者を差別し、蔑み、認めない社会があるからだ」と見事に表現していますが、本当にその通りで、世間からLGBTへの差別や偏見、フォビアがなくならない限り、アウティングは問題になり続けます。同性どうしの恋愛が男女の恋愛と全く同等と言えるくらい普通になり、トランスということが出生時の性別と性自認が一致していることと完全に同じくらい当たり前な社会になって初めて、アウティングは意味を成さなくなるのです。
 2月の東京地裁(一審)の判決は、遺族の訴えを棄却するという、残念なものでしたが、3月7日、遺族が控訴し、引き続き、大学側の対応に問題があったのではないかという点が審理されます(アウティングした学生とは和解が成立しています) 
 この裁判に関して、毎日新聞は「同じ悲劇を生まないために 同性愛「暴露」訴訟」という記事で、遺族や代理人(弁護士)に寄り添い、アウティングをめぐる現況とあるべき姿を描き出しており、東京新聞では<アウティングなき社会へ>という連載で、亡くなった学生とその遺族にスポットを当て、読者の共感を喚び起こしています(「アライ記事」とでも呼ぶべきものです。本当にありがたいです)

 2016年の一橋大アウティング裁判以降、裁判の関係者の方々や様々な当事者団体のみなさんが、世間にアウティングの深刻さについて啓蒙してきたおかげで、だんだん認知され、いろんなことが実を結んできています。
 例えば、野村ホールディングスは2016年からロールプレイング形式でLGBTのことを理解する研修を社員向けに実施していますが、アウティングを絶対にしないことを強調しているそうです。
 2017年、東京都文京区が教職員向けに作成したLGBTへの対応のガイドラインのなかでも、アウティングがプライバシー侵害であることが明記されました。
 2018年、一橋大学の校舎がある東京都国立市は、「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」という新たに作った条例の中で、日本で初めてアウティングの禁止を明記しました。
 2019年、弁護士ドットコムが運営する「BUSINESS LAWYERS」(企業法務に関わる方のための実務に役立つ企業法務ポータルサイト)の中に「アウティングとは何か、被害の重大性と会社の責任」という解説ページが設けられており、例えば会社で、ある社員からカミングアウトを受けた上司が、本人の承諾なくそれを他の社員にアウティングした場合、上司は「プライバシー権を侵害したものとして損害賠償責任を負う」し、会社も「当該上司の使用者として、アウティング被害を受けた社員に対して慰謝料等の損害賠償責任を負う可能性がある」「社員の性的指向にかかる情報を取得した場合には、当該情報を適切に管理する義務がある」と厳しく指摘しています。専門家である弁護士の見解として、これはとても重要な参照点となることでしょう。意義深いです。

 もし僕らが、学校や職場などでアウティングの被害に遭ったとしても、もう泣き寝入りする必要はありません。親身に相談に乗ってくれたり、味方として一緒に動いてくれたりする人や機関があるということを、忘れないでください。
 





LGBT暴露相談110件 アウティング被害深刻(共同通信)
https://this.kiji.is/486143511740908641

LGBT暴露相談、6年で110件 民間専用電話に(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43289410T00C19A4CR8000/

同僚のLGBT暴露、絶対ダメ 職場で育む「連帯」 (日経新聞)
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO41839140X20C19A2CC1001?channel=DF220420167262

同じ悲劇を生まないために 同性愛「暴露」訴訟(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20190307/k00/00m/040/250000c

<アウティングなき社会へ>(上)同性愛暴露され心に傷 転落死の男子学生「友人関係、苦しい」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021702000147.html

<アウティングなき社会へ>(中)「彼は昔の自分」命守る制度を 退職し活動に専念「社会を変える」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000109.html

<アウティングなき社会へ>(下)善かれと思っても「暴露」 「打ち明けられたら対話を」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021902000129.html

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